■シリコンバレー~ITの夢とドラマの舞台裏を歩いてみる

安蒜 泰樹
(あんびる・ひろき)


雑誌/書籍編集者、ウェブディレクター/プロデューサー、翻訳者。アスキーでソフトウェア製品のマーケティングの仕事をしたあと、出版局へ異動しマルチメディアな編集者として修行。その後、インプレスのインターネット放送専門米国子会社へ転職。シリコンバレーで約3年過ごしたあと帰国。現在、SuiteZero Ltd.取締役社長。


第1回:あの時あの場所で
第2回:ワイルド・ワイルド・ウェスト

第3回:水と芝生の美しい街

第4回:地図にない谷

第5回:産業高速「101」~その1

第6回:産業高速「101」~その2

第7回:麺が恋しい?ベトナムラーメンで決まり

第8回:株情報とネットの馴れ初め

第9回:森林高速「I-280」

第9回:森林高速「I-280」

更新日2002/06/14 


ハイウェイ101号線に続いて、シリコンバレーの基幹道路の2本目を紹介しよう。インターステート280号線だ。地元の人々はこの州間道路のことを「アイトゥウェンティ」と呼ぶ。ベイサイドの発展地域を貫くように走る101号線とは対称的に、その区間の大半が自然に恵まれるI-280号線は緑の高速道路といった雰囲気がある。

シリコンバレーへ向けてサンフランシスコ市街を出るや、ぐんぐんと高度をあげ、ペニンシュラの西側の丘陵地帯を縫うように走り始める。1989年にこの地域を襲った大地震の震源サンアンドレアス断層を掠めながら走るサンブルーノ(San Bruno)~ウッドサイド(Woodside)間では、右手にサンアンドレアス・レイク(San Andreas Lake)とクリスタル・スプリングス・リザーバー(Crystal Springs Reservoir)という美しい貯水場、左手には山々の間から時折サンフランシスコベイを臨むことができる。

やがて見えてくるのは全米有数の富裕層たちの豪邸が点在する深い住宅の森。ヒルズボロー、ウッドサイド、ポートラバレー、ロスアルトスヒルズ──これら280号線に隣接する街はいずれもバレーの成功者たちとその家族の「ホーム」として知られている。

左手のうっそうとした豪邸の森がふいに途切れ見えてくるのが、世界に名立たるベンチャーキャピタルの丘、いくつもの起業ドラマを生んだサンドヒルである。スタンフォード大学の敷地と隣接するこの丘には大学付属の研究機関であるスタンフォード・リニアアクセラレーター・ラボラトリー(Stanford Liner Accelerator Lab)があり、量子加速実験施設が約2キロに渡って横たわっている。

3月頃までの雨季を終え、乾燥した夏がやってくるまでの間のこの一帯の美しさは言葉では語り尽くせないものがある。太平洋から山を越えてやってくる、澄んだ風がなでる丘陵地帯は一面豊かな緑に包まれ、高速道路沿いの牧場にはのんびりと草を食む牛や馬を見ることができる。春から秋にかけての朝夕は、太平洋から押しあげられた厚い雲が山の稜線を越えてバレーにしなだれかかる不思議な光景を見ることがある。その稜線を縫うように走るスカイライン・ブルバード(Skyline Boulvard)というワインディングの続く道は深い霧に包まれ、昼間でも神秘的な雰囲気が漂うことがある。

ロスアルトスヒルズの高級住宅の森を抜けたあたりから、280号線はサンタクララバレーの中心地へ向かって高度を下げていく。両手にいくつものシリコンバレー独特のビジネスコンプレックスを見ながら、高層オフィスビルがひしめくサンノゼのダウンタウンに辿りつく。なかでもアドビシステムズの本社ビルは高層ビル群のなかでもひときわ目立っている。

このまま道なりに進むと、280号線は自然とインターステート880号線と名前を変え、サンフランシスコベイの南端をぐるっと回り込む。そして今度は左手にサンフランシスコベイを見ながらヘイワード(Hayward)やオークランド(Oakland)へ向かって北上する。

Photo by Yukio Yoshinari/Image Works

 

→ 第10回:バレーの春~お詫びとお知らせ