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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第716回:新幹線高架を行く - えちぜん鉄道 福井~福井口 -

更新日2020/07/09

 


左義長が行われる勝山は、えちぜん鉄道の勝山永平寺線の終点だ。ガイドツアーは勝山駅に10時頃の集合で、Sさんとは9時45分頃の待ち合わせである。ホテルで朝食をとるほどのゆとり。市役所前から福井鉄道のヒゲ線に乗る。赤い新型のLRT車両に乗りたかったけど、それは越前武生行き。見送って旧名鉄の電車に乗った。昨夜の未乗区間を気分新たに乗り終えた。わずか150メートルの延伸、それでも見過ごせない。

01
市役所前電停もリニューアルされていた

えちぜん鉄道の訪問は9年ぶりだ。あのときに乗った地上駅はなく、同じ場所に赤いビルが建設中だ。これが新しい高架駅。鉄骨を組み上げたばかりのようで、側面はガラス張りだけど、正面は大きく口を開けている。完成したらどんな姿になるだろう。その時にもう一度見に来よう。しかし完成直後ではなく北陸新幹線の開業時になるかな。

02
真っ赤な新駅舎と新幹線高架の仮駅

赤いビルの隣、JR在来線プラットホームのとなりにえちぜん鉄道の電車が見える。そこが本来は北陸新幹線のプラットホームになる場所だ。新幹線の高架を私鉄が借りている。珍しい風景だ。いまから55年前の1963年、阪急京都線も開業前の東海道新幹線の高架を借りて営業していた。阪急の高架工事の仮線として使ったから、えちぜん鉄道と福井鉄道の関係に似ている。その実績があるから今回も……かもしれない。東海道新幹線は私が生まれる前だった。

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仮駅舎の入口はパイプだらけ

えちぜん鉄道の仮の福井駅は足場のパイプ櫓の奥にある。外から見れば工事現場の仮店舗のようだ。しかし、建物に入れば意外にもきちんと駅の体をなしている。質素であるけれど、地上駅よりスッキリしている。地上プラットホームのベンチに座っていた恐竜博士も変わらぬ姿で、このままここで開業させてもいいくらいだ。高架階のプラットホームへ行くエレベーターもある。これは新幹線でも使うのだろうか。いや、プラットホームごと作り直すに違いない。とても手間がかかっている。

04
でも、駅舎そのものはしっかりした作り

構内は島式プラットホーム1面で両側に線路がある。行き止まり式の駅だけど、在来線寄りの線路はすこし奥へ延びて留置線になっている。三国港行きの電車が待機中だ。えちぜん鉄道の電車は塗装が凝っていて、白い車体に青い帯が6本。下から上へ細くなっていく。乗降扉は黄色。ふだんステンレス車体にカッティングシートの帯の電車を見慣れているから、とても手間がかかっていると思う。隣のJRの電車と比べてもセンスがいい。この塗装のおかげで中古車のイメージは払拭できている。日の出の海のイメージだろうか。あとでSさんに聞いてみよう。

05
恐竜博士も健在

勝山行きの電車は7000形だ。JR東海の飯田線で活躍した119系電車の中古だ。しかし、そう言われないと気づかない。塗装が変わると見違える。それだけではなく、運転台まわりは作り替えられ、電圧の違いからモーターと周辺機器も交換された。車内に入ってセミクロスシートを眺めると、ようやく国鉄らしさを感じる。座席の布も張り替えられているだろうか。おまえ、いいところに引っ越したな、と声をかけてやりたくなる。

06
もと飯田線とは思えない中古車

ボックスタイプのシートが懐かしいけれど今回は新幹線高架区間の様子を見たいから、運転台の後ろに行く。地方私鉄の設備ではない、いかにも新幹線向けのガッシリした広い路盤と防音壁。線路は砂利が敷かれているけれど、路盤全体ではなく、線路のまわりだけで、衝立でせき止められている。この線路は在来線規格だから、新幹線を通すときは撤去される。つまり、あとで片付けやすい線路になっている。片渡りポイントが組み合わされて、右から左へ、左から右へ。私が乗った電車は左側にいるから、この分岐は直進する。

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新幹線高架とえち鉄電車

新幹線規格の線路の向こうから、こちらと同じ7000形の2両編成がやってきた。たった2両、なんとなく居心地が悪そうな顔をしているように見える。この電車もそんな佇まいに見えるだろうか。福井行きの到着を待って、こちらの電車も発車した。到着の電車も直進だから、待たずに発車できるけれど、単線時代のダイヤを踏襲したせいか。ヒューンと心地よい音を出して、なめらかな加速。飯田線時代の加速度の変化を感じさせない。二つの分岐を通り終わる頃に次の駅。新福井に着いた。

08
仮設の新福井駅

高架区間の見晴らしは良い。隣にえちぜん鉄道の高架線路もできている。あちらを使うようになっても見晴らしは変わらないだろう。それも楽しみだ。そしてこちらの高架区間は新福井の先で終わる。線路は単線になり、下り勾配で地上に降りていく。新幹線高架の路盤もここまで。勾配はいかにも仮線という質素な作りだ。なるほど、えちぜん鉄道の高架工事に合わせて、先に新幹線駅の高架部分を作ったようだ。見事な段取りである。

09
間借り区間の終わり

地上の福井口駅の隣に高架の福井口駅の外観が見える。巨大で真四角なコンクリートビル。頑丈な屋根で囲われて、雨でも雪でも安心だ。快適になればもっと利用者が増えるだろう。しかし、現在の狭いプラットホームに小さな屋根の佇まいも良い。乗客が肩を寄せ合うように寒さに耐えて、電車に乗り込む風景。地方私鉄ならではの、そういう景色が好きだけど、それはもう趣味の範疇で、利用者は新しく便利なほうがいいに決まっている。この景色をカメラに収めておこう。もっとも、高架区間が終われば、えちぜん鉄道のほとんどの駅に情緒が残っている。

10
福井口駅もほぼ完成しているようだ


-…つづく

 



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

<<杉山淳一の著書>>

■連載完了コラム
感性工学的テキスト商品学
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■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

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