■このほしのとりこ~あくまでも我流にフィリピンゆかば

片岡 恭子
(かたおか・きょうこ)


1968年、京都府生まれ。同志社大学文学研究科修士課程修了。同大学図書館司書として勤めた後、スペイン留学。人生が大きく狂ってさらに中南米へ。スペイン語通訳、番組コーディネーター、現地アテンド、講演会などもこなす、中南米を得意とする秘境者。下川裕治氏が編集長を務める『格安航空券&ホテルガイド』で「パッカー列伝」連載中。HP「どこやねん?グアテマラ!」




第1回:なぜかフィリピン
第2回:美しい日本がこんにちは
第3回:天国への階段(前編)
第4回:天国への階段(後編)
第5回:韓国人のハワイ
第6回:まだ終わってはいない

 

■更新予定日:第1木曜日

第7回:フィリピングルメ

更新日2005/08/18


世界三大料理は、フランス、トルコ、そして中華と言われている。しかし、これが日本、韓国、タイでも別にいいんじゃないかと思う。それほどアジアは食が豊かだが、フィリピンはさほどでもない。そもそも発展途上国で料理のおいしい国などお目にかかったことがない。概して途上国は料理のバリエーションがない。まだお腹を満たすことで精一杯なのだから当然である。

料理のバリエーション以外に、その国が途上国であるか否かは薬局とコピー屋、それに宝くじ屋が街にたくさんあるかどうかで判断できる。高くて医者に診てもらうことができないから薬局が、本があまり流通しておらず貴重品なのでコピーが、一攫千金への一縷の望みを抱くために宝くじが、庶民には必要不可欠である。

そして、そんな国の空港にはまるでお約束のように滑走路の脇に老朽化した飛行機が打ち捨てられている。おまけに暑い途上国はとにかくビールが安いので、ますますダメにダメを重ねてしまう。

さて、典型的なフィリピン料理の代表はアドボであろう。アドボとは甘辛い煮こみ料理で味つけが濃い。これはちょっとのおかずでたくさんご飯が食べられるようにということだろう。実際、屋台飯はご飯の添え物のようにおかずが出てくる。ほかにはシニガンという酸っぱいスープがくせがなくておいしい。この二つはおすすめだ。

東南アジアには料理に魚醤を使う国が多い。秋田の“しょっつる”やタイの“ナンプラー”がよく知られる。フィリピンでは魚醤は“パティス”と呼ばれる。うまいがとんでもなく臭い。その匂いたるや鼻が曲がりそう。パティスはしょっつるやナンプラーをしのぐ、東南アジア最臭の魚醤かもしれない。料理をしていて手に付くとしばらくその匂いがとれなくなる。

フィリピンは暑い。街を歩いていると、じきにばてて、クーラーの効いているところで涼みたくなる。そんなとき、目の前にファーストフードがあるとついフラフラ入ってしまう。フィリピンには至るところに「ジョリビー」と「超群」という店があふれている。前者は赤と黄色の蜂のキャラクターでおなじみの、後者は中国系経営で“チャオキン”と読むチェーン店だ。

ジョリビーのスパゲッティには甘いミートソースがかかっている。どうやらバナナの入ったケチャップで味つけされているようだ。このバナナケチャップ、フライドポテトにかけるとなかなかいける。ちなみにフィリピンの赤いソーセージもなぜかやはり甘い。

超群のおかゆは朝ごはんにもってこいだ。トッピングはピータン、ヤギ肉、肉団子などが選べる。レギュラーの他にメリエンダというサイズがあるが、メリエンダとはスペイン語でおやつのこと。つまり、小腹が空いたときのおやつサイズなのだ。ここのおすすめはなんといってもハロハロ。ハロハロとはフィリピンのかき氷のこと。プリンやタピオカがのっかっている。さらに紫芋のアイスクリームをのせるとまた格別。ぜひおためしあれ。


フィリピンかき氷“ハロハロ”

フィリピンの一日は、“タホ”で明け“バロット”で暮れる。朝早くからタホ売りが天秤かついで路地を歩く。タホは軟らかめの豆腐だ。早い時間なら作りたてでまだ熱い。プラスチックのカップに金属のレンゲですくって入れてくれる。黒蜜とタピオカをかけていただく。豆腐自体は味がないものだから、甘くてもおいしい。

タホは主に朝売られるが、昼すぎや夕方にも見かける。だが、バロットが出回るのは決まって夕方だ。バロットとは羽化しかけのアヒルの卵を茹でたもののこと。夕方から売られるのは、おそらく精力をつけるものとして考えられているからだろう。

一言でいうとえぐい食べ物である。すでに中身と殻の間にすきまがあり、そこにたまっている液体をまずすする。白身の上には血管が走っている。かたくなりかけた餅のような食感の白身の中には、ヒヨコになるべき肉塊が収まっている。

私が食べた7日目の卵にはほんの少しだが羽毛や骨ができていた。軟らかかったがくちばしもあった。つわものは14日目とか日数の経ったものを好んで食べる。そうなるともうほとんど黄身というよりもヒヨコである。ここまでくるとさすがにグロすぎて食べられない。そこまでして食べるほどおいしいとも思わない。


アヒルのゆで卵 “バロット”

フィリピンは南国だが果物の種類はさほど多くない。さすがに日本にも輸出されているマンゴーは安くておいしいが、マニラで売られているマンゴスチンやドリアンは、実はタイのバンコクから輸入されている。

果物ならミンダナオ島が一番だ。果物の王様ドリアンも女王マンゴスチンも、フィリピン国内では唯一ミンダナオでのみとれる。しかし、ミンダナオの果物でおすすめは“ニオイパンノキ”。これはミンダナオで初めて見た。とげのないドリアンのような形状で、ドリアンとジャックフルーツを足して割ったような味と食感だ。

セブをはじめとするビサヤ諸島には、“バッチョイ”というフィリピンラーメンがある。パングラオ島には、椰子の新芽をちぎったところから出る樹液を醗酵させた“トゥバ”というお酒がある。島が多いと珍しいものを探す楽しみが増える。それがだめでもご安心を。フィリピンにはあちこちに「ミスタードーナッツ」と「吉野家」がある。マニラにはジャパレスも多い。

 

 

第8回:台風銀座〈前編)