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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第807回:アメリカン・ダイエット

更新日2023/06/22


前回、日本で広がっている外来語のことを書き、少しカタカナ語を批判するような口調で筆が滑ってしまいましたが、ここでタイトルを全くカタカナ語で書く羽目になってしまいました。言い訳じみていますが、ダイエット(diet)言ったとき、辞書では食品、食べ物のこととありますが、言葉の響では、健康食品、痩せるための食品などの響きがあります。ダイエット・コークが糖分ゼロ、カロリーゼロを示すように、ダイエットという言葉は、どこか身体に優しい、痩せるための…というニュアンスがあります。

これから書くこともアメリカ人の食生活全体のことで、健康志向、痩せるための食事のことですから、やはりダイエットというのがピッタリくると思うのです。
 
日本に3週間行ってきました。その間食べ続けました。いくら日本食が身体に良い、健康食だとはいえ、運動をせずに食べ続ければ自然体重も増えます。3キロも増えたのです。それにしても、日本には美味しいものが多すぎます。バライティが豊かすぎます。あれでよく日本人が総デブにならないもんです。

メモリアル・デイ(アメリカのお盆)の連休は、サンクス・ギビングやクリスマスのように家族が集まります。お墓参りより、生き仏優先で、春の良い季節だということもあるでしょう、家族、親類が大勢集まって庭でバーベキューをするのが定番になっています。私たちも隣人のケンとヴィッキーに招かれ、準家族扱いでバーベキュー・パーティーに参加しました。

メニューはもちろん分厚いハンバーグ・ステーキ、ホットドッグ、チリ(キドニービーンズと挽き肉の煮込み)、それに甘いマシュマロのサラダ、ポテトサラダがメインで、パンはハンバーグ用の丸いのとホットドック用の細長いの、それに最近流行りのニンニクをすり込んだガーリックトーストです。飲み物は信心深い家族でしたのでアルコールなしで、甘ったるいアイスティー、レモネード、コカコーラ、コーヒーでした。そして、デザートはめちゃ甘いクッキーの間にこれまた甘いゼリーを挟んだクッキーサンドイッチでした。

ダンナさん、「これで一体全体何千カロリーになるんだ?」とつぶやいていました。当然のことですが、集まったケン、ヴィッキーの家族はもの凄いデブ集団で、筆頭のアンドリューは300ポンド(150キロ)以下ではないでしょう。他の皆さんも見事に太っていて、そのまま大相撲の揃い踏みができそうなくらいでした。


この1年間で、アメリカのダイエットが直接、あるいは遠因になって死んだ人は67万8,000人に及びます。トップは太り過ぎが引き起こす高血圧、糖尿病、コレステロールが高くなり、それが遠因となる心臓欠陥です。これらの病気に対応、治療するため、アメリカでは年に4兆ドル(560兆円)を消費しています。これらの問題はほんの少し食生活を変えれば改善できることなのです。典型的なアメリカの食事のせいで引き起こされる病は、全病気の20%に及ぶだろうと健康調査機関は報告しています。
 
一般論になってしまいますが、アメリカ人一人が1年で消費する、食べる肉、牛、豚、鶏などの肉類は264ポンド(125キロ)、悪の凶元である砂糖123ポンド(60キロ)、そしてソフトドリンク(コーラ、ファンタのような甘い飲物)39ガロン(150リットル)、そして最近身体にあまり良くないと言われ出した牛乳は16ガロン(60リットル)、それにチーズが40ポンド(19キロ)も胃袋に収めているのです。
 
私は、これらの膨大な量に驚くより、アメリカン・ダイエットで問題なのは、食べ物の70%のカロリーをプロセスフード、すなわち工場で生産されたパッケージフードで摂っていることではないか?と思います。もちろん、食品によりますが、全般的にこのように工場で大量に生産された食品は癌の発生を促すものが多いのです。

生鮮市場に行って、一つひとつの野菜を吟味し、肉、魚を選んで買ってくる習慣がなくなってしまってから久しくなります。完成品、もしくは半完成品を電子レンジでチンするだけででき上がる食べ物は、確かに便利ですし、中にはグルメに迫るほど美味しいモノもあるのですが、やはり毎日そればかり食べると何故か飽きがきてしまいます。(経験者は語る?)

日本食がお美味しいのは、お寿司、お刺身の魚類が新鮮で、他の野菜類も新鮮だからではないでしょうか。まだアメリカ的工場生産食品が広く侵入していないからではないかと想像しています。何でもアメリカナイズされ、便利に素早くできることばかりが優先されると、日本独自の食の文化が崩れてしまいます。

逆にアメリカのスーパーでも、ゴク当たり前に“sushi”、“寿し”なるモノを売るようになりました。もちろん、日本のコンビニで売っている寿司にはお呼びもつかないものですが…。そして、日本レストランがたくさんできて、どこも結構流行っているのです。典型的なアメリカン・ダイエットを離れ、日本式ダイエットに切り替える人も出てきました。でも、まだ日本食のファンは増えても、日本的な食べ物を常食にしている人はとても少ないでしょう。

食生活はなかなか変えることができない習慣です。
 
アメリカ人から肉と砂糖を取り上げるのは、ミッション・インポッシブルでしょうね。 

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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