第23回:ギリギリまでがんばる!
『電車でGo』というゲームをご存知ですか? 電車を運転して、駅の停止線でピッタリ停めるゲームです。停止線をオーバーしてはダメ、停止線の手前でもダメ。多少の誤差は許されるとしても、意外に難しいですね。熟練のテクニックが必要です。
文章を書くときも、ピッタリと停止線で停めるテクニックが必要です。文章の場合は停止線ではなく"指定文字数"になりますね。その良い例が試験問題の記述回答です。「○○について50文字以内で説明しなさい」というスタイルの問題です。この場合は回答欄に50個分のマス目しかありません。したがって、51文字以上も書くと回答欄をはみ出してしまうので失格となります。逆に文字が少なすぎてもダメです。20文字で書くと、残り30文字分の余白ができてしまいます。もっと詳しく書く必要があります。
私は「試験の記述回答は、指定した文字数の8割以上を超えれば良い」と教わりました。50文字であれば40文字以上書けば良いわけです。50文字の回答欄はたいてい25文字×2行となっています。しかし、もし回答欄が10文字×5行だったら、40文字だと最後の1行が空欄になります。第21回でも説明したとおり、これはみっともないですね。そこで、"単純に規程文字数の8割"ではなく、"回答欄の最終行の半分以上"としましょう。
小論文問題になると、もう少し寛容になります。「1000文字程度で意見をまとめなさい」という問題なら、20パーセント程度の誤差は許容されるようです。800字以上1200字未満ですね。これは懸賞小説に応募するときの目安にもなります。論文では、厳格に文字数を守るよりも、伝えたいことをきちんと主張するほうが大切です。指定された文字数は"規則"ではなく"目安"です。
文字数制限がない場合はどうしましょうか。
自分のWebページで研究結果を発表したり、映画の感想を書いたりするなら、自主的に文字数を設定しておきましょう。感想がいっぱいあるときは長文になり、印象が薄い場合は短文になる、というスタイルでもまったく問題ありません。しかし、文章を書く練習をするなら、一定の文字数で書き続けてください。この場合はWebページのレイアウトに合わせて、最後の行の8割くらいで文章が終わるようにします。あとで連載全体を読み返すときにすっきりまとまった印象になります。読者にとって適切な文字数を探し当てる。その気配りは文章書きの練習になります。
規定した文字数を守るにはどうすれば良いでしょうか。
もっとも明快な答は"語彙を増やす"です。言葉を体系化してたくさん身に付けましょう。ひとつの事柄について、たくさんの類似した言い回しができれば、文字数調整に便利です。
例えば"パソコン"を書き換えると、
パソコン
パーソナルコンピュータ
PC
PC
電脳
マシン
マシーン
クライアントマシン |
(4文字)
(11文字)
(1文字/半角2文字)
(2文字)
(2文字)
(3文字)
(4文字)
(9文字) |
などなど、1文字から11文字までの同義語が使えます。規定の文字数に"あと3文字足りない"、"2文字オーバーした"という場合は、このように同義語に置き換えて調節できます。ただし、単語を置き換える場合は第19回の"表記ルール"に反しないように気を付けましょう。用語を統一する場合は文字数が大幅に変化します。パソコンという言葉が10回登場するなら"パーソナルコンピュータ"に置き換えると、70文字も増えます。これを冗長と取るかテクニックとするかは判断が分かれそうですね。何度も登場する単語は、置き換えないほうがいいかもしれません。
職業ライターにとって"規定文字数の厳守"は基本です。規定文字数に合わせるため、語彙を駆使してギリギリまでがんばっているわけです。ライターや作家を指南する本には「文章を書くために、まずはたくさん読書しなさい」と書かれていますね。これは、できるだけたくさんの文に触れて語彙を増やしなさい、という意味です。さらに私から追加でアドバイスするなら、ひとつのジャンルについて書かれた文をたくさん読みましょう。自動車、ゲーム、料理など、客観的にみてどれも似たようなものについて書かれた本がお勧めです。しかも同じ著者がたくさんのアイテムを紹介した文章物がいいでしょう。読者を飽きさせないため、なるべく同じ言葉を使わないように工夫されているからです。
→ 最終回:カタチって大事です。