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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第626回:学期始めのパーティー

更新日2019/09/19




新入生歓迎のバーベキュー・パーティーが大学のキャンパスで開かれたことは、以前触れました。学長さんが主催し、大学で働く人全員を招待して、先生、事務職、管理部門の人たちの立食パーティーも行われます。このパーティーはあまりに大きすぎる上、大半の人は見たこともありませんから、そこに集まった人たちは自然、同じ学部で互いによく知っている人が輪を作ることになります。

そこへいくと、学部内の先生が自分の専門分野の人だけを集めて行われるパーティーの方がグンと親密感があります。人文学部といってもさらにその下に細分化された英語、英文科の先生たちだけが集まるパーティーに行ってきました。経済、商科、社会学、心理学は同じ文化系でも全く別になります。それどころか、他の言語、スペイン語、ギリシャ語、ラテン語、ドイツ語、フランス語の先生は、また別のグループでパーティーをやっています。

英語関係の先生が圧倒的に多いこともあり、パートタイムの臨時講師を含めると、それだけで40~50人になるのではないかしら。私の専門は言語学という誰も知らない、いわば言語の科学です。もちろん、そんな先生は私一人です。英語の歴史と文法を教えている関係で、私も英語学科のパーティーにお呼びがかかります。

普段、至って腰の軽い、行動的なウチのダンナさん、大学の公式行事、レセプション、パーティーへの出席率が、このところグンと下がり30%を割っているのではないかしら。私が今年で引退することもあって、これが最後だよ…と、山から引き摺り下ろすように、英語学科のパーティーに同伴させたのでした。

パーティーと言っても、ハリウッドやBBCの映画に出てくるようなファッショナブルでエレガントなものではありません。学部長さんの家の庭からは、コロラド川、そしてその向こうにブッククリフ、グランドメッサの山々が見渡せる素晴らしい眺望がひらけています。まだ残暑がありましたから、ガーデンパーティーで、皆、日陰のテラス、木陰のベンチに集まります。

最年少は生まれて6ヵ月少々の玉のような赤ちゃん、最年長は圧倒的な差をつけて他を引き離し、ウチのダンナさんでした。

赤ん坊と犬に不思議な吸引力というのかしら、モテル、ダンナさん。その赤ちゃんに日本語で“エマ”(赤ちゃんの名前です)に話しかけると、目を大きく見開き、満面とはこのことを言うのでしょう、手足をバタバタさせて微笑み返すのです。「俺のハゲ頭を見て、少し大きめの同類だと思ってるんじゃないか…」と謙遜していました。普段は赤ん坊と婆さんにモテるのはいいが、一番肝心な中間層にもモテたいと言っているのですが…。

大学の先生たちというのは、一般に狭い生き方を続けてきた世間知らず、社交下手が多く、自分の専門分野においては、トウトウと捲し立てますが、一歩そのアリの穴から外れると、会話を成り立たせることができなくなる傾向があります。サスガにこのようなパーティーでジェイムス・ジョイスの文学論を戦わせるようなことはありませんが、気楽に軽い会話に冗談を交えて交わすことができる教授は滅多にいません。

“守備範囲が広いのが俺の特徴”と自認するだけあって、ダンナさん、呆れるくらい教授たちと気軽に話しているのです。もちろん文学論などではなく、庭の草花のでき具合、マリファナショップでの体験談、最近、松に取り付き、枯らして行く松喰い虫(ジャパニーズ・ビートル)のこと、山で採れる美味しいキノコのことなどを話題にして、一人ポツネントとしている人がいると目ざとく見つけ、自分から進んで、俺はあそこにいるヤセッポチ(私のことです)のダンナ業を半世紀も(大袈裟です)やっているナニナニだがと自己紹介し、話題に引き込むのです。どうしてナカナカ社交上手なのです。

それとなく観察していると、服装こそ救世軍の払い下げ古着とか、私の叔父、義理の弟からのお下がりですが、いかにも自信ありげに堂々としているのです。集まった教授たちの中では、なんだか一番偉い先生にさえ見えるのです。そのことを彼に言ったところ、「エ~ッ、俺、自信があるとかないとか考えたこともないな~、それともあいつらの前ではヘリクダッテ、ビビらなきゃならんのか…?」と呑気なものです。

そして、しばらく考え込み、「オイ、ひょっとすると、ここで博士号を持っていないのはあの赤ん坊と俺だけじゃないか?」と言うのです。見回したところ、確かに回りは博士だらけ、毎年本を出す偉い先生もいますが、化石のような(私もそれに近いのですが…)老教授、カビが生えた書斎、研究室に閉じ篭っているようなデブデブ、ブヨブヨ、お腹が出て、姿勢の悪い教授が圧倒的多数で、陽に焼け、姿勢の良い人種、しかも絶滅間近で希少価値がありそうなのは、ウチのダンナさんだけなのでした。

次の日、学校で会う先生ごとにウチのダンナさんはどうしてる、あんなチャーミングな人、老人は見たことがないとか、お世辞99%にしろ、やたらに人気があり、この田舎町で町会議員くらいにはすぐにも当選しそうな気配です。どうもウチのダンナさん、人をタラシコム才能があるようなのです。

そんなことを彼に伝えたところ、「ヨッシャ、そんだば、12月のお前の引退パーティーには救世軍ファッションはやめて、タキシードか赤フンドシで、みなのドギモを抜いたろか~」などと愚にもつかぬことを言っています。 

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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