野添千納
(のぞい・ちの)

パソコン通信黎明期よりパソコンをコミュニケーションの手段として使い続けるコンピューター&コミュニケーション・ジャーナリスト。33歳。

バックナンバー

第11回:デジタルライフスタイルは無駄だらけ

アップル社が提案する「デジタルライフスタイル」にソニーが推し進める「ソニースタイル」…どちらもパソコンやインターネット、そしてそれらとつながるさまざまなデジタル家電製品が21世紀の新しいライフスタイルを構築しつつあることを表わした言葉だ。

だが両社(やその他の企業)が提案する未来のライフスタイルのなかには、まだまだ時期尚早なものも多い。いや、パソコンだけではない。最近話題のデジタルAV機器ももそうだ。DVDレコーダーと呼ばれる機器も、BSデジタルハイビジョンテレビも、まだ熟れどき前だ。

現行のDVDレコーダーは、どれも10万円を超す価格で、おまけにメーカーごとに微妙に規格が異なっている。数年後にどの規格がデジタル時代の「ベータ」(VHSに敗北したあのホームビデオ規格だ)になってもおかしくない。話題のデジタルハイビジョン放送が録画できないのも、あきらかに「改善の必要あり」であり、数年後にはそれが行なわれるのが目に見えている。

テレビもそうだ。今、あわててBSデジタルハイビジョンのテレビを買っても、これから新しいCSデジタル放送が始まり、2003年には地上波デジタル放送も始まる。現在売られているAV機器に飛びついてしまうと、3年後にはテレビの外側にBSデジタル放送チューナーとCSデジタル放送チューナー、地上波デジタル放送チューナーに加えて、D-VHSデッキとDVDレコーダーとまるで一昔前のステレオコンポセットのようなおびただしい機器が並んでしまうことになりかねない。おそらく2004~2005年頃くらいになれば、もっとスマートな、これ1台でどのデジタル放送でも受信できるテレビなんていうものが発売されるのかもしれない。

じゃあ、それまで待てばいいのかといえば、そういうわけではない。競争が激しくなることで、各放送規格の各チャンネルで生き残りをかけたおもしろい番組の大安売り大合戦が始まるに違いない。早期利用者には、早期利用者なりのメリットはあるはずだ。

じつはこれは、初心者からよく受ける「パソコンはいつ買うべきか」という問いに対する答えにもよく似ている。あなたが大枚をはたいて購入したパソコンも来年には旧機種になっている。再来年にはかなり見劣りがする。そして再々来年には我慢しきれず新しい機種に買い換えたくなる。だから、今は安いモデルで我慢する…という手もあるが、そうすれば1~2年は早く買い換えたい気持ちが高ぶることになり、結局かかるお金は一緒なのだ。

デジタルの機器は欲しい感情が高まったときが買いどきであり。買ったあとの値下がりや新機種登場のニュースは気にしてはならない。

購入後はできるだけお金をかけずに楽しむ、というのも重要な鉄則だ。というのも、延命しようと、高速化や拡張を重ねると、結局、お金をかけてしまったという意識で、なかなか新機種に乗り換えられなくなる。しばらくすると、高速化や拡張にかあけた出費より、ずっと安い額で、はるかに性能のいいパソコンが買える事実に気がついて愕然とするのである。

そもそも、ICやLSI、超LSIといったシリコンの超高密度電子部品が使い捨て文化を背景にしている。アナログ回路の電子機器なら配線をし直したり、ハンダをたらしたりで直すことができたが、デジタル電子部品は、壊れたパーツを捨てて、新しいものに交換するのがやり方だ。

デジタルというと、クリーンで無駄がなく、摩耗せず、効率がよく、エコロジカルというイメージもあるが、デジタルライフスタイルをもたらすモノたち自体はかなりの無駄を前提にして生まれてくるのだ。おまけにデジタルな機器は進化が速い。アナログな機器では信じられないようなペースで次から次へと新製品が登場し、旧製品が陳腐化していく。

今日におけるパソコンの元祖ともいえるアップル社のアップルIIをほとんど1人で創りあげたスティーブ・ウォズニアック氏はこんなことをいっている。「やがて、超LSI上には光の波長の微細さで配線をすることが可能になる。パソコンの進化はそこから始まる」と。

電子部品をそれ以上小型化するのは不可能になる、ということはつまり、それ以上集積度をあげることができなくなり、ハードウェアの進化が頭打ちになる。ウォズニアックは、そうなればハードウェアの進化の比重よりソフトウェアの進化の比重の方が大きくなり、パソコンがより楽しくなると言いたいのだ。

これはパソコンだけの話ではない。我々の身のまわりにあるさまざまなデジタル機器も、そうなったときにはじめてクリーンで、無駄がなく、摩耗せず、効率がよく、エコロジカルなものになるのだ。それはまだまだかなり先のことになるだろう。今の勢いだと人類は光の波長の壁を打ち破るテクノロジーにも手が届くかもしれない。もしも、そうなったとき、我々はこの大量消費のサイクルをいつまで続けることにのだろう。

 

→ 第12回:デジタルライフには品質管理や品質基準が重要


[ eの感覚 ] [ デジタル時事放談 ] [ ダンス・ウィズ・キッズ ] [ 幸福の買い物 ] [ 生き物進化中 ]
[ シリコンバレー ] [ 貿易風の吹く島から ] [ ワイン遊び ] [ よりみち ] [ TOP ]


ご意見・ご感想は postmail@norari.net まで。
NORARI (c)2001