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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第633回:キチガイに刃物、オマワリに拳銃

更新日2019/11/07


アメリカのお巡りさんがやたらにピストルを抜き、ぶっ放す傾向があるのは、まさかビデオゲームやハリウッドのアクション映画の影響ではないでしょうけど、相当な数の人、主に黒人ですが、お巡りさんに撃たれ、死んでいます。

お巡りさんの方も、これだけ銃が出回っているのですから、いつ撃たれるか分からない緊張の連続なのでしょう。

それにしても、自宅でくつろいでいるところへ、いきなりお巡りさんが踏み込んできて、問答無用、切捨て御免とばかり、撃ち殺されるのは異常です。堪りません。 

去年の9月、ボサム・シェム・ジーンさん(26歳の黒人です)が自分のアパートにいたところ、白人の婦警、アンバー・グアイガー(Amber Guyger)が入ってきて、ボサムさんをピストルで撃ち殺したのです。婦警のアンバーはそこが自分の部屋と思い込み、間違ってボサムさんの部屋に入り、アレッツ、私の部屋に黒人が入り込んでいる…と反射的に撃ち殺してしまったと言うのです。正規で正当な住人ボサムさんは銃など持っていませんでした。彼はカリブの島国サンタ・ルチアから移住してきた黒人でした。

そして今年の10月には、アタティアーナさん(Atatiana Jefferson;28歳の黒人女性)が窓の外から白人の警官アーロン(Auron Dean)に撃ち殺されました。アタティアーナさんは8歳の甥っ子とビデオゲームをして遊んでいることろでした。そこを、怪しげな動きをしている黒人がいる、と何の警告も発しないままいきなり、ズドーンと外から撃ったのです。

黒人は自宅にいてさえ、いつお巡りさんに撃たれるか、殺されるか分からない状態で暮らしているのです。

この両方の事件とも、テキサス州のダラス・フォートワースというツインシティーで起こっています。今年に入ってからでも、このような事件、白人の警官が黒人を撃った事件がダラス・フォートワースで6件起こっています。

ダラス・フォートワースの警察官が皆が皆白人ではありません。中にはもちろん黒人もいますし、ヒスパニックと呼ばれている主にメキシコ、中南米系の人もいます。当局では、黒人地区をパトロールする時には、できるだけ黒人のお巡りさん、ヒスパニック地区の時にはヒスパニックのお巡りさん、二人で動くのが基本ですから、少なくとも一人は同血統の人にしていますが、緊急時にはそうとばかり言っていられないのでしょう。

結果的には、白人の警官が黒人を撃ち殺す事件ばかりで、これがもし黒人警官が白人の女性を彼女の自宅で撃ち殺しでもしたら、とんでもない大問題になるでしょう。

ダラス・フォートワースの警察署は、事件後1週間以上経ってから、世論に負けた形で殺人犯の白人警察官を懲戒免職にしています。普段なら仲間意識の強いお巡りさん同士、“あいつ、職務熱心なあまり、ついウッカリやっちゃただけだ、マスコミが静まるまで目立たない閑職に回し、ホトボリがさめたら、また現職復帰させてやる”というところでしょうか。

被害者の黒人にとって悪いのは、“死人に口なし”でどのような状況で殺されたのか、当事者の警官だけしか証人がいないことです。今回取り上げた2件は、ボサムさんは自分のアパートにいて、間違って迷い込んできた婦警に殺され、ボサムさんはピストルなど持っていなかった事実が明確ですし、アタティアーナさんはいきなり外から窓越しに撃たれていますから、殺人者であるお巡りさんがどんな言い訳をしようが事実関係は動かせません。

それに、黒人を撃ってしまった警察官が、すぐに自分の間違いを認め、救急車を呼んでいれば被害者が助かった可能性が高いのですが、それも怠っています。殺された黒人は、素晴らしい武器を持ち歩いている少年ギャング団ではないのです。

セント・ルイスの黒人地区ファーガソンで起きた黒人の少年射殺事件が暴動を招き、市民権運動以来、最大の規模でアメリカ全土に黒人運動が拡大した二の舞になるのをダラス・フォートワースでは恐れていたのでしょう。やっとという感じで、射殺事件を起こした警察官を殺人罪で逮捕しています。

アタティアーナさんの親族や教会のサポートグループは、事件の検証をダラス・フォートワースの警察ではなく、中立的立場、できればFBIが取り仕切るように要求しています。“泥棒が泥棒を捕まえ、調べたところで何が分かるのだ…”というところでしょう。それだけ黒人、ヒスパニックなどの少数民族は、白人至上主義の官憲を信用していないのです。

私にしても、色つきのダンナさんを持っていますし、これがまた制服を着た横柄な人種を毛嫌いしていますから、いつトラブルを起こすか気が気ではありません。以前、カンサス州の田舎町で彼と一緒にいた時、シェリフに彼が運転していた車を止められたことがあります。

シェリフが私たちの車に近寄ってくるなり、ダンナさん、「俺が酒を飲んでいるとでも思っているのか? 一体なんの理由で止めたんだ、身分証明書を見せろ!」と、向こうが口を開く前に言ったのです。助手席にいた私が取り成さなかったら、どうなっていたことやら分かりません。

ここ大学町に黒人は非常に少なく、目立ちます。知り合いのトマスとダラス(町ではなく彼の名前です。二人とも黒人です)は、交通警官に対して、俺たち黒人はガキの時から、警察官に決して逆らうな、決して懐やポケットに手を入れるな、グラーブコンパートメントをたとえ車の所有権証を取り出すためでも、オマワリに促されるまで開けるな、即座にエンジンを切り、両手をハンドルの上に置けと、しつこいくらい叩き込まれていると言うのです。

ちょっとした手違いでも、即後ろ手錠をかけられ、拘置所にぶち込まれるか、運が悪ければ撃ち殺される…俺たちゃー、オマワリには いつも慇懃に“Yes, Sir”と答え、決して逆らうなと骨身に染みるほど言われ続けているからな…と言うのです。ウチのダンナさんにも、トマスたちを見習って欲しいものです。

しかし、続発している警察官の黒人射殺事件は、問答無用、切捨て御免の世界なのです。銃の乱射やドライブ・バイ・シューティング(走っている車から町の人を撃つこと)だけで足りずに、お巡りさんまで、外から家の中の人を撃ってくるのですから、自分の家にいてさえ安心できなくなってきました。

ウチのダンナさんに付き合って古臭い西部劇を観ていますが、いくら悪徳シェリフでも外から家の中にいる女性を撃ち殺すなんてことはありません。なんだか、昔の西部の無法地帯がノドカに見えてきました。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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