どういう経緯か知らないけれど、NTT東日本の福島支店が会津若松駅にライブカメラを設置した。
ライブカメラとは、小型CCDカメラをパソコンにつなぎ、映像をインターネットで配信するシステムだ。カメラは会津若松駅の1番ホーム、2番ホームを見渡す位置にある。パソコンを起動してサイトにアクセスすれば、自宅や会社にいながら、誰でも無料で会津若松駅の様子を眺められる。週末には蒸気機関車が牽引する『SLばんえつ物語号』も登場する。鉄道ファンにはたまらない。
会津若松駅のライブカメラ。
週末にはSLもやってくる。
私はライブカメラのURLをメールに書いてMさんに送った。第35回の銚子電鉄と第36回の鹿島鉄道の旅を共にした人である。あの旅の後、年賀状で"今年は乗り鉄します!"と宣言し、5月に京都の梅小路蒸気機関車館に出かけたという。蒸気機関車が好きな人なら、きっとライブカメラの映像を喜んでもらえるはずだ。
予感的中。日曜日の深夜と月曜の深夜に返信が来た。感謝の言葉に併せて、「君は廃線予定の路線のほうが大切かも知れないけど、SLばんえつ物語号に乗りに行こうよ」とあった。見ているうちに乗りたくなったようだ。汽車好きに汽車の絵を見せるなんて、馬にニンジンを見せるようなものだ。見せてしまった私には、食べさせる義務があるのではないか。大切な友人である。その気にさせておいて、ひとりで行ってください、とはいかない。
SLに乗りに行こう!
それに加えて、廃止予定線のほうが大切、という言葉に背筋を正された。鉄道の廃止が届け出制になって以降、全国で赤字路線の存廃が検討されている。しかし、私が旅に出られる時間は限られており、いざ旅に出るとなれば、必然的に廃止予定線に向かってしまう。どんな旅も楽しいけれど、景気の悪い路線ばかりを巡っていると、やはり気持ちは沈んでくる。鉄道は斜陽なのか。時代遅れの交通手段なのか。帰り道はそんなことばかりを考えてしまう。
文章は良くも悪くも気分に影響を受けるから、最近の旅の日記は暗い調子になっているかも知れない。なんとなくそんな気がしていたし、退廃的な描写も悪くないと思っていた。しかし、旅は楽しくあるべきで、例え寂しさや喪失感に包まれても、そこになんとか楽しさを見つけ出したい。それが旅人の本分ではないか。Mさんのメールはそれを思い出させてくれた。
今回の行程。浅草から東京まで、645Kmの一筆書き。
私は仕事の手を休めて旅程を作り始めた。SLばんえつ物語号は週末の運転で、信越本線の新潟を出て、新津から磐越西線に入り、会津若松までを往復する。私は磐越西線を21年前の1983年4月1日に乗車しているから、他の未乗路線を組み合わせた日程にしたい。会津へは東北本線の郡山から分け入っていくルートがメインで、新幹線と在来線を選択できる。しかし、もうひとつ"裏ルート"がある。それは東武鉄道で浅草を出発し、日光線、鬼怒川線、野岩鉄道、会津鉄道を乗り継いで会津若松に至る行程で、私にとっては会津鉄道以外がすべて未乗である。帰りは新潟から上越新幹線だ。上越新幹線も未乗だし、その日のうちに帰るにはこれしか選択肢がない。
こうして、浅草-野岩鉄道-会津若松-新潟-東京というルートができた。逆方向に回るルートも検討したけれど、浅草発のほうがスムーズに接続する。しかも、東武鉄道のクロスシート車や、元名鉄の特急用車両など、珍しい列車に乗れる。これならMさんも満足だろう。実行日はお互いの都合を調整して7月11日にした。その旅の計画を私のサイトに記したところ、バイク仲間で写真好きのBさんが同行を希望した。彼はバイクでSLばんえつ物語を追いかけて何度も写真を撮っている。たまには乗ってみたい、という。
SLばんえつ物語号は全車指定席だから、1ヶ月前の6月11日の朝に近所の駅へ行き、指定券を4枚確保する。Mさんから、蒸気機関車の直後の車両という希望があったので、ネットで車両の編成表を調べ、7号車を注文した。指定券は3枚で良かったけれど、ボックスシートを占領したくて4席取った。乗らないのに席を取るとは気が引けるが、私たち3人と相席になった人も気まずいだろう。ところが、私のサイトで指定券を確保したと報告したら、またひとり、バイク仲間のTさんが同行志願して、結局、4人の旅となった。
集合は浅草駅に朝6時。Bさん、Tさんはパイクで現地集合する予定だったけれど、天気予報が明日は雨と報じたため、4人とも浅草駅からスタートする。Mさんは鉄道好きだからいいけれど、バイク好きの2人にとって、列車に乗りっぱなしの旅は楽しいだろうか。
今回の旅は浅草から始まる。
-…つづく