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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第717回:奇祭の日 - えちぜん鉄道 福井口~勝山 -

更新日2020/07/16




仮高架区間は終わり、車窓はいままでどおりの地上区間になった。雪景色。線路と道路、民家の壁のほかは白い。前回の乗車は10年近く前で秋だったから。この景色は初見も同然。クロスシートに座り、冬の鉄道旅を楽しむ。Sさんのイラストを思い出す。雪原を行く寝台特急北斗星。えちぜん鉄道のカレンダーの冬景色。白い紙に白い雪。絵心の無い私にはどうすればいいかさっぱりわからない。だけどSさんはしっかり雪を描く。冷たい雪を温かく。

01
除雪後の線路、プラットホームより高く積もっていたようだ

雪景色はとても静かだ。きっと雪には吸音効果があるに違いない。外に出る人も少ないから、車窓はときとして静止画のようでもあった。列車の音だけが聞こえて、窓に雪の町が流れていく。美しいと思うけれども、この冬は素直に喜べない。1ヵ月ほど前から関西、北陸、関東で大雪が続いた。とくに2月上旬は福井県で150センチの積雪になった。福井県を縦断する国道8号では乗用車とトラックなど1,500台以上が立ち往生し、他の道路でも雪に埋まったクルマで死者が出た。えちぜん鉄道の施設や車両も埋まり、復旧まで長期運休となった。

02
九頭竜川も雪景色

降雪が終わっても除雪は進まず、左義長の開催も危ぶまれた。この時期は混むからと、私たちは1ヵ月前から宿の手配をしていたから成り行きを見守っていた。開催の知らせに安堵してやってきて、福井市内は除雪も済み、日常を取り戻した感もあった。しかし勝山へ向かう車窓は雪景色。先へ進むにつれて積雪は深くなっていった。

03
対向列車のヘッドマークは「スタジオジブリ展」

勝山駅舎はリフォームされて、外観はそのままに内部は一新された。1914年に建てられた駅舎は国の登録有形文化財で外観はさほど変わらない。内部は広い待合室が作られ、天井も高くなり様変わりだ。しかしそれは改築ではなく、建設当時に復原したという。その待合室の一角にカフェコーナーがあり、グッズやコーヒー、ケーキなどを売っている。コーヒーは豆をひいて炒れる本格派。温かみのある電球色のサイフォンが美しい。

Sさんと再開を祝し、ツアーの出発時間まで駅舎の外を散歩。すこし福井駅寄りの構内に小さな機関庫ふうの建屋があって、小さな電気機関車と貨車が保存展示されている。左義長ツアーの受付場所がここだった。手続きを済ませた後、車両を見に行く。車体の扉も開けられており内部を見物できた。なんと、この車両は動態保存だという。建屋の外に、この機関車が現役で走っていた風景の写真があった。近くで見るには大きすぎるから少し離れてみたいけれど、背中側に雪の壁があって下がれない。本来、駅前広場であろう場所にこれほど積もったかと驚く。

04
勝山駅の機関庫、見学者のために除雪作業中

ツアーが始まり、街中を歩く。道路も店先も除雪が整っている中で、駐車場の小型車が雪に埋もれている。今日は祭だし、クルマも出せない。所有者も除雪に飽きて祭を楽しみたい気分かもしれない。遠くの祭り囃子を聞きつつ料亭へ。昼食の前に左義長祭の話を聞く。櫓は町会にひとつずつあり、櫓の上で太鼓を叩く左義長囃子は、ひとりがこちらに背を向けて太鼓に座り、その両側から叩く。実演で座る女の子の後ろ姿がかわいい。座り役はお尻の形で選ぶのかと聞いたら困った顔をされた。お尻を見せるためではなく、隣同士の櫓まで太鼓の音が届くと互いに調子が狂うから、太鼓の音を下げる意味があるらしい。どうも失礼なヤツがいると思われたと思う。

05 
ツアーの昼食、豪華な郷土料理

郷土料理の昼食のあと、街に出て主な櫓を見てまわる。商店には「作り物」といって、家財を使って干支の動物などに仕立てた作品が展示されている。これも左義長というなら、日本では昔から芸術祭が行われていたといえる。こういう遊びができるとは、なんと豊かな土地柄だろうか。ツアーの最後に、櫓に上って太鼓を叩かせてくれるという。いやいや見るだけで十分だし、Sさんも「そんな神聖な場所に余所者が乗るとは……」と躊躇したけれど、勧めた人も引っ込みが付かないだろう。めったにできない経験だとSさんの尻を叩いて乗ってみた。太鼓も叩いてみたけれど、尻の形に自信がないから座らなかった。

06
櫓は左義長囃子のステージ

ツアーは明るいうちに解散した。しかし祭は続く。締めくくりは九頭竜川の河原で炊かれるどんど焼きで、それを見て帰るつもりだ。時間はたっぷりあるから、Sさんとすべての櫓を巡ってみた。町の端に行くほど見物客は減り、地域の人々の大切な営みをのぞき見るような感じがある。子どもたちが叩く太鼓を親たちが見守る。古来、祭とは人と神の交わる儀式、そして人と人が社会と交わる社交場だった。祭が来るたびに、子どもは成長し、大人たちに受け入れられる。女の子は少女になり、すこし演舞が艶っぽくなる。男の子は少年になり、勇ましくなる。

07
作り物、箪笥で作った犬

08
雪だるま大集合、別の通りには笠地蔵などもあった

町の奥まったところ、路地に入ると「左義長雪だるま会場」があった。無数の雪だるまがあり、表情も豊か。よくみると、白い紙に顔を描いて貼っている。なるほど、工夫しているなあと感心する。こういう催しがほかの場所でもあるかもしれない。櫓も見た。作り物も見た。まだ何かありそうだ。でも今日は回りきれない。もう一度訪ねたい。次回は町の隅々まで歩いてみたい。私にとって、地方の祭をじっくり見物した経験は今回が初だった。こうなると、青森のねぶた、秋田の竿燈、仙台の七夕、阿波踊り、有名どころを巡ってみたくなった。

09
福井名物のおろし蕎麦

日が暮れて、Sさんのオススメの店へ行く。福井名物のおろし蕎麦。盛り蕎麦に大根おろし、幅広の削り節がたっぷり載っている。これは美味い。Sさんはお店の方と馴染みのようだ。そういえば、街中でもSさんと地元の方々が挨拶や立ち話の場面があった。北斗星の乗務員さんたちとも仲が良かった。彼のコミュニケーション力に敬服する。

10
クライマックスはどんど焼き

-…つづく

 



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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