■このほしのとりこ~あくまでも我流にフィリピンゆかば

片岡 恭子
(かたおか・きょうこ)


1968年、京都府生まれ。同志社大学文学研究科修士課程修了。同大学図書館司書として勤めた後、スペイン留学。人生が大きく狂ってさらに中南米へ。スペイン語通訳、番組コーディネーター、現地アテンド、講演会などもこなす、中南米を得意とする秘境者。下川裕治氏が編集長を務める『格安航空券&ホテルガイド』で「パッカー列伝」連載中。HP「どこやねん?グアテマラ!」




第1回:なぜかフィリピン
第2回:美しい日本がこんにちは
第3回:天国への階段(前編)
第4回:天国への階段(後編)

 

■更新予定日:第1木曜日

第5回:韓国人のハワイ

更新日2005/06/02


みなさんがこれを読むころ、私はまたフィリピンにいる。うまく仕事が片づいていれば、ルソン島ソルソゴンでジンベイザメと一緒に泳いでいることだろう。去年はパングラオ島で50頭のイルカの群を見た。バンカーボートにつかまって浮いている私の足をかすめて、イルカが2頭、楽しそうに鳴きながら、光の届かない青の底に向かって潜っていった。今年は2月から5月のシーズンにどうにか間に合いそうなのでジンベイスイムなのだ。

世界最大のリーフは、オーストラリアのグレートバリアリーフ。二番目は中米ベリーズのベリーズバリアリーフ。どちらも行ったことがあるのだが、海は東南アジアの島のほうがよい。フィリピンには東南アジア最大のリーフ、世界遺産トゥバタハ岩礁海洋公園がある。パラワン島の州都プエルト・プリンセサから船で12時間。4月から6月まではダイブサファリが出ているが、それも人数が集まらないと出ないため、ほとんど荒らされていないようだ。一度、マレーシアのつい数年前まで無人島だったところに行ったことがあるが、あれはすごかった。海の中の楽園だった。パラワン島の目と鼻の先はもうマレーシアだ。ダイビングスポットとして有名なシパダンはパラワンと同じくスールー海に面している。

世界中の海を潜り倒したダイバーの友人が、別荘を建てたのがパングラオ島。パングラオはボホールと橋でつながっている小さな島。少し沖に出れば、いきなりのドロップオフ。大小さまざまな色とりどりの魚たちが、海の中で息のできない不自由な生き物を恐れもせずにゆったり泳いでいる。パングラオにはもう8年もこの島に住んでいる日本人がいる。彼女は飽きもせず毎日潜っている。フィリピンの海にはそれほどまでに魅せる力がある。


さて、マニラに着いたとたんにハングルが目に飛びこんでくるほど、フィリピンには韓国人が多い。中でもボラカイ島は韓国人のハワイとまで呼ばれている。この手のリゾートは世界中にある。スペイン本土から時差1時間、アフリカ大陸に近いカナリア諸島はドイツ人のハワイだ。インドネシアのバリにしても、ドルフィンダイビングで有名なアンソニー・キー・リゾートがあるホンジュラスのロアタンにしても、行きずりの観光客が楽に手に負える程度のエスニック性は残してはいるものの、無国籍でありながらも没個性的な雰囲気が大通りには漂っている。どこも一律な似たり寄ったりのそんな印象がある。

しかし、どんなリゾートにもよそ行きではない顔が必ずある。その素顔を暴くには、あえて観光客の顧みない、シーズンオフに行くのもいいかもしれない。そして、裏通りの路地に迷いこむのだ。子供のはしゃぎ声やご飯をつくるにおいのするような。

雨季の真っ只中、台風接近中のボラカイ島に行ってみた。それでも韓国人はいた。数年前にこの島を舞台にした恋愛ドラマが韓国で放送されたらしく、以来島にはカップルやハネムナーが訪れるようになってしまった。ほんの10年前までボラカイには電気がなかったのに、今となってはシーズン中は週末の渋谷さながらの混雑ぶりなのだと現地在住の日本人が教えてくれた。


荒れるホワイトビーチ

コテージの椰子の木陰でハンモックに揺られて、気が向いたら本を読み、気がついたらうたた寝していた。荒れている波の音を聞きながら。フィリピン一美しい浜辺と言われるホワイトビーチも大量の流木が打ちあげられて見る影もない。さらわれそうな高波にも負けず、フィリピン人がほとんど意地で海水浴をしている。しかも、彼らは水着を着る習慣がない。だから、普段着のまま海で大波に打たれているさまはまるで荒行のように見える。

ビーチ沿いは観光客向けで、ビーチと平行しているメインロードは地元民向け。その間をタリパパという商店街が結ぶ。ビーチの近くは小ぎれいな土産物屋が多いが、メインロードに近づくほどどんどん生活臭が濃く、庶民的になっていく。フィリピンはどこでもサリサリストアというよろず屋が多い。実になんでも売っている。サリサリストアの目印は、店先にのれんのようにぶらさがっている洗剤やシャンプーの小袋。貧しい人はまとめてボトルで買えないから、1回分ずつ買う。ちなみにフィリピンのような暑い国では、一般的な家では水だけでお湯は出ないのが普通。サリサリとは多種多様という意味だ。


サリサリストア

ボラカイ島はビサヤ海にあり、セブなどの他のビサヤ諸島と同じくビサヤ語が話される。ビサヤにはフィリピンラーメン、バッチョイがある。フィリピン飯は、基本的に魚であろうが鶏であろうが豚であろうが牛であろうが、醤油で甘辛く炊く。これは少しのおかずでご飯がいっぱい食べられるようにということだと思う。フィリピンは他の東南アジア諸国に比べて食べる楽しみが少ない国だが、バッチョイはなかなかいける。お試しあれ。

できることなら10年前のボラカイに行ってみたかった。わざわざ台風の中を行かなくても、乾季でさえ観光客が誰もいないところに行ってみたい。フィリピンのほとんどの島はまだまだ10年前のボラカイなのだ。なにしろこの国には7,109もの島があるのだから。

 

 

第6回:まだ終わってはいない