第931回:一人暮らしの老人と介護保険
私の義理のお兄さんが亡くなりました。私のダンナさんのお姉さんの夫です。享年86歳でした。これで私に四人いた義理の姉は(姉の一人はすでに亡くなっていますが)全員寡婦になり、一人暮らしになりました。私の方は私が最年長ですから、直接の親族を含め、義理の弟、妹まだ誰も欠けていません。
それにしても、親、兄弟、親族に一人暮らしが増えてきました。
一人暮らしの方が気楽で良い、今まで散々頑固な旦那さん?の世話をし続けてきたから、夫が亡くなり、やっと思い切り羽を伸ばせると、一人になった途端に急に元気百倍になった寡婦もかなり目にしました。それでも、身内に一人暮らしの老人がいるのは気掛かりなものです。
一つの大きな理由は、万が一、トイレ、お風呂場などで倒れても、誰か子供たちでも来るまで、連絡の取りようがないことです。私の寡婦だった叔母は台所で倒れ、死んでいるのが見つかりました。脳溢血でしたが、倒れてすぐに救急治療をすれば、不自由な身体になったかも知れませんが、数年行き延びることができた…と言われています。
そして、意外とトイレで、風呂で、そして夜中にオシッコに起きて、倒れる老人が多いことに驚かされます。友達の両親、義理の妹や弟の親、教会の知り合い(もちろん、皆さんお年寄りです)など事件簿などがあればビッシリ埋まることでしょう。
私の父はカンサスシティー郊外にある、かなり豪華な老人ホームに母を亡くしてから一人でいましたが、設備は豪華でも、そこに住む老人たち全員にはとても目が行き届かず、それでもまだ恋人(92歳だったと思いますが)が生きているうちはよかったのですが、彼女が亡くなってからは、午後までベットにいて、私が電話をする3時、4時までバスローブを着たまたリクライナーに腰かけて、服も着替えていない有様でした。
そこで、私たち兄弟が父をそのまま放って置けない、兄弟の誰かの家に引き取るか、目の届くところ、すぐ近くに移動させようということになり、弟のトムとメリーが全面的に引き受けることになったのでした。
父の弟、ロンおじさん(90歳です)ももう長いこと一人暮らしです。彼の場合は毎日デイサービスの女性が7、8時間詰めています。でも、これも彼がまだ自分で食べ、シモの世話ができるから、おまけに彼は気力があり、頭もシッカリしているので助かっていますが、それも彼が最高の介護保険(アメリカでは実にたくさんの介護保険の種類があり、ごまんとある保険会社が売り出しているパッケージで、すべて儲け主義のプライベート、私企業です)に入っており、その上、彼はお金持ちなので、彼の大きな家を維持できる財力があればこそなのです。とても日本でのケアマネジャーに始まり、市町村がきめ細かいサービスをしてくれるようなことは夢また夢で、貧乏人は行き倒れ、ホームレス、そして野垂れ死ぬしかないのです。
先日、私、お腹が痛くなり、それがキリキリと耐えられないほどになり、救急病院へ行きました。そこでCTスキャン、MRIなど3回撮りました。結果はどこも悪くなく、ただ鎮痛剤を処方してもらっただけで済みました。その請求書を見て驚いてしまいました。総額8,000ドル(120万円相当でしょうか)だったのです。でも、幸い私が掛けている健康保険が効き、私の負担は120ドルで済みましたが、もしこれが保険が効かなかったら、と思うとゾーッとします。
個人破産で一番多いのは、医療費の負債なのです。
一人暮らしの老人のため、大きめのネックレスのようなSOS発信機が売り出されています。
電話をかけることができなくても、このSOSボタンさえ押せばすぐに救急車が駆けつけてくる…というキャチフレーズです。問題はSOS発信機の使用料とその会社が契約している救急車、救急病院のあり方です。発信機は様々なタイプがありますが、月々凡そ3,000円内外の使用料がかかります。発信機は携帯電話の電波を利用していますから、私たちのようなド田舎、山裾では使えません。
健康保険会社(アメリカでは私企業です)から緑色の用紙が届きました。それは65歳以上の被保険者への同意書で、生命を維持するためだけの医療処置をしない(ただ生かすためだけの治療、点滴など)こまごまと条項が書かれてあり、救急車での処置まで指定されているのです。
そりゃ人間たるもの全員、100%確実にいつか死ぬのですから、問題は何時、どのように死ぬのかが問題になるのは分かります。でも、このような書類にサインし、救急員が駆けつけた時に真っ先にそれを渡すように指示しているのです。その用紙は冷蔵庫に磁石で貼り付けて置くようにとまで指示しているのです。おゝ、私もそんな歳になったのかという感慨と、これは保険会社が裁判に訴えられた時に会社を守るための用紙、サインではないかと嫌な気持ちになりました。
私たちは互いに延命治療はしない、また片方が意識のない、判断もできない状態になったら、もう一方の元気な方が最終判断を下して良いという遺書と言うのか協約書を交わしており、公証人サインまで貰っているのです。何も保険会社がシャシャリ出てくることはないのではないかというのが私たち二人の意見です。
ですが、アメリカでは国の社会保障制度が全く整っていませんから、基本的には自分の身体は自分で守るしかないのです。そこにプライベートの保険会社が暗躍する余地が出てくるのでしょう。当然のことですが、自分の老後を自分で守り、計画を立て、何の心配もなく過ごせる老人なんて極々少数で、大半は金銭的に行き詰まり、あるいは身体、頭の自由が効かなくなって、棄民のような老後を過ごすことになってしまうのです。
日本の山梨県だったでしょうか、楢山節考(深沢七郎作)の姥捨の伝説がありましたが、ウチのダンナさん、「俺が、自分で食えない、シモの世話もできない、ボケてきたら遠慮なくジジ捨て山、俺の場合は海にでも捨ててくれ」と今、まだ異常に元気(歳の割には)だから偉そうに言えるけど、実際にその時になってみないと、そんなこと誰にも判らない、言えないことなんでしょうね。
-…つづく
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