第511回:流行り歌に寄せて No.306 「あなたに夢中」~昭和48年(1973年)9月1日リリース
キャンディーズのレコード・デビュー曲である。彼女たちは、多くのタレントを輩出した東京音楽学院のスクールメイツのメンバー。東京音楽学院は、渡辺プロダクションの渡辺美佐が開設し、その中の優秀な生徒たちを集めて作られたのがスクールメイツである。だから、彼女たちの所属事務所は渡辺プロダクションであった。
レコードデビューの前年、昭和47年4月に始まったNHKの番組『歌のグランド・ショー』のマスコット・ガールとして三人が揃って抜擢される。しかし、この番組の中では、マスコット・ガールであるとは言え、椅子やマイク運びなどのアシスタント業務を地味にこなしている存在であった。
番組に出演してしばらく経った頃、たまたま東京音楽院を訪ねたナベプロの系列の渡辺音楽出版の社員、松崎澄夫が彼女たちに目を留め、担当者を買って出る。そして、彼がそれぞれの愛称を「ラン」「スー」「ミキ」と、親しみやすいものとして名づけ、歌手デビューをさせたのである。
メンバーは年齢順にー
伊藤蘭(ラン) 昭和30年(1955年)1月13日生れ。メンバー・カラーは赤。
藤村美樹(ミキ)昭和31年1月15日生れ。メンバー・カラーは黄。
田中好子(スー)昭和31年4月8日生れ、平成23年(2011年4月21日死去。メンバー・カラーは青。
三人は、ちょうど1学年ずつ違う。このデビュー曲『あなたに夢中』から『そよ風の口づけ』『危い土曜日』『なみだの季節』までは、リード・ヴォーカルはスー。今でいうセンターの立ち位置で、向かって左側がラン、右側がミキであった。
その後『年下の男の子』から、最後の曲『微笑がえし』までは、『わな』を除き、リード・ヴォーカルのセンターがラン、向かって左側がミキ、右側がスーとなった。ミキが唯一リード・ヴォーカルを務めた「わな」では、ミキがセンター、左側がスー、右側がランである。
このデビュー曲『あなたに夢中』は、3声和音のハーモニーが主体で、追いかけごっこをしているような、コーラス色が強い曲に仕上がっている。しっかりとしたコーラス・グループという位置付けをしたかったのだと感じる。先輩のスリー・グレイセスや、スリー・キャッツとは違い、アイドルとして売り出そうとしたことは確かだが…。
キャンディーズは、レコード・デビュー前から『8時だョ!全員集合』にもレギュラー出演していて、まだ大きなヒット曲はなかったが、少しずつ多くの人たちに知られる存在になっていった。
「あなたに夢中」 山上路夫:作詞 森田公一:作曲 竜崎孝路:編曲 キャンディーズ:歌
あなたが好き とっても好き
私はあなたの すべてに
いつも 夢中なの
こんな広い 世界の中
私が愛する 人なら
あなた ひとりだけ
心を ささげて この命 ささげて
私は 生きるの この愛に
あなたと二人
あなたがいて 私がいて
この世は回るの
二人の愛を 乗せながら
あなたのため 生まれたのよ
別れは来ないで すべてをかけて
夢中なの
愛よりもっと 強い言葉
私はほしいの あなたにそれを
告げたいの
若さを ささげて この涙 ささげて
私は 生きるの この愛に
あなたと二人
あなたがいて 私がいて
この世は回るの
二人の愛を 乗せながら
若さを ささげて この涙 ささげて
私は 生きるの この愛に
あなたと二人
あなたがいて 私がいて
この世は回るの
二人の愛を 乗せながら
まったく意識していなかったのだが、このコラムは3回続けて山上路夫と森田公一のコンビの作品になった。これだけでも、本当にこの当時はヒット曲を量産していた二人であることがよくわかるのである。
キャンディーズが、本格的なヒットを飛ばすようになったのは、ランをセンターに置いた『年下の男の子』からで、これは綿密な営業戦略から生まれたものだったようだ。
伊藤蘭の持つ色っぽさが男子学生に人気があることを分析したスタッフが、彼女をファンの憧れのお姉さんという位置付けでメイン・ヴォーカルに据えて、そのような曲を作って成功に結びついた。
(まったくの余談だが、当時のキャバレー『目黒クインビー』に伊藤蘭にそっくりな女性が働いていて、断トツのナンバーワンだと評判だった。私も一度訪れたかったが、ついに叶わなかった)
確かに『年下の男の子』以降の曲は、魅力的なライン・アップになっており、オリコンのベスト・テンにランク・インしている曲も多い。
それまでは、オリコン順位『あなたに夢中』(36位)『そよ風の口づけ』(39位)『危い土曜日』(46位)『なみだの季節』(40位)とあまり売れているとは言えない。
けれども、美しいハーモニーで、コーラス色が強いこれらの曲を気に入っているファンは決して少なくないだろう。私のまわりにも「スーちゃんが真ん中だったキャンディーズの方がよかったな」という人が何人かいる。彼女の声は、明るいキャラクターとは裏腹に哀愁を帯びていて、聴く者をしっとりさせる魅力があると思う。
その田中好子が亡くなってから、もう14年以上が経過した。世の中では、東日本大震災による東京電力福島第一発電所の事故の様子が連日報道されていた最中、他の二人のメンバーに看取られて、静かにこの世を去った。
最近は、伊藤蘭が各地でコンサートを行なっていて(一昨年はNHK紅白歌合戦に出場)、ソロ時代の曲だけではなく、キャンディーズの曲も披露しているようで、たいへん喜んでいる往年のファンも多いと聞くが、私は個人的にはあまり歌ってもらいたくないと思っている。
第512回:流行り歌に寄せて No.307「神田川」~昭和48年(1973年)9月20日リリース
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