■めだかのスイスイあまぞん日記~~ゆったり南米ブラジル暮らし

夏川めだか
(なつかわ・めだか)


仙台市広瀬川にて誕生。その後利根川、井の頭公園の池、ダブリンのギネスビール、多摩の浅川などを転々とし、さらなる新天地を求めて、ついに世界第一の流域を誇るアマゾン川へ流れ着く。



第1回:アマゾンでジャングル暮らし?
第2回:こんなとこに住んでいます。
第3回:ゆるゆるモードにはまる。
第4回:「おんな」を満喫!
ブラジル人女性。

第5回:漢字が流行ってます。
第6回:買い物もひと苦労?
第7回:選挙もお祭りなのね
第8回:アマゾンのサムライたち
第9回:市民の足は爆走バス
第10回:こんなものを食べてます-その1
第11回:音楽と騒音の境界線?
第12回:あやしいポルトガル語講座
第13回:さらにのんびり郊外暮らし
第14回:アマゾンのオタクな人びと
第15回:こんなものを食べてます-その2
第16回:子どもの共和国―その1
そもそもの始まり

第17回:子どもの共和国―その2
大切な居場所

第18回:ブラジル話あらかると
第19回:子どもの共和国―その3
年に1度の大廃品回収

第20回:夜の昼メロ? テレビドラマにはまる日々
第21回:アマゾンの中の日本
第22回:アマゾンの森を守る農業
第23回:ブラジルの肌色はグラデーション


■更新予定日:隔週木曜日

第24回:またね、アマゾン! 【最終回】

更新日2006/01/26


こんにちは、めだかです。

ほぼ赤道直下、熱帯アマゾンの地から、極寒の日本に帰って来た。帰国の時期は前から決まってたのだけれど、何もこんなに気温が低くて、記録的大雪の冬にならなくてもいいじゃないかーと寒気団にでも八つ当たりしたくなるような寒さに凍える毎日だ。ついこの間までノースリーブ、短パンにサンダル履きで、扇風機を回しながら、汗をかきかき暮らしていた身にいきなりのこの寒さは厳しすぎる。

アマゾンではずいぶんとカルチャーショックを受けたけれど、今度は久しぶりの故郷でいろんなことが新鮮に見えたり、妙に感じられたりしている。たとえば、鉄格子も南京錠もついてない実家の無防備さに驚いたり、時刻表通りにちゃんと来て、乗車拒否も故障もないバスに感心したり、電車が数分遅れただけで平謝りする車掌さんに逆にこっちが恐縮したり…。

あるいは、トイレでトイレットペーパーを捨てる箱を探して「あ、そうか、流していいんだっけ」と気づいたり、街行くカラス天狗?みたいなマスク姿におののいたり(コワイです)、テレビのニュースが時報と共に始まるのに感動したりしている。きっと少しすればまた慣れてしまうのだろうけれど、今はこの逆カルチャーショックみたいな状態が面白い。

ダブルクリックで拡大
土曜日によく買い物に行っていた市場。
魚も豚肉も新鮮で美味しかった。

それにしても、まだ帰国して何日も経たないというのに、すでにアマゾンが恋しくなっている。何よりサウダージ(saudade「郷愁」)なのは、うだるような暑さと湿気とスコールだ。渡伯前は、赤道直下のアマゾンなんかでちゃんと暮らしていけるのかしら? なんて心配していたのにもうすっかり熱帯仕様の人間になったみたい。

カァーッという音が聞こえてきそうなくらい強い太陽光線とちょっと動いただけでダラダラ流れ出す汗。慣れてくるとあの暑さと湿気がホントに気持ちいいのだ。そして毎日ザバーッと威勢よく降るスコールと雨上がりのさっぱり感も忘れられない。カサカサに乾いたこんなに寒い季節に戻ってきたので、余計に恋しいのかもしれないけれど…。

そう言えば、毎日欠かさず見ていたノヴェーラ(連続ドラマ)はどうなってるだろう。敵役クリスチーナ母娘の悪巧みはどこまでエスカレートしているのかしら、セレーナとハファエルの愛の行方は…。ああ、その後の展開が知りたい。最初は濃くて鬱陶しいと思っていたノヴェーラも、一度ハマってしまうと続きが気になって仕方がなくなるのだ。しばらくは禁断症状にもだえそう。

