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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第741回:10年ぶりの「きらきらうえつ」- 羽越本線 酒田~新潟 -  

更新日2025/05/22



「きらきらうえつ」は新潟~酒田間の観光列車で、土休日に1往復が設定されている。基本的な運行パターンは下りが新潟駅10時11分発、酒田駅12時51分着だ。例外的に新潟駅09時32分発、秋田駅13時47分着や、新潟駅13時59分発、秋田駅19時12分着などもある。上りの基本ダイヤは酒田駅16時10分発、新潟駅18時31分着だ。例外は下りに対応する形で秋田駅08時51分発、新潟駅13時01分着と秋田駅14時07分発、新潟駅18時31分着がある。

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きらきらうえつは485系電車の改造車両だった

そして、かなり希少なダイヤとして、酒田駅15時発、新潟駅18時31分着という列車がある。2018年の秋ダイヤでは10月の13日と14日しか設定されない。基本ダイヤと比べると、酒田駅発車時刻は約1時間繰り上がって、新潟駅到着時刻はほぼ同じだ。約1時間も余計にかかって、どこで時間を潰しているのかというと、主に桑川という駅で約40分も停まる。これが夕日ダイヤである。桑川駅周辺の海岸は笹川流れという景勝地で、国の名勝であり、天然記念物に指定されている。「きらきらうえつ」の夕日ダイヤは、ちょうど日没の時間に桑川に長時間停車する。海岸で日没までの風景を楽しんでほしいという趣旨である。

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先頭車展望ラウンジから日本海を望む

きらきらうえつの乗車は2回目だ。前回は2008年10月12日で、余目から坂町まで乗った。羽越本線の中で、この区間だけが未乗区間だったからだ。せっかくだから観光列車に乗ってみようと思った。当時は普通列車の方が好きだった。地元の人々にとけこむように佇むほうが旅情を感じたからだ。しかし、このとき「きらきらうえつ」の夕日ダイヤに乗ってみたら楽しかった。そこで、月刊文芸誌の連載の企画に推薦した。それが今度の取材旅行というわけだ。
車窓に広がる日本海は穏やかで、空に大きな雲があるけれども、水平線がはっきり見える。夕日の赤い光が、海と雲を照らしてくれたら、快晴のときよりも趣のある風景写真になるだろう。

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陽が沈む。夕景が期待できそうだ

16時46分に桑川駅に着くと駅前広場が静かだった。10年前に来たときは地元の人々に歓待されて、お囃子に踊り、屋台に地酒の試飲コーナーがあって賑やかだった。観光列車がやってきて、旅行者に地域を知ってもらうことが嬉しくて仕方ないという雰囲気だった。桑川駅には道の駅が併設されているから、乗客たちも浮かれて財布の口が緩んでいたようだ。その騒ぎが、今回はない。10年も経つと、あの頃の喜びも薄れるのか。ちょっと寂しい。

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桑川駅到着 太陽のショーが始まる

それはともかく、カメラマンS氏は撮影に忙しい。私もスマホとコンパクトカメラで撮影した。駅前に片側1車線の国道345号線があり、それをサッと渡ると海辺だ。海水浴ができそうな砂浜はないけれど、水面に向かって幅広の階段がある。ここで佇んでください。恋人同士で写真を撮ってください、という用途が似合う撮影スポットだ。私は独り身だし、Sカメラマンと記念写真を撮るほどでもないし、というわけで、他人のカップルをフレームに入れた。後ろ姿だし、逆光で影のように映るはずだ。

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この景色のためにダイヤ変更するとは粋なはからい

「きらきらうえつ」に初めて乗ったカメラマンS氏は嬉しそうだった。この旅は私にとって、ライターとしてではなく、添乗員とガイドの役割になってしまった。でも、きれいな写真が載れば読者も喜んでくれるだろう。

翌朝、食事取材はランチタイムを避けた15時からになったので、S氏も私も暇になった。新潟市鉄道資料館を提案すると意気投合し、電車で新津駅へ。鉄道資料館まで約2kmはタクシーを使う。私なら徒歩かレンタサイクルにするところを、大出版社の社員はすぐにタクシーを使う。ラクだけど、私の旅らしくないな、とも思う。

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新潟市鉄道資料館にて

新潟市鉄道資料館はS氏も私も初訪問だったから、展示車両や展示品を舐めるように観察した。新津は国鉄時代から車両工場があった町で、信越本線、羽越本線、磐越西線が乗り入れる鉄道の要所でもある。SLばんえつ物語号で使っている蒸気機関車C57形は、新津駅の南にある小学校で保存展示されていた機関車を復活させた。だからばんえつ物語号は新津駅を発車するとき、敬意を示すように、元気でやっているよと知らせるように、いつもより長く汽笛を鳴らす。

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ディーゼルエンジンのカットモデルなど展示が充実

駅前にはタクシーが待っていたけれど、新潟市鉄道資料館に客待ちのタクシーはいない。タクシー会社に電話をかけて迎車を頼もうとしたけれど、私はここで初めてタクシー配車アプリを使ってみた。タクシーは数分でやってきた。便利だ。この後の取材でも配車アプリが活躍することになる。鉄道ライターがタクシーなんて、と思うけれども、バスより便利だからしかたない。便利なシステムはもっと便利なシステムに上書きされる。生活の進化である。鉄道はどうだろう、とふと思う。

蛇足ながら、取材で食べた「へぎそば」は美味かった。栃尾揚げという、分厚い油揚げにも感動した。良い取材だったと思う。感じることが多すぎて、そのまま書けば紙面に収まらない。文字数との戦いになりそうだ。

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油揚げがこんなに美味いなんて

 


第741回の行程地図(地理院地図を加工)
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2018年10月14~15日の新規乗車線区
JR:0.0Km
私鉄: 0.0Km

累計乗車線区(達成率 93.81%)
JR(JNR):21,987.6Km (95.97%)
私鉄: 6,500.7km (91.66%)

 

 

 

 





杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

<<杉山淳一の著書>>

■連載完了コラム
感性工学的テキスト商品学
~書き言葉のマーケティング
 
[全24回] 
デジタル時事放談
~コンピュータ社会の理想と現実
 
[全15回]

■鉄道ニュース(レポーター)
マイナビニュース
ライフ>> 「鉄道」
発行:マイナビ

 

■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

ぼくは乗り鉄、おでかけ日和
杉山淳一 著


『みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック (LOGiN BOOKS)』

みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック
杉山淳一 著


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