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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第718回:高架と地上の構内踏切 - えちぜん鉄道 福井~鷲塚針原 -

更新日2020/07/23




左義長のどんど焼きを見れば帰宅の終列車に間に合わないから、その日もホテル泊まりとなる。福井で2日目の朝は昨日とは違うホテルで迎えた。もともと福井駅前のこちらのホテルに連泊したかったけれど、1泊しか予約できなかった。福井駅付近のホテル客数は左義長の規模で決まったかもしれない。そんなことを言い出すと、鯖江のホテルはメガネ商人の数で決まるとか、武生のホテル数は菊人形と同じ数という話になりかねない。

今日はえちぜん鉄道と福井鉄道の結節点、田原町駅を見物して帰るつもりだった。しかしSさんのはからいで、えちぜん鉄道の偉い人と夕刻に面談できるという。東京への最終便は福井駅20時02分発のしらさぎ13号だ。金沢で北陸新幹線のかがやき518号に乗り継げば、東京駅着23時32分である。東海道新幹線経由の最終便ルートは19時42分のしらさぎ16号だから、北陸新幹線金沢延伸のおかげで20分だけ滞在時間が延びたことになる。北陸新幹線が福井まで到達したら、さらに滞在時間が延びるだろう。左義長の夜に帰宅できるかもしれない。

今朝の福井は見事な快晴。恨みの積雪もすべて融けてなくなれと念じる。田原町へ行くルートはえちぜん鉄道と福井鉄道があって、行きはえちぜん鉄道、帰りは福井鉄道にする。理由は単純で、ホテルのほぼ隣にえちぜん鉄道の駅があるからだ。昨日、初乗りした新幹線仮線にもう一度乗る。同じルートを二度乗り通すだけではつまらないし、時間もあるから新福井駅で降りてみた。Sさんに「珍しいモノがありますよ」と聞いていた。

01
新福井駅の高架構内踏切

珍しいモノとは「構内踏切」であった。駅構内にある踏切で、隣のプラットホームへ行くために通る通路。正式には踏切ではなく構内通路というらしい。踏切は「踏切道」が本名で、「道」つまり公道が主体の呼び方である。構内に公道はないから通路。だけど、警報器や遮断機、レールの間の踏み板など、踏切と同じ設備だから踏切と呼ばれる。

構内踏切は珍しいとはいえ、まだまだ地方の駅でみかける。東京でも池上線の旗の台駅にはちょっと前まであったような気がするし、池上駅は最近になって解消のための工事が始まった。しかし、新福井駅は高架駅だから、高架駅の構内踏切はとても珍しい。全国でここだけかもしれない。これは線路を間借りした仮駅という特殊な事情だ。路盤を挟む形で対向式プラットホームを作る。ふつうは、それぞれのプラットホームから地上に降りる階段を作る。

しかし、ここは仮駅だから倹約したようだ。階段を上りプラットホーム側だけとし、下りプラットホームに階段を作らない。そこで構内踏切を作った。運行本数が少ないからこそできる荒技ともいえる。なるほど、おもしろい。階段を降りて、階下の出入り口も写真に収める。こちらも仮設か、それにしてはしっかり作ってあるな、と思ったけれど、隣で建設中のえちぜん鉄道の本設駅上りプラットホーム出入り口と同じ外観だ。あらかじめ下りプラットホーム用の出入り口として作っているようだ。よく考えられている。

02
福井口駅を出発。直進方向は車庫へ
右へカーブする線路のうち奥が三国芦原線

高架プラットホームに戻って三国芦原線の電車に乗る。高架を降りて福井口駅。そこを出ると勝山永平寺線が右へ分かれていく。こちらの電車も少し遅れて分岐を右へ。直進方向は車庫だ。行先は左だけど、いったん右へ進んで勾配曲線で高さを稼ぎ、北陸本線を乗り越える。えちぜん鉄道の高架計画は、この北陸本線を超えるところまで続いている。地上に降りて、まつもと町屋駅、西別院駅、そして田原町駅だ。例によって運転席の後ろから眺め、福井鉄道の線路が伸びて分岐に繋がり、合流する様子を確認した。感慨深い。そのまま電車で通り抜けたい気持ちを抑えて、いったん降りた。直通運転を機に田原町駅自体もリニューアルされたので、まずは観察だ。

03
田原町駅。左の線路が奥の分岐につながった

04
田原町駅全景。ガラス張りのコミュニティスペースができた
手前の線路が福井鉄道

約10年前に田原町駅を訪れたときは、なんで両線は繋がらず直通しないのだろうと不思議に思った。駅を共用すれば直通するという慣例はないけれど、田原町駅は特殊で、福井鉄道の線路がプラットホーム先へ伸び、えちぜん鉄道に繋がりそうで繋がらないところで切れていた。まるで分岐の作りかけのような様子だった。軌間も同じ、電圧も同じ。保安装置が違うかもしれないけれど車両側で対応できる。

05
三国芦原線は単行の5000形
京福電鉄時代に新造された電車だ

歴史をひもとけば、福井鉄道の資材は三国芦原線で運び、貨車が直通させていたという。その引き込み線が撤去されて以来、線路は切れている。なぜ繋がらないのか。その疑問は私だけではなかったようで、2013年から協議が始まり、改良工事を経て、2016年から直通運転が始まった。えちぜん鉄道としては、三国方面から乗ってきた客が田原町で福井鉄道へ流出してしまうことを懸念したかもしれない。しかし実際には、福井鉄道で福井大学に通う学生たちが、いままで田原町で降りていたところ、直通して1駅先の福大前西福井まで乗ってくれるようになった。

06
鷲塚針原も構内踏切がある。これはよく見かける構内踏切

07
凝った作りの木造駅舎。国の登録有形文化財だ

線路はつながり、直通運転が始まった。とはいえ、東京のような数分単位の運行ではない。私は福井鉄道からの直通電車を待たず、いったんえちぜん鉄道の電車に乗って、六つめの鷲塚針原駅で降りた。相互直通運転はこの駅までである。福井鉄道は路面電車の規格だから、えちぜん鉄道の駅に路面電車用のプラットホームを増設している。車両も直通用にLRTタイプを両者が用意した。ちょっと改造すればというアイデアも、実行すれば手間がかかる。

08
新設されたLRT車両向け低床プラットホームにキーボ到着

09
あれ、降りて熱心に写真を撮る人に見覚えがある

福井鉄道に乗り入れる電車が来た。黄色いLRT車両はえちぜん鉄道の電車で「キーボ」という愛称がある。黄色と坊やのイメージだろう。キーボといえば歌謡曲『3年目の浮気』のヒロシ&キーボーを思い出す。うっかり歌い出し、周りを見渡して誰もいなかったのでほっとした。電車が到着する。無人駅だから、まばらに降りた客が各方面に散っていく。そんななか、プラットホームに佇みカメラを構えた男性がいる。あ、Sさんだ。挨拶。彼は水彩画の取材をすると言っていた。私とは逆回りのコースで、福井鉄道で福井駅を発ち、えちぜん鉄道で戻るという。えちぜん鉄道の電車が先に来てSさんが乗っていった。車内からカメラを向けられたけど、私は絵にならないよと苦笑いする。

10
今夜また会いましょう


-…つづく

 



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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