原園 綾
(はらぞの・あや)

1967年生まれ。世田谷区立赤堤小卒。ニューヨーク在住。大きくなったら何になろうかな?

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第5回:オットセイのコルドバよん

「キロークゥエーッ!」 あたしオットセイ。いつも強烈な雄叫び(メスなのに)上げてます。大西洋西岸にあるニューヨーク水族館に住んでるの。「コルドバ」って呼んでね。生まれはよその水族館です。ここで同居してる仲間は、オスのヨーダ、先日出産したロキシーさんとベイビー(まだ名前は決まってないの)、目がちょっと悪いタスマニア、元気なJD、同じ水族館からやって来た妹分のペコラで、みんなで7匹いるの。いつも同じ水槽だけど、ケンカもせず仲良くやってるわ。「キローッッ!」 あたしの声によくお客さんが驚くのでついつい「キョエーッ!」とか「ギョカー!」とか言って楽しんじゃう。

最近のニュースはロキシーさんの出産! 飼育係が今か今かと入れ代わり立ち代わり見に来て徹夜までしていたの。期待の赤ちゃんは男の子!オットセイは出産と産後3カ月ばかりの子育ては陸で行うのよ。つまり水中で出産するイルカさんとは違って最初からコドモは泳げる訳ではないので、飼育係がプールに落っこちないよう今もつきっきり。お客さんの「きゃーわいーい!」という注目も浴びてすっかり人気者のおチビさん。

出産前に困ったのは雄のヨーダがしきりにロキシーさんに「ウオーッ」とチョッカイを出してたこと。彼は子供を待っていたのではなくて、出産したら可能になる交尾が待切れなかった模様。「なんたって12ヶ月待ってたんだから」と男性の飼育係は同情してる…。オットセイは夏が出産と繁殖の季節で、野生では夏場だけアラスカなど北方に移動して陸に上がるのです。オスは強くないと自分のハーレムが持てない一夫多妻制。まずオスが先に陣取りをして、陣地を持つオスの元に妊娠したメスがドンドン到着。すぐ出産、数日のうちに交尾して、来年夏に出産することになる子供をつくるというのがサイクルなんだそう。あたしは4歳と若くて年頃になりつつつあるんだけど、ここのオスはヨーダしかいないっちゅーのに、ヨーダは年上好みときている!

ヨーダには効き目ないけど、あたしのチャームポイントはちっちゃなお耳よ。オットセイはeared(耳のある)sealというグループにいて、アザラシとは違って小さな耳がチョンと突き出してるの。それに前後のヒレを足代わりに動かして陸上でも結構動ける。アザラシはゴローンとお腹で地面に転がって移動するしかできないけど。アシカは同じグループで耳もあるし区別難しいけど、敢えて言えばオットセイの方が体が小さくて、毛皮がびっしりと濃い。あんまり素敵な毛皮だから一時は狩猟の的になり激減してしまった。もう条約で守られてるけど、漁の網や海水汚染、エルニーニョ現象の影響を受けて危機にさらされてるのも事実でしゅ。

泳ぐのダーイ好き! 後ろのヒレで舵をとって、大きな前ヒレで水を掻いて、水中でシュワーッと宇宙船のように飛んでる感じ。一日のほとんど水槽の中で行ったり来たりしてるのだ。トイレも水中で失礼。水族館では岩場があるけど、あんまり上がらない。ただ食事の時には小魚を投げてくれる飼育係の足元まで思わず這い上がってしまうこともありますのよ。おほほ。

自然では夏以外はずーっと海にいるの。冬はメスとコドモは南下して日本側では銚子沖、アメリカ側だとメキシコ国境近くまで行くグループもいるんだって。寝てる時とかヒレを水面より上に持ち上げて、体温調整しちゃう。ヒレには毛が生えてないから水中で熱を失い易いのだ。他は毛皮と脂肪で防寒はバッチリ。 好物はイカ!おさかな!ベジテリアンちゃうねん。だって、あたしらの祖先、陸上にいた熊のような肉食の哺乳類なの。

生命は海から生まれて、陸にも広がりました。恐竜の時代が終わった頃、陸上に哺乳類が沢山出て来て、海に戻っていった哺乳類もいました。クジラ、イルカ、ジュゴン、マナティー、ラッコさんなどはこんな同じ運命を歩んだのね。手や足が進化してヒレになったり、退化したり各々便利な形になりましたとさ。じゃーねー。

 

→ 第6回:カッパの夏休み日記


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