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■イビサ物語~ロスモリーノスの夕陽カフェにて
 

第12回:カサ・デ・バンブー ~グランド・オープニング 2

更新日2018/03/22

 

ヨシ、ここでカフェテリアを開くぞと決めてから、急に忙しくなった。なにせ経験ゼロ、見通しなし、資金はマドリッドでセニョリータと結婚し、深い根を下ろしているらしい友人、知り合いから臆面もなく借りまくった。
 
セマナサンタ(イースター;復活祭)に合わせてカフェテリアをオープンすると決めたのは、その3、4ヵ月前の11月頃だったろうか、庭の方はそれ以前から手を入れ始めていたのだが、大きな鳥小屋はそのままだった。大家のゴメスさんに相談を持ちかけたところ、彼が町に一軒しかないペットショップと話をつけてきてくれたのだった。

私が子供の頃に使ったか、持っていたかと、かすかに記憶に残っている竹籤(タケヒゴ)の虫かごを何倍かの大きさにしたような骨董品クラスの鳥かごをペットショップの親父さんから手渡されたのだった。 

私が鳥小屋に入り、昆虫採取用の網でインコを捕まえ、タケヒゴの鳥かごのゲートを開けて待っているゴメスさんに渡す、という滑稽な作業を繰り返した。ゴメスさんは最前線で一兵卒に命令を下す軍曹よろしく、「タケシ、そっちのヤツを取れ、やわらかく体全体を包むように握れ!」と、一々指示、命令を下すのだった。

タケヒゴの鳥かごには10羽も詰め込めば、満杯になる。それを持ってゴメスさんの愛車ルノー・クワトロに積み、ペットショップに運ぶ作業を1日1回、1週間も続けただろうか、ようよう鳥小屋を空にしたのだった。

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イビサ港から旧市街の城壁を眺める

同時進行の型で、営業許可証などの書類上の手続きを進めた。ラテンの国々のお役所で何らかの許可証、認可などを受けるのは出口のない迷路に入り込むようなものだ。

まず、カフェテリアを開く建物が安全であるという証明を市役所の建設部でもらわなければならない。それには、建設した時の図面、施工仕様などなどを提出し、現地に検査官のお出ましを待つのだ。ゴメス・コンパウンドは、オリジナル部分がどこか分からなくなるほど増築、改築を繰り返していたから、元々の図面などあるはずがなかった。もちろん、増築は無許可で行われていたし、そんなことを一々役所に届け出るイビセンコはいない。

打ち明けて言えば…と気取るまでもないが、私がその図面を描いたのだ。
大きな紙を文房具屋で買い、何度か試作し、それらしくデッチあげたのだ。壁の厚さなどは至極厚つめに描き、建材はオルミゴン(コンクリート)と書き込み、別紙には配電、配管図まで付けて市役所に提出したのだ。受付の女性は、図面を詳しくチェックもせずに、あっさりと受け付けてくれ、受付証明書をくれたのだった。

そして曰く、「検査官が行くから、それまで待ってください…」
一瞬、これはえらいことになったと思った。当時、イビサでは大きなホテルやマンション、別荘ラッシュが始まりつつあったが、市役所には建築検査官が一人しかおらず、大きなアパートの工事が彼のお目見えを半年待ったとか、5分通りでき上がったホテルが、彼の命令で工事中止、やり直しを命じられたとかいう話を耳にしていたからだ。

お役所を散々たらい回しにされていた時、私同様にイビザでバー、ブティック、レストランを開こうという人たちと何度も顔を合わせ、大いにイビザのお役所仕事を愚痴りあったものだ。そのような手続きを代行してくれる司法書士のような地元の人と懇意になり、イビサでは許認可が下り、必要な書類がすべて揃うのを待っていては何事もできない、申し込んだという証書があれば、それで営業を始めてかまわない…、万が一、インスペクター(調査官)がきても、その受付証書を見せれば、それで済む…と教えられたのだ。

と同時に、外国人がイビサで事業をする時、申請書に必ず“スペイン人、地元民の雇用促進と観光客のニーズに応えるため”と書くことなど、入知恵されたのだった。失業率が異常に高かったスペインでは“雇用促進”がキーワードだった。

保健局への申請はとても容易だった。食品を扱う以上面倒な資格審査があるものと想像していたが、薄っぺらなカタログを渡され、それをよく読んでおけ…という通達を受けただけだった。

消防署への申告も必要だった。客席はすべて屋外だから、万が一、火災が起こってもお客さんは即逃げることができる。台所で大きなガスコンロ、オープン、グリルを使うから、換気扇と消火器の場所を描き込んだ図面を出すだけだった。あとで消防署から検査に行くと言われたが、ついに誰も来なかった。

そして、営業許可の申請だ。テーブルの配置図、椅子の総計、ダイニングルームの総面積、簡単なメニューの省略版、などなどを提出したところ、驚くべき速さで、1本フォークのカフェテリアの認可が下りたのだ。

これはスペイン政府観光省の管轄だ。スペインのレストランは4段階に分かれていて、超高級レストランは4本フォーク、『カサ・デ・バンブー』のような父ちゃん、母ちゃん商売は1本フォークになる。一応、客席数や床面積など大まかな基準はあるが、有名なグルメレストランがいつまでも3本フォークのままで営業し、料金も4本フォークと同等、もしくはそれ以上取っているところもある。

フォークの数に厳密な差はなく、差があるのは営業許可の時に支払う認可料だった。これは事前に支払う営業税なのだ。税務署は、どうせ小さな規模のレストランなどは収益をごまかすに決まっているから、最初に営業税を取ってしまえ、後はどれだけ儲けようが、損して潰れようがお前たちの勝手だ…という方針のようだった。

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イビサ中心街のレストラン、通路がテラス席で埋まる 

建物の安全検査官がすぐに来てくれた。なんと私がデッチあげた図面を持参していたから冷や汗ものだった。だが、彼は雑談しにきたのか、暇つぶしにきたのかと思わせるほど、建物は全く見ずに、カウンター越しに出したビールを美味そうに飲み、「ここでカフェテリアを開くのか、うまくいくといいね。この図面はお前が描いたんだろう、マア、良く描けている。幸運を祈っているよ…」とか言って帰って行ったのだった。

建物の検査官が来てくれたのは非常にラッキーだと思っていたところ、この検査官はゴメスさんが大昔、中学校の先生をしていた時の生徒だったと知った。すべてゴメスさんが市役所に一声かけてくれたおかげだったのだ。 

イビサだけではないだろうが、ラテンの国ではコネが盛大にモノを言うのだ。逆に、コネがないか、または使おうとしない人間は、いかなる事業も始めることができないのが現実だ。

他の外国人たち、スペイン本土から来た人たちが、店を開けるため四苦八苦しているのを尻目に、『カサ・デ・バンブー』は予定通りに開店する目途が立った。

イビサの小さな家具屋を通して発注していた椅子とテーブルが届き、グラス、皿などの食器類も買い揃え、物質的準備も整った。そして、待ちかねていたズッシリと重い鋳物のジンギスカン鍋も日本から届いた。

-…つづく

 

 

第13回:グラン・イナグラシオン(開店祝いパーティー)

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第2回:ヴィッキー 1 “ヴィーナスの誕生”
第3回:ヴィッキー 2 “カフェの常連とツケ”
第4回:ヴィッキー 3 “悪い友達グループ”
第5回:ヴィッキー 4 “カフェテリアができるまで”
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第10回:ヴィッキー 9 “コルネリアからの絵葉書”
第11回:カサ・デ・バンブー ~グランド・オープニング 1

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