第515回:貧乏人は早く死ぬ
長いこと長寿国世界一を誇ってきた日本が、昨年香港に追い抜かました。香港の女性は87.32歳、日本女性は87.02歳で2位に落ちたのです。日本男児は80.79歳で4位でした。 香港を"国"として捉えるか、中国の一つの地域だとするかは、議論のあるところでしょうけど。
寿命とは別に、健康寿命というのがあります。これはちょっとモノサシの尺度が明確ではありませんが、元気で老後を楽しんでいる状態と言い切ってそう間違いではないでしょう。寝たきり老人、ボケ老人はそのような状態になった時点で、健康寿命が終わったとみなされます。恐ろしいことですが、日本女性の健康寿命は平均寿命より13年短い74歳で終わり、男性は9歳短い70歳だというのです。
言ってみれば、日本女性は死ぬまで13年の長い間、病院や自宅で寝たきり、もしくはボケボケで生かされていることになります。日本は、なかなか簡単に死なせてくれない医療システムを持っていることになるのでしょうか、それにしても"死ぬまで元気、コロッ、ポックリ死にたい"というのは夢また夢、そのような事態はまず起こりえないのです。
アメリカは大変な長寿の国です。ただし、それはお金持ち層に限って言えばのことです。JAMA(Journal of American
Medicine Association)によれば、富裕層が住む地域と貧しい人が住む地域、アメリカではセグリゲーション(segregation)*がかなり徹底していますから、地域を郡(カウンティー)ごとに色分けがクッキリとしていて、平均寿命の差は20年も開いているというのです。
収入の差が、どこに住むかに現れているのです。ミシシッピィー州のサルカウンティーとカルフォルニア、コロラドの高級住宅が集中しているカウンティーでは、地域医療、簡単に言えば良い病院の在るなし、予防医療が徹底しているかどうかには天と地ほど違いますし、お金持ち層はすばらしい健康保険に入っているのに対し、貧しい人はオバマケア(トランプ大統領に潰されそうですが)にすら加入しておらず、大病でもならない限り、病院の門をくぐることはありません。その違いが平均寿命になってこれほどはっきりと、大差になって現れてきていると言い切ってよいでしょう。
しかも、この20年という大きな差は毎年広がりつつあります。年々伸びているはずの平均寿命が逆に縮まっている州、ケンタッキー州があるほどで、貧富の差が広がりつつある今、平均寿命の差も開いていく傾向をはっきりと示しています。
一口に20年といいますが、80歳まで生きるのと60歳で死ぬのとでは、晩年の過ごし方がまったく違ってくると思うのは、私たち夫婦が二人ともその間の歳だからでしょうか。
日本のような国民健康保険、介護保険が国民全員に適応されている状態にいては、チョット想像できないことです。なにせ、アメリカでは保険証(すべて民間の営利会社)とクレジットカードを病院の窓口で提出しなければ、受け付けてもらえないのです。
お金持ち層は自分の健康管理にお金も時間もふんだんに使い、高い無農薬の自然食品を口にできますが、貧しい人たちはアメリカでベラボーに安い、プロセスしたパッケージ食品、冷凍食品ばかり食べますから、とんでもないデブが多くなり、不健康な体になってしまうでしょう。
この調査では、収入と平均寿命だけを地域別に比べたものですが、貧しい地域に住んでいる人はといえば、黒人、スペイン語を話す中南米からの移民が圧倒的に多いですから、もう一歩踏み込んで、人種別の平均寿命も明らかにしてもらいたかったと思います。
この貧乏人は早く死ぬ、死ね式のJAMAのレポートを読んでいたウチのダンナさん、「オイ、俺たちも立派な貧乏人カテゴリーに入っているから、もうそろそろ逝くかもしれんぞ」と大して心配も、気にもしていないように、ヒトゴトみたいに言っていました。
*segregation:不正を未然に防止するような組織設計を行うこと
第516回:大流行の人工関節手術
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