坂本由起子
(さかもと・ゆきこ)

マーケティングの仕事に携わったあと結婚退社。その後数年間の海外生活を経験。地球をゴミだらけにしないためにも、自分にとって価値のあるものを探し出したいと日々願う主婦。東京在住。

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第13回:気持ちよく始めよう

夏休みも終わって、子供たちは2学期を迎える季節になった。 そういえばアメリカにいた頃、やっぱりこの時期は夏休みが終わり新学期が始まるという雰囲気で溢れていた。祝日や休日のたびに年中セールをしている国なのだが、クリスマスセールと同じくらい活気があったのが、新学期前の「Back to School Sale(バック・トゥ・スクール・セール)」だった。学校へ戻る…つまり新学期セールが始まるのだ。

新学期から使う文房具などのセールが始まりだと聞いたことがある。たしかに学校から渡されたショッピングリストを持って買い物をしている親子連れをよく見かける。少しでも自分のお気に入りを買ってもらおうと、子供たちが売り場でお母さん相手に一生懸命プレゼンテーションをしている光景にもよく出くわす。おねだりではないところがいかにもアメリカっぽくてほほえましいと同時に、こんな子供でも自分の意見を相手に伝える訓練ができているんだと感心させられる。「これは僕たちに必要なものだから絶対買うべきだよ」なんて6歳くらいの男の子が真剣に母親に説明しているのだ。たとえそれがスティック糊だとしても。

新学期に必要なのは文房具だけではない。服や靴、バッグ、家具、寝具…と、ほとんどのお店やデパートがセールになってしまう。食料品もお弁当用にセールが始まる。日本でいうところの4月にあたる時期なのだろう。まるで国じゅうが新しい学期を迎えるかのような雰囲気だ。夏休みでのんびりと過ごした体にエンジンをかけなくてはならない。その前の点検と燃料補給という感じだ。

私が小学生だった頃は、ちょうどサンリオのキャラクターが流行りだした頃でもあった。新学期前のサンリオショップは、小学生と母親たちでいつもにぎわっていたことを思い出す。ノートも定番のジャポニカ学習帳を使う女の子は少なくなっていた時期でもあった。だから新学期を利用してサンリオの文房具に替えてしまうのは、女の子の楽しみのひとつになっていたのだ。

新しい文房具は、何かいいことがありそうな、勉強もはかどるような気持ちにさえになる。新しいものにはそんなパワーがあるのかもしれない。ノートだっていつもより丁寧に文字を書こうと思うし、消しゴムもケースを折らないように気を付けたりしたものだった。 何でも初めは大事に使おうと思うのだ。汚れてきたりするとだんだん雑になってしまう。いかに最初の状態をキープして、きれいに大事に使えるか。

そのまま家事にあてはめてドキッとした。急に大掃除がしたくなった。このまま年末を迎えるのは、なんだかすっきりとしない。その前に部屋の模様替えがしたくなった。そして寝室の片隅に小さなテーブルとスタンドランプを置き、自分のデスクスペースを作った。なんだか新学期を迎える子供のような気分だ。

新しい服に新しい文房具を詰めたバッグを持つ学生たち。アメリカの9月の街はパリッとした空気に包まれる。もちろん大人たちも新しい気分になる。新学期前のちょっとした緊張感とワクワクする感じは、どこの国でも一緒なんだと思う。もう一度そんな気分を味わうために、夏が終わったら自分のために新学期を始めてみようと思う。

 

→ 第14回:暗闇があってこそ美しい


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