第845回:風車は回る
風車といえばまず思い浮かべるのはドン・キホーテが痩せ馬にまたがり、風車を大きな怪物と思い込み突進していった話でしょうか。それともオランダのチューリップ畑の遠景にいつもある大きな風車でしょうか。その両方とも今では大きな観光資源になっているほどです。
私たちもヨットで水上生活をしていた時、太陽電池とミズンマスト(ケッチという2本マストのヨットで、後方の低い方のマスト)の上に風力発電用の風車をつけていました。この二つのコンビネーションで船内の電気を賄っていたことがあります。丁度、ミズンマストの下にキャビン(寝室)があったので、少し強風が吹くと、風車の回る音が伝わってきて、自然の力を利用するのと騒音に悩まされるのは表裏一体だと思い知らされました。
年に何度も、老齢の父親のいるカンサスシティーの施設へ通っています。コロラド州とカンサス州を東西に走るハイウエイ、I-70号線に車を走らせます。大草原、グレートプレインを横切るのですが、毎回その景色が変わっていきます。恐竜が地面を突っつくように、首を上げ下げしている地下から原油を汲み上げるポンプがそこかしこに見られたのですが、恐竜原油ポンプを押しのけるように、十数年前には風力発電用の風車が数基ポツポツと見えていただけなのに、今年、この大平原に見渡す限り何百という3枚羽根の巨大な風車が立ち並び、それはそれは壮観な風景を作り出しています。
現在、カンサス州には4,139基の風力発電機、風車が回っていて、州全体の50%の電力を供給しています。
州別に見ると、テキサス州には18,696基の風車があります。石油ビジネスの大州と言われるテキサスが他の州に先駆け風力発電の重要さに目覚め、風車を設置していることに驚きました。アイオワ州では73%の電力を6,345基の風車で賄っています。
ラスベガス周辺の太陽がいっぱいの砂漠地帯には、見渡す限り広大な太陽電池パネルが敷設されています。アメリカには広大な砂漠や大草原があるから、太陽光発電ファームや何万という風車を設置できると言ってしまえばそれまでですが、2023年には自然を利用した発電能力は、石炭、石油を使う火力発電を上回っています。
アメリカの力、特徴と言っても良いと思いますが、それが良いとなると一つのプロトタイプをつくり、大量に生産し始めます。もちろん、政府は盛大に後押し、普通の住宅でも屋根に太陽電池パネルを設置するための資金援助、節税制処置を受けることができ、しかも向こう何十年もほとんど電気代がタダになります。膨大な数に及ぶ風車も実用品ですから、改良に改良を重ねているのでしょうけど、見事に一つにパターン化しています。
風車の羽根は3枚、一枚の羽根の長さは50メートル、円柱タワーの方はいくつかの高さの違いがありますが、それも量産体制を敷いています。プロトタイプのものを量産すると単価がグンと安くなります。何度かタワーや羽根を輸送している長大なトレーラーとすれ違い、また追い越したことがありますが、その大きさ、長さは驚くほどのもので、こんなものを一体全体どうやって組み立て、羽根を回すのか想像を絶します。
風車を建てるスペースのない国はたくさんあります。むしろアメリカのように大草原、大砂漠を抱えている国の方が例外かもしれません。そんな陸地を持たないからこそ、洋上風力発電の先進国になったのはデンマークです。現在、陸上と洋上併せて6,974基あり、国の電力の50%をカバーしています。2030年にはそれを100%にする計画です。世界に先駆け風力発電を実用化したので、そのノウハウを持ち、世界に技術輸出をしています。『Vestas』というデンマークのメーカーが技術輸出のトップを走っています。
イギリスでも洋上風力発電に乗り出し、東アングリア海域に大掛かりな電力ファームを完成させました。羽根の長さは75メートルあり、風車が回った時のテッペンは200メートルにもなります。
何事にも世界一大きくなくては気が済まないアメリカでは、ケープコッドとマーサズ・ヴィニヤード島(Martha's Vineyard)の間に超巨大な風車を建設中です。一枚の羽根が122.495メートルもある風車なのです。今のところ64基を据え付ける計画が始まっていますが、目標としている30ギガワットの電力を得るには2,000基必要で、それを徐々に実行していく案なのです。
当然、賛否両論ありますが、日本の場合、沿岸に、または洋上にそんなものを立てるとなると必ず魚業権が絡んできて政治問題になるのだそうですが、マーサズ・ヴィニヤード島は観光地であり、また昔から大金持ちの別荘が立ち並ぶ高級避暑地ですから、政治力のあるお金持ちさんたちが、景観を崩すものだと大反対していました。このプロジェクトの推進者ジム・ゴードンは、地元民説得になんと14年も費やしています。
日本は自他ともに許すほどの、風力発電、太陽光発電ファームの後進国です。やっとという感じで、北海道の石狩湾に14基、新潟に33基、ほか千葉と北九州に風力発電ファームを建設中です。
日本は大陸棚が急な斜面になっているところが多く、直接海底に杭を打ち込みタワーを固定するのが難しく、浮床式と呼ばれている風力発電タワー自体を海に浮かべる(もちろん大きな錨で流されないようにはなっています)方式で、その浮床式がすでに28基実用化されています。日本で洋上風力発電の障害になっているのは漁業権と原子力委員会、いずれも政治絡みの問題が横たわっているからでしょうか。
“利権”というのだとダンナさんが入れ知恵してくれました。日本人だけではないでしょうけど、一旦、利権なるものを掴むとそれにしがみつくのが日本人の特性だと(これ、私の意見ではありません、ダンナさんがそのように強く申しているのです)言うのです。それが原子力発電所も国がらみのお金が流れ、小さなコミュニティー、村意識が利権によって生まれ、社会性を失わさせている、汚染された冷却水を海に流す、ウラニュウムの燃えカスの捨て場がないなど、地球に良いことなど一つもないのに、それを止めることができないでいるように見えます。東日本大地震と津波による福島第一原発の崩壊は一つの転機だったのですが、今でも16ヵ所もの原子力発電所が稼働しています。
バイデン大統領は(もし再選されれば、という厳しい条件がつきますが)、2030年には100%の電力を全く公害を出さない風力、太陽光などの再生可能エネルギーに持っていく方針を明らかにしています。
日本ではどういう計画方針なのでしょうか?
第846回:急成長のビックビジネス
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