かお
杉山淳一
(すぎやま・じゅんいち)

1967年生まれ。信州大学経済学部卒業。株式会社アスキーにて7年間に渡りコンピュータ雑誌の広告営業を担当した後、1996年よりフリーライターとなる。PCゲーム、オンラインソフトの評価、大手PCメーカーのカタログ等で活躍中。

バックナンバー

第1回:コンピュータはダイナマイトだ

私たちの暮らしにとってコンピュータとは何か。

私はパソコン雑誌の広告営業を担当していたころから考え続けていた。楽しさという意味ではパソコンはオモチャかもしれないし、仕事に使うという点では電卓の進化形だ。パソコンをひとことで言い表せば“道具だ”と言えるだろう。パソコンは仕事の道具や遊びの道具として、私たちの暮らしに浸透しつつある。

パソコンに限らず、あらゆる道具が“いい道具”と呼ばれるためには次のどちらか、あるいは両方の要素を備えていなければならない。ひとつは“便利であること”、もうひとつは“楽しいこと”だ。仕事を便利にしてくれるモノは売れるし、使って楽しくなるモノも売れる。どちらかの要素がなければモノは売れないし、どちらの要素も無いモノは商品として成立しない。つまり、パソコンとは何かと問うことは、“道具とは何か”を問うことであり、その答えは“使う人を便利にしたり、楽しくしたりするモノ”だといえるだろう。たいていの道具は仕事専用だったり、遊び専用だったりする。しかし、パソコンのように“仕事にも遊びにも使える道具”には、楽しさや便利さだけでは語り尽くせない魅力を湛えているような気がする。同種の魅力を備える道具として他にはクルマや時計などが挙げられるだろう。これらの商品の進化は個人だけではなく、家族や地域、さらには人類の文化にも貢献する力を持っている。大きな視野で語れば、道具とは人類に貢献するという使命を持つ。

しかし残念なことに、こうした道具の持つ影響力が大きければ大きいほど、使い方によっては私たちに大きなダメージを与えかねない。自動車は私たちの暮らしに大きなメリットを生み出したけれども、交通事故により日本だけでも毎年1万人の生命を奪っている。タバコに火をつけるには欠かせないマッチやライターは、一般の人々と同じように放火魔にも安価で手に入れることができる。切れ味の良い包丁はおいしい料理に貢献している。しかし、バンドエイドの売上にも大きな影響を与えているはずだ。  こうした“良い道具の持つ反力”について、もっとも考えさせられる例がダイナマイトだ。

科学者のアルフレッド・ノーベルは、低温でも、わずかな圧力や衝撃を与えると爆発するニトログリセリンが砂や澱粉に染み込ませると爆発しにくくなることを発見した。彼はこの発見をもとに特許を取り、ダイナマイトや無煙火薬、起爆剤を次々と開発し、鉱物採取や建設現場の作業効率を向上させた。彼の発明は多くの人に富を与え、人類の発展に寄与した。しかし、火薬が兵器として使用されることによって、その発明は結果として多くの人々の生命を奪うことにもなった。ノーベルは実験中に誤って弟を爆死させているが、そのときでさえ、以後もっと多くの悲劇が起こることを見抜くことはできなかった。それを悔やんだ彼は、自らの遺産をすべて人類の平和と進歩に貢献した人々に寄与するように言い残した。私たちはノーベル賞のニュースを聞くときに、受賞者を称えるだけではなく、このエピソードを思い出して、手にした道具の使い方を間違わないように気持ちを引き締めるべきではないか。  私は思うのだ。誰もが認める優れた道具、コンピュータはどうだろうか、と。  たしかにコンピュータやIT技術と呼ばれるものは私たちの暮らしを豊かにしてくれているようだ。コンピュータは便利だし、楽しい遊びも提供してくれる。しかし、これだけ人類に影響を及ぼす道具だからこそ、その反力も大きいはずだ。  私たちはコンピュータとどのようにつきあうべきか──このコラムではそうした話題について語っていきたいと思っている。

 

→ 第2回:“プロゲーマー”との出会い


[ eの感覚 ] [ デジタル時事放談 ] [ ダンス・ウィズ・キッズ ] [ 幸福の買い物 ]
[ シリコンバレー ] [ 貿易風の吹く島から ] [ ワイン遊び ] [ よりみち ] [ TOP ]


ご意見・ご感想は postmail@norari.net まで。
NORARI (c)2001