野添千納
(のぞい・ちの)

パソコン通信黎明期よりパソコンをコミュニケーションの手段として使い続けるコンピューター&コミュニケーション・ジャーナリスト。33歳。

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第12回:デジタルライフには品質管理や品質基準が重要

「パソコン=便利」というのは間違ったイメージだ。「パソコン=正確」も「パソコン=きちっとしている」も嘘である。

パソコンは確かに極端に便利なときもあるが、その一方で、信じられないほど不便なことも多く、家電や文具としては最低の品質と分類したくなることもある。この両極端な側面こそパソコン、ひいてはデジタル製品の本質なのかも知れない。

もし、現実の世界で何回かに1回の割合で、途中まで書き込んだ書類が真っ白に戻ってしまったら、あなたはどうするだろう。でも、これはパソコンの上ではよくあるできごとだ。原因はOSのクラッシュだったり、Webブラウザだったり、作成されたホームページそのものにあったりとさまざまだ。だから、OSメーカーにはWebブラウザの開発者を、Webブラウザの開発者は作成されたホームページそのものを責めて自らの責任を回避しようとする。

でも、紙の書類なら、誰が書類を作成していようと、どこ製のペンを使っていようと、どこの会社の紙を使っていうようと、読みづらいことはあっても、最初から書き直しなんていうハメになることはない。これはフォームがわかりづらくて最初から書き直しなら、書類の作成者が悪いわけだし、インクが出ないのならペンが悪い、ペンを変えてもダメなら紙質がだめなんだと責任の所在が明確なのも一因かも知れない。

デジタル技術もハードの側に問題があるうちは、まだ責任の所在をつきとめやすいが、これがソフトとなるとお手上げだ。にも関わらず、世の中のデジタル製品は、どんどんとソフトへの依存度が高くなっている。

もはや、「アップデート」、「バージョンアップ」があるのはパソコンだけではない。デジタルBS/CSチューナーも、デジタルビデオデッキも、デジタルカメラも、デジタルと名の付く製品はほとんど、ソフトウェア(ハードに組み込まれたソフトという意味でファームウェアとも呼ばれたりする)のアップデートが可能だ。後から修正ができるだけに未完全なまま出荷されることも多い。このアップデートのおかげで、まだ正式に決まる前の未来の規格を採用した製品が、いち早く市場に並ぶというメリットもあるが、これを商業品質の製品と呼んでいいかというと、アナログ製品をつくってきた人たちには疑問が残るかも知れない。

ソフト依存症のおかげで、デジタルカメラも、デジタルビデオデッキも、デジタルビデオカメラも、デジタルBSチューナーも、デジタルCSチューナーも、デジタル音楽プレーヤーも、デジタルと頭につく製品はすべてクラッシュする。デジタル財布なんていう製品が出てきてもあまり頼りにはしたくないものだ。

ソフトに依存すると、動作は不安定になる。これはソフトウェアの作成方法--つまりプログラミング手法--に何か抜本的改革でも起こらない限り解決しないかも知れない。しかし、それ以上に困ったのが、最近、「不安定」であるということ以外でも、アナログの製品/サービスに比べ質が低いのが当たり前になりつつあることだ。

たとえば、最近話題のブロードバンドサービスもその1つ。アナログの電話なら電話局の局舎にどんなに近かろうと、どんなに離れていようと関係なく同じサービスを受けることができた。ところが、最近、話題のADSLではこの距離がかなりサービスの質に影響を与える。局舎に近い範囲ならADSL事業者が唱える理論値に近い性能が出ることもあるが、ほとんどの場合は宣伝されている性能の半分程度しか出ない。なかにはスピード的にまったく使い物にならないこともある。

局舎に近くても、まわりにISDNを使っている人が多くなれば、やはり同様にサービス品質が落ちる。さらに、せっかくADSLを敷設しても、ウィルスや悪意に満ちた行為(侵入やアタックなど)のおかげで、サービスがしばらく使えなくなるということもあるのだ。

デジタル衛星放送も、台風などの影響で見えなくなってしまうことが多いし、電波状況が悪い時には全体的に画質が落ちるのではなく、絵が止まってしまったり、画面の一部にブロックのようなものが表示されて見えなくなってしまう。 最近、デジタルビデオのD-VHSも、1本に24時間録画できるのはいいが、ものによってはBSデジタル放送などの録画をビデオ単体では再生できない製品もある(BSデジタルチューナーと連係して再生する)。さらに、これまでのアナログビデオのような画面を見ながらの早送り、巻き戻しはできない(最新機種の中にはそれっぽく見えるものもあるが)。このD-VHSと呼ばれる方式のビデオデッキ、CPUがありメモリがあり、アップデート可能なMPEG-2という画像方式のエンコーダー/デコーダーがあったりと、中身はほとんどパソコンそのもので、ビデオの停止中でも冷却用ファンがうるさい。

こうした質の低さの広まりは、製品開発ばかりが先に進み、製品品質を管理する基準がそれに追いついていないのも大きな原因だろう。筆者は最近、デジタル製品を本当に広めていく上では、今後はそうした基準の確立こそが、本当に重要なのではないかと思い始めている。

 

→ 最終回: マニアとおたく 相対的価値観と創造


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