■感性工学的テキスト商品学〜書き言葉のマーケティング

杉山淳一
(すぎやま・じゅんいち)


1967年生まれ。信州大学経済学部卒業。株式会社アスキーにて7年間に渡りコンピュータ雑誌の広告営業を担当した後、'96年よりフリーライターとなる。PCゲーム、オンラインソフトの評価、大手PCメーカーのカタログ等で活躍中。


第1回:感性工学とテキスト
第2回:英語教育が壊した日本語
第3回:聞くリズム、読むリズム
第4回:話し言葉を追放せよ
第5回:読点の戦略
第6回:漢字とカタカナの落とし穴
第7回: カッコわるい
第8回: 文末に変化を
第9回: "冗長表現"が文章を殺す
第10回:さらば、冗長表現
第11回:個性なんかイラナイ!
第12回:体言止めは投げやりの証拠
第13回:主語と述語のオイシイ関係
第14回:誰のために記事を書く?
第15回:ひとつのことをひとつの文で
第16回:しつこいほうが好き。
第17回:コノときアレのドレがソウなる?
第18回:強い文は短い
第19回:“表記ルール”を作ろう
第20回:文章は誰のものか?
第21回:文章の配置を予測しよう
第22回:文章を理解してもらうための文章
第23回:ギリギリまでがんばる!
最終回:カタチって大事です。

■更新予定日:隔週木曜日

 

 
第1回:感性工学とテキスト

更新日2002/02/25


これは、言葉に関するエッセイです。言葉を学ぶ学問としては、日本語学、国語学、言語学などさまざまな分野があり、小説や誌などの文芸論も言葉に関する研究のひとつです。しかし、このエッセイは、このどちらにも当てはまりません。なぜなら私は学者ではなく、フリーランスのライターだからです。私は、文章という「商品」を「製造」し、取引先へ「納品」して代金を受け取ります。その経験を元に、「商品としてのテキストはどうあるべきか」を感じたまま書いていきたいと思います。

日本語についての学問は、大きく分けて2種類ありました。ひとつは、言語学としての『国語学』です。もうひとつは、物語や詩などを学ぶ『文芸学』です。『テキスト商品学』がこれらの学問と違うところは、雑誌や新聞の記事、カタログのコピーなど、職業ライターが商品として作成するテキストをテーマとし、「売るための文章とは何か」を考えるところです。言葉のありのままを分析する言語学や、売れなくても芸術として成立してしまう文芸表現とは決定的に違います。また、市販の『ライター入門』のような、取材の心構えやネタ探しの技術も扱いません。『テキスト商品学』は、誰が読んでも解りやすいテキストや、物事をきちんと説明できるテキストの技法について探求します。

ところで「感性工学」とは何でしょうか。

感性は理性とともに、人間に備わっている能力です。人間は社会的な事象を個々の感性で受け止め、理性で分析し、自身の行動を決定します。しかし、時として人間は理性を飛び越え、感性の赴くままに行動します。それは人が「本能的に自らの幸福を求める」能力を持っているからではないか、と考えられます。この感性の仕組みを研究する学問が感性工学で、'90年代から日本の大学や研究機関で注目されていました。そして'96年に、信州大学繊維学部が感性工学科を設立しました。繊維原料と繊維製品の研究をさらに進め、人々の生活を豊かにする素材や製品の開発に役立てるために感性工学を研究しています。これをきっかけに、全国の大学に感性工学に関する研究機関が設置されました。'98年には、正式に『日本感性工学会』が発足しています。

例えば、「映画を見て感動して泣く」という状態は「感情」です。この感情を起こさせる要因が「感性」です。つまり、観客が泣く映画を選んだ理由を研究することが「感性工学」です。なぜ映画の場面で泣くのか、なぜ泣きたいのか。これらは心理学や生理学、芸術を学ぶことで解明されます。それらと連携して、なぜ人は泣ける映画を選んだのかを解明することが、感性工学の範囲なのです。感性を研究すれば「泣かせる映画を作る方法」がわかり、売れる映画を作るヒントになるかもしれません。このように、感性工学の利用方法のひとつとして、マーケティングへの応用があります。感性は、商品を購入する気持ちを起こさせるからです。

私が感性工学会に参加したきっかけは、大学時代の恩師がこの学会の設立に関わっていたからです。日本では珍しい「マーケティング」を扱うことに興味を持ちました。理屈では説明しにくいことを、なんとかして科学的に解明しようという姿勢に開拓精神を感じました。それに、感性というキーワードさえあれば、これまで学問として扱われなかった事象をすべて包み込みます。私のようなライターも、商売道具である言葉を商品として分析することで研究者の仲間入りです。もちろん名刺にも『感性工学会会員』と入れています。まったく、愉快な気分です。

閑話休題。

「感性工学的テキスト」は、読み手に「何か」を働きかけるという目的をもったテキストです。例えば、製品のカタログや広告のコピーは購買心を刺激するという目的があります。新聞や雑誌の記事には、取材対象を理解してもらうという目的があります。これらのテキストは、個人がしたためた日記や、メモ帳に書きとめた文章とは一線を画しています。なぜなら、商品として成立するテキストだからです。ライターの仕事は、さまざまな目的を達成できるテキストをクライアントに売ることです。文章は誰にでも書けます。しかし、文章のプロは言葉に細心の注意を払い、テクニックを駆使します。

「感性工学的テキスト商品学」は、プロが書く「お金をいただくテキスト」のありかたを考えていきます。簡潔で誰が読んでも解りやすいテキストの、製造方法や禁じ手を紹介します。社内文書やホームページなど、文章を書くすべての人にメリットがあるはずです。

 

→ 第2回:英語教育が壊した日本語

 

 
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