■めだかのスイスイあまぞん日記~~ゆったり南米ブラジル暮らし

夏川めだか
(なつかわ・めだか)


仙台市広瀬川にて誕生。その後利根川、井の頭公園の池、ダブリンのギネスビール、多摩の浅川などを転々とし、さらなる新天地を求めて、ついに世界第一の流域を誇るアマゾン川へ流れ着く。



第1回:アマゾンでジャングル暮らし?
第2回:こんなとこに住んでいます。
第3回:ゆるゆるモードにはまる。
第4回:「おんな」を満喫!
ブラジル人女性。

第5回:漢字が流行ってます。
第6回:買い物もひと苦労?
第7回:選挙もお祭りなのね
第8回:アマゾンのサムライたち
第9回:市民の足は爆走バス
第10回:こんなものを食べてます-その1
第11回:音楽と騒音の境界線?
第12回:あやしいポルトガル語講座
第13回:さらにのんびり郊外暮らし
第14回:アマゾンのオタクな人びと
第15回:こんなものを食べてます-その2
第16回:子どもの共和国―その1
そもそもの始まり

第17回:子どもの共和国―その2
大切な居場所

第18回:ブラジル話あらかると
第19回:子どもの共和国―その3
年に1度の大廃品回収

第20回:夜の昼メロ? テレビドラマにはまる日々
第21回:アマゾンの中の日本
第22回:アマゾンの森を守る農業


■更新予定日:隔週木曜日

第23回:ブラジルの肌色はグラデーション

更新日2005/11/18


こんにちは、めだかです。

思い返してみれば、こちらに住んでいて外国人だからと言うことでイヤな目にあったり、不快な思いをしたことは一度もなかった。ブラジルは世界中から移民を受け入れてきた多民族・多人種国家で、ブラジル人と言っても一つのイメージがあるわけではなく、いろーんな人種、肌の人たちがごっちゃになって暮らしている。だからよその国から来た人間でもすんなり溶け込めてしまうのだろう。

多くの人が"人種のるつぼ"と聞いてすぐ思い浮かべのは米国かもしれないけれど、はっきり言って溶け具合(?)から言ったらブラジルの方が断然先を行っている。移民の国というだけではなく、混血がとても多いからだ。あるときブラジル紹介の本を見ていたら、扉の写真にずらーっと顔写真が並んでいて、その肌の色がまさにグラデーション状態になっているのに感動したことがあるくらい。

そしてまた来伯前に読みかじっていた知識で、「人種差別のない国ブラジル」というのもあったので、そうか、こんなに混ざっていたら人種がどうのこうのなんて言うこともないんだな、それは素晴らしい国だわと思っていた。が、実際はそんなに単純な話でもないようだった。

こちらに来てまだ日も浅い頃、交換授業でポルトガル語を教えてくれていた大学生の子に、何気なく、「ブラジルって人種差別がないんだってねー」と言ったことがあった。そうしたら、彼は即座に、「嘘だ~!」と日本語で叫んだのだ。え、嘘だったの? ときょとんとしていたら、いろいろと話をしてくれた。

たとえばアフリカ系の人は、企業の求人に応募する場合などに不利なことが多い。書類審査で通っても、もし同レベルに白人系の人がいたら面接で落とされたり、混血でもより肌の色が白っぽい方が有利だったりすることもあるという(なにそれ~)。また夜の道路で警察の検問が行われたりするとき、黒人系の人が車を止められる割合は白人系やアジア系よりもずっと多く、ふだんから警察の捜査対象にされる率も高いそうだ。

あるいは、こちらの高級マンションはエレベーターが住人用、使用人用と分かれている場合が多いけど、そこに暮らすアフリカ系の人が住人用エレベーターを利用していると、使用人と間違われて文句を言われたり、イヤな目に合うことがあるという。それってずいぶん失礼な話じゃない? 

こんな話を聞いてからは少し認識が変わってしまった。その後も知り合ったブラジル人に人種の話を聞いてみたけれど、差別が存在しないと言う人はいなかった。ブラジルはホンモノの"人種のるつぼ"を実現している国で、そんな問題なんてないのかと思っていたので、なんだ、やっぱりそういうことがあるのか…とちょっとがっかりしてしまった。

「ブラジルの差別は人種ではなく、貧富の差によるものだ」という説もあるらしいけれど、これがまたクセ者だという。だって貧富の差と人種の違いがわかりやすいくらい対応しているんだもの。つまり、富者層を頂点とするピラミッドを描いてみれば、上位には肌色の白い層がいて、下位の方には白くない層がいるというのが現実なのだという。実はそれについてはワタシにも実感がある。

NGO団体「エマウス」に、ある日私立学校の生徒たちが見学に来たことがあった。お金持ちの学校らしく、身につけているものも高級そうで、当地では超高価なデジカメ持参の子もちらほらいた。でも何より印象的だったのは、数十人の生徒がほぼ全員ヨーロッパ系の顔をしていたこと。黒人の子は一人もいなくて、混血の子が一人いるだけ。反対に、貧しい家庭の子が通ってくるエマウスでは、大半がアフリカ系やインヂオ(先住民)の混血の子たちだ。

他にもある。ブラジルではすごいお金持ちでなくても、そこそこ裕福な家では、住み込みか通いのメイドさんを雇っていることが多い。そういう部類に入る知り合いや友人の家に遊びに行ったりすると、当然メイドさんの姿も見かけるのだけど、たいていアフリカ系かインヂオの人たちなのだ。それがもう当たり前みたいな光景になってるっていうのも何だかなぁと思ってしまう。

ブラジルで奴隷制が廃止されたのは今から117年前(意外にも米国より20年以上も遅い)。日本で言えば明治21年だから、そんなに大昔というわけでもない。それに奴隷制が廃止されたと言っても、何もない状態で放り出され、スタートラインから支配層とはうんと大きな差がついていて、その名残りが今もまだ続いているみたいだ。もちろん単純に決めつけられる話ではないけれど、平等な機会も得られず、社会的に低い地位に置かれたままの層が多いとしたら、それはひどい話だよなと思う。

エマウスのスタッフには、人種問題についての活動をしている人もいて、よく話を聞くことがあるのだけど、米国のように表立った差別があった国では、人々の意識も高く、抵抗運動も激しく行なわれきたけれど、ブラジルは差別が見えにくいためにかえってやっかいなことになっているという。たしかにここでは厳しい人種間の緊張というものは見られない。だから、人種問題なんて存在しないのかなと思ってしまいそうになるが、差別を受けている人たちがいるのは残念ながら現実なのだ。

外国人でも誰に対してもこんなにオープンで親切な人たちの住むこの国に、しょーもない差別や偏見が存在するのはすごくもったいないと思う。せっかく世界中から人を受け入れ、仲良く暮らしているのに。でもブラジルならきっといつかそんなものは乗り越えて、本当の意味での人種のるつぼになってくれるんじゃないかなぁと期待している。

それにしても、いまだに鎖国してんの? と言いたくなるような母国のことを考えるとちょっとブルーになる。外国人というだけで犯罪者か犯罪予備軍のように見なしたり、「外国人お断り」なんて張り紙を堂々と掲示したり…。人とちょっと違っていたりするだけで、すぐ排除したり、イジメたがる気質は何とかならないかしら。

もう少し「みんなちがってみんないい(by金子みすず)」ってな方向に変わっていけたらいいのにね。だってその方がブラジルみたいにずっとラクに呼吸ができると思うもの…。


ベレンのまぶだちです。
かわいい絵柄のコアラのマーチに大喜び。

 

第24回:またね、アマゾン!【最終回】