坂本由起子
(さかもと・ゆきこ)

マーケティングの仕事に携わったあと結婚退社。その後数年間の海外生活を経験。地球をゴミだらけにしないためにも、自分にとって価値のあるものを探し出したいと日々願う主婦。東京在住。

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第4回:春の小さな買い物

春の訪れを感じると、毎年買いたくなる物がある。それはハーブの苗たち。最近はどこの生花店でもハーブの苗木が売っていて、花とはまた違う存在感がある。春から初夏の訪れを感じさせる風景としてすっかり定着したようだ。

ドライのハーブは手軽で保存も便利だが、やっぱりフレッシュの方が味も見た目の楽しさも数段上だ。けれどスーパーマーケットで売っているフレッシュハーブは、二人で使うには量が多すぎて無駄にしてしまうことのほうが多い。好きな分量だけ買えれば問題ないのだが、残念ながらそういう店は日本ではまだないようだ。同じように思っている人が多いのか、ベランダでハーブ栽培をする人は年々増えていると聞く。私もそんな一人で、数年前から自宅で栽培をしている。本当は種蒔きからすればよいのだが、苗からの方が失敗がないので最近はもっぱら苗を買っている。植木鉢も、そのまま飾っておきたくなるようなかわいらしいデザインのものがたくさん出回っている。どんな鉢にしようかと選ぶのもまた楽しい時間だ。

さて、陽射しが日に日に強くなる梅雨入り前のこの時期、ハーブはぐんぐん成長する。毎日何かしら変化があるので、早起きするのが楽しみになってくる。朝が苦手な私は、ハーブがやってくると朝型の生活にシフトする。水をあげたばかりの苗は太陽の光を受けてきらきら眩しい。葉にそっと触れるとハーブの香りが漂い、ほっとする。緑と土の匂いは不思議と落ちつくものだ。

ハーブの一番いいところは収穫ができるところだ。しかも使う分だけ摘んでいけばいい。適度に摘んであげる方が新しい芽が出やすいので、毎日なんらかの形で登場させてあげる。 たとえば、私がよく作るのがオリーブオイルにローズマリーとニンニクを入れて香りを移したフレーバーオイル。それにフランスパンを付けて食べるだけ。たったこれだけの簡単なものだけど、バターよりもパンの味がおいしく感じられる。バジルやイタリアンパセリなどは刻んでオムレツに入れてみる。いつものオムレツが優しくさわやかな味になる。日本の代表的なハーブであるシソも薬味や飾りとして出番は多い。なくてもいいけれど、あるとうれしいのがハーブたちなのだ。

こんな風に毎日つき合っていくうちに、もっと陽射しが欲しそうだとか、暑いところは苦手だとか、いろいろわかってくるようになる。そんな彼らの声を聞き、それに応えてあげると、苗との間に信頼関係のようなものが生まれる。本当に話すことはできなくても「この辺りから新芽が出そうだね」などと、つい会話をしていたりする。こんな姿を他の人に見られたら恥ずかしくなってしまうが、植物を育てている多くの人が、同じようなことをしているのではないかと思う。

植物とのいい関係を築く。手で摘み取って料理に使う。案外こんなちょっとしたことが豊かな生活を送っているという実感につながるのかもしれない。春は新しいことが始まる季節でもあり、体も心も疲れやすい。小さな買い物だけど、ハーブがもたらすゆとりの時間はとても大きい。

 

→ 第5回:便利なお米は地球に優しい


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