エマウスの子たちは元気にしてるかな、また歌ったり踊ったりしながら楽しく過ごしているといいな。隣の薬局のおじさんはいつものように冗談を言いながら、大声で笑ってるんだろうな。広場で行きつけのフライドポテトの屋台は今夜も行列ができてるかな。アニメオタクの友だちは今度のコスプレで何を着るのかもう決めたのかな…。あんなにいつも顔を合わせていたのに、今はもう地球のこちら側と向こう側に離れているなんてなんだかまだ全然ピンとこない。

ベレンを発つ日には、友人やエマウスの子たちが空港まで見送りに来てくれた。いつものようにワイワイと楽しくおしゃべりしながら出発時刻を待っていたのだけれど、いよいよ出発ゲートに入るときになって、涙と鼻水がどーっと流れてきてしまった。ほぼ2年前、ベレンの空港にひとり降り立ったときには、こんな気持ちで、こんなににぎにぎしくこの地を発つことになるなんて想像もしていなかった。別れ際、ただもうひたすら「ありがとう、また会おうね、きっと戻ってくるよ」という言葉を繰り返し、アマゾンの地を後にした。

ダブルクリックで拡大
熱帯雨林の緑の濃さも恋しい。
アマゾンは空気も濃いと思う。

"ブラジル前"と"ブラジル後"とでは、ちょっと違う自分になったような気がする。日に焼けてさらに色黒になったとか、少々シワが増えたとかいう外見の変化はともかく、ものの見方や考え方も少し変わったんじゃないかなー。そうそう、ブラジル暮らしですごく心に残っている言葉がある。何かでうまく行かないことがあって、煮詰まってしまい、どうしよう~とあれこれと悩んでいたときにブラジル人の友人がメールで送ってくれた言葉だ。

それは、"No fim, tudo da certo. Se nao deu, e porque ainda nao chegou ao fim!"というある作家の言葉で、訳してみるとこんな意味になる。
「最後にはみんなうまく行くよ。もしうまく行かなかったなら、それはまだ終わりじゃないってことだよ!」。

メールでこの言葉を読んだときは思わず笑ってしまった。でも笑った後に、ふざけているようで、いいこと言ってるよなぁとしみじみした。そしてすーっと気持ちがラクになった。

何かに行き詰まったり、失敗したりすると、すぐ落ち込んだり、悲壮感を漂わせたりしてしまうけど、ブラジルの人たちはそんなときでも、いつも「何とかなるよ」、「大丈夫だよ」と言って笑って、かりかりせずに大きく構えている。そんな彼らの姿には何度も救われてきた。あの底抜けに明るいラテンのノリはなかなか身につけられそうにないけれど、この「何とかなるよ」精神はぜひ自分のものにしたいな。友人が教えてくれたこの言葉はブラジルで得られた大事な宝物のひとつになった。

ダブルクリックで拡大
誕生日に友だちが焼いてくれためだかケーキ。
ものすごーく嬉しかった。

この2年で、とりあえずアマゾンで暮らせたんだから、まぁどんなとこでもやっていけるんじゃないかな、なんていう妙な自信がついたのはよかった。寒くさえなければ(これが大事だけど)、ハンモックでどこででも寝られるし、何だって食べられるし。言葉だって最初は大変だけど、地道にやってればいつかは(怪しいながらも)通じるようになるし、驚いてしまうような習慣とか風習だって、けっこう慣れてしまうものだし…。

ところで、もしかしていつの日か、何かの理由で日本にいられなくなることが起きたとしたら(日本沈没とか?)、新しい住処として選ぶのはきっとブラジルだと思う。これは確信を持って言える。しかもサンパウロとかリオとかじゃなくて、やっぱりあの暑~いアマゾンだろうな。とにかくどんな人間でも受け入れてくれそうな懐の深さがあるし、それにお金がなくても、どうやってでも生きていけそうな気がする。

少し前までほとんど興味も関心も接点もなかったブラジル、そしてアマゾンが、今では第二の故郷と呼びたくなるような懐かしい、大切な場所になってしまった。考えてみるとこれはすごいことだ。こんな風に"故郷"が地球上にどんどんが増えていったら、生きていくのがどんどん面白くなりそうだ。次はどこが新しい"故郷"になるのかなぁ…。なんて楽しい空想をしつつ、体内時計はアマゾン時間のまま、相変わらずゆるゆると漂っている毎日です。

ダブルクリックで拡大
アマゾンの川に沈む夕日を眺めつつ、
地ビールを飲むのは最高のゼイタク♪

 

バックナンバー