第847回:旅は道連れ、世は地獄…?
旅に出かける前の高揚感はいったいどこからくるのでしょう。毎日同じことを繰り返している日常から脱出できる、サーテトこれから新しいモノ、コト、ヒトとの出会いがはじまる……という期待感に溢れ出発します。それがパッケージツアーであれ、個人個人が練りにネッた計画を実行に移す一人旅であろうが、同じでしょう。
旅は嫌いだ、という人は珍しい存在なのかもしれません。定年退職し、念願の長期旅行、大きなキャンピングカーを引いて全米国立公園巡り、少し豪華にクルーズシップでカリブ海をはじめアラスカの氷河、地中海の史跡巡りと、長年の夢を実現する人は何と多いことでしょう。ですが、旅の持つイメージに幻惑され、日常性から解放される喜びに浸ることができるのも、最初の数日のことで、旅先での現実、三度の食事を現地のレストランで、あるいはキャンピングカーなら、ほとんどの場合、女性の仕事になってしまう料理、後始末、などなどの旅の日常に追われることになり、あゝ、家に居ればもっと安楽に生活できたのに……と思い始めるのです。
私たちは、よく旅をしている方だと思います。それに長年ヨットでの生活はキャンプとあまり変わりませんから、どこでも寝れる、何でも食べれる、自然のチョットした変化に喜び、楽しみを見出す習慣が身についているのかもしれません。今も、3ヵ月ぶりに家に帰ってきて、冬仕舞いしていた家を開放し、ひと段落したところで、もうすでに来週はどこに行こうかと思案し始めている自分に気がつきました。旅行向きの体質になってしまっているようなのです。単に落ち着きのない、一箇所に定住できないノーマッド=放浪遊牧民の血が騒ぐだけなのかもしれませんが…。
私たちとは逆に定住型の人間、全く旅行向きにできていない人がたくさんいます。喜び勇んで家を出たけれど、やっぱり自分の家が一番良いと思い始めるタイプです。アメリカ人に多いのですが、外国はどこでも不潔で、汚らしく見えるのです。まるで自分が王侯貴族か超大金持ちの大邸宅から出てきたかのように外国で振る舞うのです。これでは長続きするはずがありません。
アメリカ人は全般に工場で清潔?に大量生産されたパッケージ食品に慣れ親しみ、鍛えていますから、どこに行っても、何を食べてもオイシク思うでしょうけど、食文化のある?日本人旅行者がスーツケースに日本食を持ち歩いているのを見ることは珍しくありません。インスタント味噌汁、梅干し、簡単にチンできるご飯、ラーメンなどなどを持ち歩いているのです。旅の喜び、楽しみの半分はその土地の美味しいものを味わうことにあるのですが…。
それでも、日常から脱出するのは良いことだと思います。意外に自分自身を知るきっかけになります。そして、自分の故郷、国を外から眺めることができるようになります。それに第一、刺激になります。
ところが、最近、事情が変わってきました。アメリカ人にとっての海国旅行の筆頭は、車で行けるメキシコとカナダです。メキシコの方は外人専用のリゾートがたくさんでき、安いチャーターフライトをどんどん飛ばし、一旦そこに着くとすべてアメリカ流に済ますことができるようになっていて、イギリス、ドイツ、北ヨーロッパの人たちが地中海の国々でバカンスを過ごすやり方に、ほんの少しだけですが近づきつつあります。
まだ2024年の年間統計は出ていませんが、1月だけで470万人ものアメリカ人が海外に出かけています。それはコロナ以前の2019年より19%も上昇しています。当然と言えば当然のことですが、それだけのアメリカ人が外国に出ると様々な問題が起こってきます。
合衆国政府は、一般旅行者が安心して訪問できる国から危ない国を4段階に分けています。レベル1はマ~安全な国、レベル2は十分な注意を怠らないでいるなら安全に過ごせる国、レベル3は訪れることを再考するべき国、レベル4は行くべきでない国と分類されています。レベル4の国々は政情が不安定で、アメリカと外交関係がないから、行くな!と言っているのでしょう。万が一何か起こっても、国として対処できませんよ、という政府のご都合が大いにモノを言っているだけなのかもしれません。
筆頭はアフガニスタン、ベラルーシ、イスラエルのガザ、中央アフリカ共和国、ブルキナ・ファソ(西アフリカの国です)、マリ(同じく西アフリカの国)、ソマリア、スーダン、シリア、ベネズエラ、イエメン、無政府状態になったハイチ、イラン、イラク、リビア、メキシコの6つの州(32州のうち)で、メキシコ政府は大きな外国人向けのリゾートのあるところ、カボ・サン・ルカス、アカプルコ、カンクン、コスメルなどは安全だ、ドーゾいらしてくださいと言っていますが、国連の統計では作年10月までに11万2,000人が行方不明になっていると、警鐘を鳴らしています。そして当然ですが、ロシア、北朝鮮です。
レベル3の国、訪れることをもう一度考え直した方が良いよとアメリカ政府が言う国は多く、このレベル3に中国、チャド、パプアニューギニアが含まれます。
そしてレベル2には70ヵ国ありますが、オサオサ注意を怠りなく訪れるべしの中にスウェーデンが入っているのです。スウェーデンは世界で最も安全な国の一つだと思っていましたから、これには驚きました。理由は地元でテロが起る可能性が高いというのです。そして、オリンピックが開催されるフランスもこのレベル2のカテゴリーで、ゼネストやお百姓さんの大掛かりなデモがあるから要注意だというのです。こうなると、一体どこへ行けば良いのだということになります。
アメリカ人のお年寄りに人気があるのは、アイルランド、スコットランドなど、英語、米語の通じる国で、若者に圧倒的に人気があるのは日本です。世界の政情不安、危ない国の情勢が安全な国、日本のブームを起こしているのかな~と思いたくなるほどです。
私の甥っ子、それに従兄弟の息子、娘も日本に行き、定住を目論んでいますが、彼らの親は私に、一人で日本に行って大丈夫だろうかと相談してくるのです。私は、彼らが住んでいる人口20~30万人の町より、日本全体の方が殺人、犯罪の発生率はズーッと低い…と言い渡しています。
アメリカの都会で危ない街の筆頭はデトロイト、ボルチモア、セントルイス、オークランド、ニューオルリンズ、アルバカーキー、クリーブランド、ロスアンジェルス、ニューヨーク、ヒューストンなどなどで、いわば危険な街のレベル4になるでしょうけど、政府はそんな街に行くな、住むなとは決して言いません。
デトロイトの下町に住んでいる人が、レベル4の国、例えばアフガニスタン、ベネズエラを訪れたら、まさか平穏なところだとまでは思わないでしょうけど、身についた保身本能を発揮して、十分楽しめるのではないかしら。
逆にハイチやメキシコからの難民の間で、デトロイト、ボルチモアは危ないから行くな、という情報が広がっていたりして…?
第848回:二つのアンタッチャブル
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