第55回:西部劇名作選 番外編 No.21
アーサー・ペン監督、ダスティン・ホフマン主演 『小さな巨人』(原題: Little Big Man;1970年)
“西部劇名作選 ベスト20”として始めたはずだが、これだけは名作選に入れおきたいのが出てきた。その筆頭が『小さな巨人(Little Big Man)』だ。これは西部劇の範疇を超えた名作映画だと思う。
全滅したカスター将軍の第7奇兵隊に生き残った兵隊がいた、という設定は珍しくない。英国のミステリー作家フレデリック・フォーサイスもたった一人奇跡的に生き残った白人兵士の物語を“Whisparing Wind”(邦題:時をこえる風)で書いている。誰も知らないだろうけど、実のところ一人だけ生き残っていたのだという話は、作家の創作意欲を刺激するのだろうか…。
この『小さな巨人(リトル・ビッグ・マン)』もトーマス・バーガー(Thomas Berger)の小説に魅せられたアーサー・ペン(Arther Penn)が撮った。しかも、主演が凡そ西部劇には似つかわしくないダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman)、共演も個性派ではあるが決して典型的な西部のサローンにたむろする肉体派ではないフェイ・ダナウェイ(Faye Dunaway)で、監督、キャストを見ただけで、これで一体西部劇が成り立つのか…と思わせる。
タイトルからしてカスター将軍が全滅した場所、リトル・ビッグ・ホーンをもじり“リトル・ビッグ・マン”としているのだ。そして幕開けに121歳になった主人公のジャック・クラブがラジオの録音スタジオに登場し、大きなリールが付いたテープレコーダーに彼の生涯を語り、録音するという設定で話が始まる。この死神みたいな老人もダスティン・ホフマンが演じている。老人の嗄(シワガ)れた声を出すため、録音前に数時間外に出て大声で叫びまくり喉を枯らしたという。この幕開けからして、これはお伽話か、そうでなければホラ吹き男爵のお話だと受け入れる準備をしなければならない。

このポスターから想像する映画からはおよそかけ離れた内容の西部劇だ。
マア、ポスターがどれだけ集客に効果があるかは全く別の問題だが…
中高時代に風呂屋に貼ってあった映画ポスターには大いに心動かされた。
ジャックは10歳の時、家族とともに西へ向かう途中で幌馬車隊がインディアンに襲われ、危うい命を姉のキャロラインと共にシャイアン族の戦士によって救われ、酋長のオールド・ロッジ・スキンズに我が子のように育てられる。ジャックは体が小さく、いつまで経っても勇猛な戦士の体躯にならなかったが、勇気だけは人並み以上に持っていたところから、リトル・ビッグ・マンと呼ばれるようになった。
そんなリトル・ビッグ・マンの目を通して、数奇な運命に弄ばれた小男の物語は進んでいく。幾度となく騎兵隊の残虐な殺戮を目にし、彼自身の妻と子供も虐殺されたりで、反米、反騎兵隊意識に目覚めていくあたり、当時(映画公開は1970年)のベトナム反戦運動への共感が見て取れる。だがこの映画は、露骨な、直接的な反戦を謳っているわけではない。ましてや、インディアン社会を理想化しているわけでもない。半ばコミカルに西部史上最悪の事件(白人にとって)、カスター将軍が率いる第7騎兵隊全滅へと話を進めていく。
リトル・ビッグ・マン=ジャックは、カスター将軍の知古を得ていたのと、シャイアン族の事情に明るいのとで第7騎兵隊の斥候になった。ジャックは故意にシャイアン族の大群が待ち伏せしている谷へ騎兵隊を導き、絶滅を図ったというのが大筋で、サイドラインにワイルド・ビル・ヒコックが登場したり、西部の町を徘徊していた怪しげな物売り、この場合は蛇の脂、多分にガマの脂に似ているのだろうか? の売り子をしたり、突如ガンスリンガーになったり、罠師になったりで西部伝説をたくさん詰め込んでいる。よって、実録、史実から大きく外れているが、それだけに事件の核心を突いているとも言える。
この映画は反戦を前面に押し出したモノではないが、数奇な運命を辿った小男が運命に翻弄されながら、最後にカスター将軍の第7騎兵隊を絶滅に追いやる秀抜なストーリーをコミカルに描いている。それが、騎兵隊の残虐なインディアン虐殺をより鮮やかに浮かび上がらせる。インディアン社会を理想化しすぎ、逆に騎兵隊を残虐な集団、悪者にするリバース・ステレオタイプにしすぎるきらいがあるにはあるが…。
監督のアーサー・ペンはヘレン・ケラーをモデルにした『奇跡の人』、ビリー・ザ・キッドを主人公にした『左利きの拳銃』(ポール・ニューマンがキッドを演じた)、それになんと言っても名作『ボニー・アンド・クライド』(邦題:『俺たちに明日はない』)を撮った名監督だ。
シャイアン族の酋長を演じたチーフ・ダン・ジョージはゴールデン・グローブやアカデミー賞など、数多くの助演男優賞にノミネートされた。ダスティン・ホフマンは英国のアカデミー主演男優賞の候補になっている。

チーフ・ダン・ジョージ(Chief Dan George)
|

ダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman)
|
インディアンの娘でリトル・ビッグ・マンの妻サンシャインを演じた女優エイミー・エックルズ(Aimee Eccles)は中国系イギリス人で、シャイアン族、スー族はおろか一滴のインディアンの血も入っていないと、頓珍漢な批評がインディアン側からあった。これは滑稽な話で、映画は作りごとの世界だということを忘れているのだろう。しかしながら、この映画は評論家の間でおおむね好評で、ボックスオフィスの売り上げは製作費の倍になっている。とても大当たり、稼ぎ頭だとは言えないが、ともかく興行的に成功した。
西部劇ファン必見と大上段に構える作品ではないが、アーサー・ペン監督の演出、そしてダスティン・ホフマンの熱演だけでも見応えが十分ある。
-…つづく
第56回:西部劇名作選 番外編 No.22
|