第53回:西部劇名作選 ベスト20 No.19
ジョン・フォード監督『荒野の決闘』(原題:Oh My Darling Clementine;1946年)
一体全体“OK牧場の決闘”を題材に何本の映画が作られているのだろう。ワイアット・アープがクラントン一家と対決する大筋は同じだが、様々なヴァリエーションをもうけ、劇的な決闘シーンが繰り広げられる。場所が“ツムストーン”(墓石)という名の鉱山町で、名前からして劇的ではないか。
元本はスチュワート・レイクがワイアット・アープから聞き書きしたという『Fronthier Marshal』(国境の保安官)で、自己顕示欲が異常に強く、ホラを吹きたがるワイアット・アープ自身が語ったハナシだから、もちろん史実とはかけ離れている。それを最初に映画化したのが1934年、2作目は1939年に作られ、3作目はジョン・フォードがヘンリー・フォンダ、ビクター・マチュアで『愛しのクレメンタイン』(邦題『荒野の決闘』)、戦後間もない1946年に撮られた。
それからもジョン・スタージェス1957年に『OK牧場の決闘』をバート・ランカスター、カーク・ダグラスで撮り、それからも、有名なところで、ケヴィン・コスナーが製作、主演した『ワイアット・アープ』、ほかにも2018年に『ワイアット・アープ Shoots First』、カート・ラッセルの『ツムストーン』が主なところだろうか。その他にも、テレビシリーズも加えれば20本近くになるのではないだろうか。
どこの国の人でも、民族でも、英雄を持ちたがる。アメリカ西部開拓史でも若きルイスとクラーク、デイビー・クロケット、アウトローと保安官ではジェッシー・ジェイムス、そしてワイアット・アープが代表格だろうか。
とりわけアウトロー史においては実像からかけ離れた虚像が先行する傾向がある。そして、人は作られた英雄、自分が信じたいイメージの方を作り上げていく。
ここで、西部劇という大人のお伽話の中でのことだから、事実と異なるとメクジラを立てる方がどうかしている。面白く退屈せずに観、感動させるならそれで良いではないかとさえ言い切ることができる。

ジョン・フォード監督『荒野の決闘』
(原題:Oh My Darling Clementine;1946年)
このポスターではまるで酒場の女給が主人公のようだ
タイトルになっている“クレメンタイン”は顔写真も出ていない
ジョン・フォードが1946年に撮った『荒野の決闘』(英題:My darling Clementine)は古典的名作だが、頭から史実を完全に無視している。だからこそ話の展開、登場人物の肉付けが豊かで、詩情あふれる映画に仕上がっているとも言える。西部劇はドキュメンタリー映画ではないのだ。
第一、ロケ地はジョン・フォードお気に入りのモニュメント・ヴァリーで、そこにツムストーンの町を建てている。その上、背景の随所にモニュメント・ヴァリーが現れ、ヘンリー・フォンダ演ずるワイアット・アープがクレメンタインに別れを告げ、馬に跨りトロットで去る名場面でも、真っ直ぐな一本道がとんがった奇岩に向かい砂漠の中を走っている、その一本道の消失点に記念碑、オベリスクのようなにモニュメントがそびえているという詩情溢れるエンデイングになっているのだ。
ジョン・フォードは俳優を上手く使う、俳優の持つ特性を見抜き、それを映画に生かすのだろう。それがヘンリー・フォンダを使った名作『怒りのぶどう』に繋がっていく。
OKコラール、“Corral”は家の裏庭、中庭などに家畜を囲い込む狭いスペースを意味する。日本語訳では“牧場”としているが、どうにもほかに訳しようがなかったのだろう。
ジョン・フォードはモニュメント・ヴァリーを背景にした広い牧場の入り口、ゲイトに2本の柱を立て、その上に橋渡しするように、“OK Corral”と横看板を渡している。もちろん、ツムストーンにある実際のOK Corralは車5、6台が入れば一杯になるような狭いところだ。
今、ツムストーンに押し寄せる観光客は、一様にエッ? こんな狭いところで、かの有名な決闘があったの? と失望する。それは、ビルの間に埋もれるようにかろうじて建っている札幌の時計台に似ている。もっとも、ツムストーンの町自体が再建されたもので、決闘があった時代からあるのは、町外れの墓場だけだが…。
ジョン・フォード、ヘンリー・フォンダ版の“OK牧場”は活劇というより、舞台をツムストーンに借り、登場人物をワイアット・アープ、ドク・ホリデーにした西部の淡いロマンスだ。
原題も『My Darling Clementine』(愛しのクレメンタイン)で、西部史上最も有名なガンファイトであるアープ兄弟とクラントン一家の対決を純情可憐な乙女クレメンタインの陰に押しやっている。
そこへいくと1957年に撮られたジョン・スタージェス監督、バート・ランカスター、カーク・ダグラス主演の『OK牧場の決闘』は、徹底した娯楽映画、活劇で、女性は娼婦や賭博女子?として登場するが、あくまで男の物語である。それまでも緊張感溢れるアクション・ムービーを撮ってきたジョン・スタージェスは、この『OK牧場の決闘』以降、『ガンヒルの決闘』 そして『荒野の七人』『大脱走』などのヒット作を撮っている。
ジョン・スタージェスは『OK牧場の決闘』を10年後の1967年に、より史実に沿った『墓石と決闘』として撮り直している。こちらの方は全くヒットしなかった。
1957年版は大ヒットした。デミトリイ・テオムキン作曲、フランキー・レインが歌ったテーマソングもヒットした。そこへいくと『荒野の決闘』のオオ、マイダーリン、クレメンタインは、日本の雪山賛歌のメロディーに借用された程度にしか知られなかった。
雪山賛歌は旧京都帝大の山岳部が西堀栄三郎を中心に額を寄せ合い、古いアメリカ民謡に歌詞をつけたものだ。私自身、小学校に上がる前、オオ、マイダーリンを「お前、誰……お前、誰…」と歌っていた。

ジョン・スタージェス監督『OK牧場の決闘』
(原題:Gunfight at the O.K. Corral;1957年)のポスター
ワイアット・アープはバート・ランカスター
ドク・ホリデーはカーク・ダグラスが演じた
数あるワイアット・アープもので、ケヴィン・コスナーが製作に携わり、主演した1994年の作品は最悪作品賞こそ逃したが、ケヴィン・コスナーは最悪主演賞を受賞したほど、最低な映画だった。これがダンス・ウイズ・ウルブスを作った同じケヴィン・コスナーの作品か?と言いたくなるほどの出来だ。
余程時間を持て余しているなら、ケヴィン・コスナーのファンなら、一人相撲を観る覚悟で、時間を潰すつもりなら…それでも一見の価値は…ないと独断する。
1993年に公開された『ツムストーン』は、カート・ラッセル、ヴァル・キルマー、チャールストン・ヘストンがチョイ役で応援したり、ロバート・ミッチャムがナレーターとして出ている鳴り物入りの作品だが、アクション場面が多い(多過ぎる)割りには緊張感に欠ける。いかにも肺結核に冒された青白い顔のドク・ホリデーを演ずるヴァル・キルマーだけが光っている。
『OK牧場の決闘』、『ツムストーン』は、西部劇の伝説として生き残っていくのだろう。
-…つづく
第54回:西部劇名作選 ベスト20 No.20
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