■このほしのとりこ~あくまでも我流にフィリピンゆかば

片岡 恭子
(かたおか・きょうこ)


1968年、京都府生まれ。同志社大学文学研究科修士課程修了。同大学図書館司書として勤めた後、スペイン留学。人生が大きく狂ってさらに中南米へ。スペイン語通訳、番組コーディネーター、現地アテンド、講演会などもこなす、中南米を得意とする秘境者。下川裕治氏が編集長を務める『格安航空券&ホテルガイド』で「パッカー列伝」連載中。HP「どこやねん?グアテマラ!」




第1回:なぜかフィリピン
第2回:美しい日本がこんにちは
第3回:天国への階段(前編)
第4回:天国への階段(後編)
第5回:韓国人のハワイ
第6回:まだ終わってはいない
第7回:フィリピングルメ
第8回:台風銀座(前編)

 

■更新予定日:第1木曜日

第9回:台風銀座(後編)

更新日2005/11/03


みなさんがこれを読むころ、私は地球の裏側ベネズエラにいる。遅くとも12月初めにはまた戻ってくるが、新年はどうやらまたベネズエラで迎えてしまうことになりそうだ。

近頃テレビでやたらとギアナ高地をよく見かけるなあと思っていたら、番組アテンドのお仕事の話をいただいた。テレビの撮影は過密スケジュールでハードだが、終われば、また来年1月にはフィリピンのミンダナオ島に行くことになっている。

現地でやるべきことを片づけたら、しばらくゆっくりしようかなと今から楽しみにしている。日本の寒い冬が苦手な私にとっては、ベネズエラにしてもフィリピンにしても大変ありがたいお仕事である。

さて、去年8月にブスアンガ島に行った話の続き。
ブスアンガ島のあるパラワン州カラミアン諸島は、95もの小さな島々から成る。

カラミアン諸島で最も多く日本人が訪れるのは、間違いなくディマクヤ島である。なぜなら有名な高級リゾートがあるから。しかし、それは島を買い取ったドイツ人が島民全員を追い出してつくった傲慢なパラダイスだ。日本人オーナーが誰ひとり追い出すことなく島民と一緒に住んじゃってる、ビサヤ諸島のカオハガン島とは大違いである。

まがいものの楽園よりもなにもないがゆえの豊かさをそろそろ求めてもいいだろう。なんでもあるからこそ絶望だらけの都市からやってくるのであって、街と同じような利便性を追求してどうするんだ。


水上住宅

なお、ディマクヤ島から日帰りで訪れるカラウィット島には、マルコス大統領がアフリカから連れてきたキリン、シマウマ、インパラ、ガゼルなどが放し飼いになっている。ジープで島内を回るサファリツアーは2時間。なんだかもう救いがたいまでの金満趣味。先進国の人々が札束で現地人の頬をひっぱたいて、途上国の中に場違いな歪みをつくっている。

後にパラワン州都プエルト・プリンセサの観光案内所に行ったときに初めて知ったのだが、ブスアンガ島で最大の町コロンからボートで30分のコロン島には裸族が住んでいる。台風銀座に雨季に行ってしまったからには、もしそのことを事前に知っていたとしても、彼らの居住地までの山歩きは到底できないが、情報収集くらいはできたはずだ。

彼らのことは日本語のガイドブックにはこれっぽっちも書かれていない。普段は英語のガイドブック「ロンリープラネット」を併用するのだが、今回は滞在期間が短いので欲を抑えるために持ってこなかったのは不覚であった。またいずれ乾季を狙ってコロン島を訪れてみたい。

コロンの町からトライシクルで未舗装の道を15分ほど行ったところにマキニットという温泉がある。トライシクルとはサイドカー付きの乗り合いオートバイのこと。手軽な庶民の足だ。


マキニット温泉

この温泉は40度でいいあんばいの海水の露天風呂だ。天気のよい日中は日陰がないので暑くてたまらない。夜10時半まで開いているから晴れの日は夕方入るのがよいけれど、あんまり遅くなると帰りのトライシクルを拾えなくなる。海水だけあって海辺にあるのだが、なぜか海よりも塩分が濃いような気がする。息を吸っただけで体がぷかーと浮く。湯船からあがった直後は少しべたべたするが、きれいな海水なのですぐにしっとりする。

海外の露天風呂はプールみたいなものだ。男女混浴で水着着用。ただちょっと変わっているのは、フィリピン人の女性は水着を着る習慣がないこと。だから、普段着のままで温泉につかり、ずぶ濡れのまま水を滴らせて帰っていく。床上浸水しているのになぜか平然としている茶の間みたいで、なんだかとても微笑ましく思わず笑ってしまう。

日本人にしてみれば、ブスアンガ島はかなりマイナーなところで、マキニット温泉は秘湯なのだが、ここにもやはり韓国人はいた。パラワン島で英語を習っているという若い韓国人カップルと話していたら、沖合いから船で韓国人のおっちゃんがやってきた。そして、おもむろに温泉に飛びこむとバタフライでこちらに向かって泳いできた。

マニラで中古のビリヤード台を売っているという彼は、我々にコーラーをふるまってくれた。そして、また海まで温泉を泳ぎ切ると待たせてあった船で町まで帰っていった。さすがキムチ食ってるだけあってエネルギッシュな韓国人ビジネスマン! それにしても、いくら安いからってパラワンやらセブやらでフィリピン訛りの英語を習うのはまったくおすすめしない。

それにしても雨が降る。コロンの港には小さな遊園地があって、雨の中でも夜遅くまでにぎわっている。そして、フィリピンの他の町と同じようにカラオケが一晩中どころか一日中うるさい。定食屋にまでカラオケが置かれ、もちろん防音設備なんてものは一切なく、開け放した入り口から天まで届けと歌声が響く。しかも、なぜかやたらと音痴が多い。

フィリピンで宿を選ぶときには、近くにカラオケがないことをよく確認しないと眠れぬ夜を過ごすはめになる。かくして雨とカラオケに悩まされ、ブスアンガ島への旅は終わった。

 

 

第10回:他人が行かないところに行こう(前編)