野添千納
(のぞい・ちの)

パソコン通信黎明期よりパソコンをコミュニケーションの手段として使い続けるコンピューター&コミュニケーション・ジャーナリスト。33歳。

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最終回:IT不毛時代の夜明けを夢見て

今日のIT製品市場は消費社会を前提になりたっている。毎月のように数えられないほどの携帯電話、デジタルカメラ、パソコンが生み出されては、数え切れないほどの製品が売れない旧モデルとして姿を消していく。華やかなパソコンショップとは裏腹に、闇世界では、厳重な守秘契約を結んだ業者が毎月大量のパソコンを廃棄している。

昔、農家が価格調整のために穀物や果物を大量に処分している写真を見て子供ながらにおぞましさを感じたが、今、完全な工業製品であるはずのIT製品でも無計画な(あるいは考えが足りない)製品戦略とバカげた価格競争が、さらにおぞましい光景を描き出している。

昔のパソコン世界には夢があった。将来、きっとパソコン通信を使って世界中の人と放しができるようになる。いずれ、パソコンのグラフィックは写真並みに高画質になる。いずれもっとリアルなフライトシミュレーターやドライビングシミュレーターがプレイできるようになる。いずれパソコンで本を読むようになる。しかし、すべての夢がかない始めた今、パソコンは非常に夢のないモノになってしまった。  

今日、パソコンメーカーに求められている進化は「技術革新」ではない。「商売上手になること」だ。  速さと安さと、おまけソフトによるお得感を一番バランスよく調合したメーカーが勝つのであって、どんなに素晴らしい技術を持っていても、高かったり、お得感が少ないメーカーには誰も見向きもしない。 いや、事態はもっと深刻かも知れない。最近では、そもそもマジメにスペックシートを見比べている人すら見かけない。アップル、ソニー、NEC、と言った名の通ったブランドで、もっともお得感があるモデルが売れるのだ。

もっとも、ブランド買いは必ずしも間違いとは言えないかも知れない。実際、ちゃんと考え込んでいい製品をつくっているのもこの3社くらいだからだ(売れ筋にはならないが、あと、1社、いい仕事をしている会社を入れるとしたらIBMだろう。しかし、同社の質実剛健なイメージは残念ながらコンシューマーにとっては受け入れがたいようだ)。

アップルはここいらへんのところをうまくつかんでいて、四半期の波を計算しながらめざといタイミングで新機種を投入してくる。同社に関して言えばひとつひとつの製品を結構、丁寧につくっている点にも好感が持てる。例えば製品を持った時の感触や、電源アダプターの使い勝手にまで気を配って改良をしているメーカーは少ない。ソニー製品にもこれに似たイノベーター魂とデザイナー魂が時々影を覗かせるが、薄皮を1枚剥いた下ではたくましい商魂とソニーブランドの押しつけがとぐろを巻いている。NECとIBMは、かつての栄光を笠に着ず、誠実かつ堅実にモノづくりをしているあたりに好感が持てる。しかし、残念ながらIntelとAMDのCPUスピード競争、マイクロソフトのOSアップデート攻勢に振り回されている限り、パソコンの進歩は止まったままだ。

以前、何かの雑誌で読んだアップル創設者、スティーブ・ウォズニアック氏のこんな言葉が筆者の心を打った:  「半導体の小型化技術もいずれ(回線幅が)光の波長の短さにまで達成すればそれ以上は進化しようがなくなる。パソコンはそうなって初めて本当に楽しいものになる。長い間止まっていたソフトウェアの進化が始まるのだ」

ソフトウェアはどんなに進化しても廃棄物は生み出さない。まるでブラックホールのように底なしに、開発者達の労力や時間を吸い込む魔物のような存在だが、最近ではオープンソース活動やそのためのツールなど英知を共有するための文化も発達してきた。そもそもこのオープンソースという基本原理からして、今日の資本主義の世の中を真っ向から否定する考え方だ。  次のパラダイムシフトは、もうそこまで来ているのかも知れない。

 

→ 第1回:意思のチカラ

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