第54回:西部劇名作選 ベスト20 No.20
セルジオ・レオーネ監督『ウエスタン』(原題: Once Upon a Time in the West;1968年)
Once Upon a Time~~~というフレーズ、決まり文句は、日本のお伽話の始まり「昔々、あるとこに、~~がおりました……」に当たるだろうか。サーテ、これから面白いお伽話が始まるぞ…と期待を抱かせる導入部になる。
この映画は一世を風靡したマカロニ・ウエスタン(アメリカではスパゲティ・ウエスタンと呼ばれている)を作ったセルジオ・レオーネ監督がもう西部劇は撮らないと宣言した後、パラマウントが企画を持ち込み、ヘンリー・フォンダを送るからもう一作西部劇を撮らないかと持ちかけたものだそうだ。
公開されたのは1968年で、イタリア版はほぼ3時間(171分)で、アメリカ版は30分縮めて、それでも140分という尻が痛くなる長さで、インターナショナル版(おそらく日本で公開されたのはこれだと思われる)が165分で、途中でインターミッションでも入れなければ、とても一気に上映できる長さではない。
しかも起承転結のはっきりしている西部劇でのことなのだ。その上、セリフが極端に少なく、アレッ? DVDの音声が壊れたのかなとまで思わせる、まるで無声映画のような撮り方なのだ。セルフだけを抜き書きしたシナリオはたったの15ページだったそうだ。
その代わり、役者の表情を大写しにした場面が多用される。
『ウエスタン』はマカロニ・ウエスタンの集大成と呼んでも良いと思う。ストーリー、シナリオを書く段階で、ベルナルド・ベルトリッチ(『ラスト・エンペラー』の監督)を加え、音楽はもちろんエンリオ・モリコーネ、中心に絶頂期のクラウディア・カルディナーレ(ピエトロ・ジェルミ監督の『刑事』のラストシーン、泣き叫びながら走る姿が長く網膜に焼きついた)、ヨーロッパで人気ナンバーワンだったチャールス・ブロンソン、そして敵役、悪役に大スター、ヘンリー・フォンダを据える布陣なのだ。

Charles Bronson(チャールズ・ブロンソン)
ジョン・フォードに心酔していたセルジオ・レオーネは、鉄道が来ている町“フラグストーン”から開拓部落の“スイートウォーター”までの馬車の行程に、ワザワザ、モニュメント・ヴァリーを通らせている。主なロケはスペインはアルメリア郊外の荒地で行われたが、うまくモニュメント・ヴァリーのシーンとブレンドされていて、アメリカ西部の砂漠、荒野の雰囲気を醸し出している。
導入部からして極めてユニークだ。三人の悪人ズラをした男らが汽車の到着を待っている。しかも、揃いも揃って日に焼け、無精髭を生やした絵に描いたような悪漢ズラなのだ。ボス格の一人が列車を待ちあぐねて、ウトウトしている時、一匹のハエが彼の顔に、唇にまとわりつく、そのシーンが延々と続くのだ。
しつこいハエほど、人をイラつかせるモノはない。そのハエが壁に止まった時、悪漢はやにわにリボルヴァーを抜き、その銃口でピタリとハエを押さえたのだ。そんなシーンが列車到着まで長々と続くのだ。その間、もちろんセリフは全くない。
やっと機関車が到着し三人の悪漢が身構えていたところ、列車から降りた乗客は少なく、しかも目的の人物はおらず、汽車は湯煙を上げて走り去る。ところが、走り去った列車の向こう側、湯煙の中に一人のガンマンが立っていた。しかも、テーマソングをハーモニカで吹き奏でながら……という典型的なマカロニ・ウエスタンの幕開けだ。
その男の名は“ハーモニカ”という人を食った通称で、演じるはチャールス・ブロンソン、長いイントロが終わり、いきなり三対一の決闘になる。もちろん、主人公たるチャールス・ブロンソンが勝つ。主人公は決してハナから殺されたりしないのだ。
このシーンだけに登場する三悪人に、セルジオ・レオーネは自分のマカロニ・ウエスタンの常連クリント・イーストウッド以下二人を登場させる腹つもりだったが、彼らに拒否されたと語っている。ここで常連の三人を死なせ、自分のマカロニ・ウエスタンに区切りを付けるつもりだったのだろう。
と、こんな調子で映画が始まり、辺境にある小牧場主の元にニューオルリンズから花嫁、クラウディア・カルディナーレが到着してみると、牧場主と三人の子供たちは虐殺されていた。その主犯はフランク(おそらく悪役を演じるのは初めてのヘンリー・フォンダ)で、彼は巨万の富を持つ鉄道男爵に雇われているガンマンという設定で話が進んでいく。
もちろん、最後にヘンリー・フォンダとチャールス・ブロンソンの一対一の決闘が控えているのだが、この決闘シーンがまたまた長い。顔、表情の大写しに始まり、過去へのフラッシュバックがあり、シビレがキレかかった頃、やっとリヴォルバーを抜くのだ。

『Once Upon a Time in the West』 1968年のポスター
アメリカでよりヨーロッパで大ヒットした
マーティン・スコシージ、ジョージ・ルーカス、クエンティン・タランティーノらはこの作品を高く評価したが、『ワンス・アポンナ・タイム・イン・ザ・ウエスト』はアメリカでヒットせず、ヨーロッパでヒットした。パリでは2年もの間ロードショー(封切り館での上映)を続けたほどだった。
セルジオ・レオーネは黒澤に傾倒していた。だが、チャンバラの殺陣と早撃ちの競技会のような撃ち合いとは所詮別物であり、ピストルでの決闘に殺陣が持つ緊迫感は持ち得ない…と思うのだ。
ひと昔前のことになるが、知り合ったそのスジに近い暴れん坊は、拳銃よりもドスを抜かれた時の方が恐ろしいもんだと言っていた。
-…つづく
第55回:西部劇名作選 番外編 No.21
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