■めだかのスイスイあまぞん日記~~ゆったり南米ブラジル暮らし

夏川めだか
(なつかわ・めだか)


仙台市広瀬川にて誕生。その後利根川、井の頭公園の池、ダブリンのギネスビール、多摩の浅川などを転々とし、さらなる新天地を求めて、ついに世界第一の流域を誇るアマゾン川へ流れ着く。



第1回:アマゾンでジャングル暮らし?
第2回:こんなとこに住んでいます。
第3回:ゆるゆるモードにはまる。
第4回:「おんな」を満喫!
ブラジル人女性。

第5回:漢字が流行ってます。
第6回:買い物もひと苦労?
第7回:選挙もお祭りなのね
第8回:アマゾンのサムライたち
第9回:市民の足は爆走バス
第10回:こんなものを食べてます-その1
第11回:音楽と騒音の境界線?
第12回:あやしいポルトガル語講座
第13回:さらにのんびり郊外暮らし
第14回:アマゾンのオタクな人びと
第15回:こんなものを食べてます-その2
第16回:子どもの共和国―その1
そもそもの始まり

第17回:子どもの共和国―その2
大切な居場所

第18回:ブラジル話あらかると
第19回:子どもの共和国―その3
年に1度の大廃品回収

第20回:夜の昼メロ? テレビドラマにはまる日々
第21回:アマゾンの中の日本


■更新予定日:隔週木曜日

第22回:アマゾンの森を守る農業

更新日2005/10/27


こんにちは、めだかです。

先日、ベレンからバスで5時間(途中の川はバスごと船で渡る)のところにあるアマゾン奥地のトメアスーという町に行ってきた。ここは北伯で最も古い日本人移住地で、今では「アグロフォレストリー」という農法を実践していることで有名だ。名称だけは前から知っていたけれど、今回実際に説明を聞きながら農園を見せてもらい、どんなものなのか理解することができた。それがもう目からウロコというか、いやー本当に面白かった。

向こうではとても親切な日系二世の農協の方が(流暢な日本語で)案内してくれることになった。町の中心から車に乗り、十数分走って「さあ、こちらです」と降ろされたのは、ぱっと見た感じはまるで森のようなところ。ここが畑? と頭にはクエスチョンマーク。そう、アグロフォレストリーとはその名の通り、農業と林業を組み合わせた農法なのだ。ここではカカオ、バナナ、アセロラ、グラビオーラ、ムルシーなどの熱帯果物や胡椒、それにマホガニーなどの樹木が一緒になって植えられていた。


森のような農園。
樹木の木蔭にカカオがすくすく育っている。

トメアスーはその昔、胡椒栽培で大成功を収め、かなり景気のいい時期があったのだけれど、単一栽培に偏っていたので、胡椒の病気が流行った時に畑が全滅してしまったそうだ。その時の反省をもとに、農家の人たちが長年みんなで知恵を出し合いながら模索し続け、樹木と多種類の作物を混植する農法、アグロフォレストリーを行なうようになったという。

混植の利点はいろいろある。例えばある木につく害虫Aが隣に植えた果物の害虫Bの天敵ということになれば、害虫Bは淘汰され、木の方がだめになっても隣の果物は生き残れる。あるいは、短期間で育つ木を植え、その木陰に日なたを嫌うカカオなどを植えるとうまく育つとか、バナナの木の隣にカカオを植えると他の場所よりずっと元気に育つとかいった相乗効果があるそうだ。また木が生えていることで、枯葉が腐葉土となって土地を豊かにし、作物の成長を助けてくれる。

それに混植している農園では、こっちの作物の収穫は1年後、そっちのは2年後、周りに植えた木は数年後、という具合にいつでも何かが収穫できるので、経済的にも安定する。まるで農園の中に一つの小宇宙ができているみたいで、その中でうまい具合に循環している。だから土地の生産力も下がることがなく、ずっと同じ場所で農業を続けることができ、新たに原生林を伐採して畑を広げる必要もない。つまり自然をちゃんと守りながら、きちんと農業として成り立たせていく画期的な農法なのだ。


すっぱいけどとても美味しいアセロラの実。

自然環境と共存しながらの農法は、アマゾンでは先住民のインヂオが昔から行なっていて、単一栽培で行き詰まった日系人農家がそれを参考にして現在のような形を作り上げたのだという。とにかくアグロフォレストリーを実践している人からさまざまな農作物を見せてもらいながらの説明だからすごく説得力があり、話を聞いているだけでワクワクした。案内してくれた方も、「この農法はとても面白いですよ。今度はここにこれを植えてみよう、これとこれを合わせたらどうだろうか、といろいろ工夫して実践していく楽しみがあって飽きません」と言っていた。

ところで、実は現在トメアスーは製材業が中心になっていて、全産業の7割を占めているという。たしかに車で走っていると、至るところに製材所があり、切り出された大木を運ぶ大型トラックが何台も行き交っていた。アマゾンの熱帯雨林の中に位置する町だから周りに木はいくらでもあるけれど、ずっと切り続けてきたので今では近郊には伐採できる木がなくなり、ずいぶん奥地まで行かなければならないらしい。


伐採された木々がゴロゴロしている製材所。

そして木を切った後の土地は牧草地にするのだという。そう言えば広々とした牧草地をよく見かけた。でも牧草地も数年で土地が痩せ、牛が食べる草も生えなくなってしまう。その後どうするかと言えば、痩せた土地を捨て、また新たな土地を求めて移動するのだそうだ。それって森林を破壊し続けてるだけってことじゃないの? と思っていたら、助手席の方から、「言ってみればあれはドロボウみたいなもんですよ。木を切りっぱなしで、その後再生させるわけでもないし…」というつぶやきが聞こえてきた。

製材業のように大きいお金は動かないけれど、アグロフォレストリーをやっていけば、同じ土地で永久的に作物を採り続けることができ、食べるのに困らない生活は維持していけるという。しかも自然環境を守りつつ、自分たちのやっている農業に楽しみとやりがいを感じながら暮らせるなんてとても魅力的だなぁと思う。今トメアスーにはこの農法を学ぶために世界中から人がやって来るそうだ。

正直言って今まで特に農業や林業に興味をもったこともなかったけれど、アグロフォレストリーにはすっかり魅せられてしまった。アマゾンに住むようになって、熱帯雨林破壊の現実を前よりずっと身近に感じるようになっていたので、森林を守りながらの農法に強い印象を受けたのかもしれない。でも、実は日本だって国土の7割近くは森林なのだし、昔から里山を大事にする暮らしもあったのだ。アマゾンに来るまでそんなこともちゃんと考えたことがなかったなんて情けない話だけど、ともかくすっかり目覚めてしまったワタシは、帰国後は里山暮らしもいいなぁなんて夢のようなことを考えているこの頃です。


アマゾンの歴史をずっと見守ってきた大木。

 

 

第23回:ブラジルの肌色はグラデーション