■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

金井 和宏
(かない・かずひろ)

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice

 


第1回:I'm a “Barman”.
第2回: Save the Last Pass for Me.
第3回:Chim chim cherry.
第4回:Smoke Doesn't Get in My Eyes.
第5回:"T" For Two.
~私の「ジュリーとショーケン」考 (1)

第6回:"T" For Two.
~私の「ジュリーとショーケン」考 (2)

第7回:Blessed are the peacemakers.
-終戦記念日に寄せて-

第8回:Ting Ting Rider
~マイルドで行こう

第9回:One-Eyed Jacks
~石眼さんのこと

第10回:Is liquor tears, or a sigh?
~心の憂さの捨てどころ

第11回:Hip, hip, hurrah!
~もうひとつのフットボールW杯開幕

第12回:Missin’ On The Phone
~私の電話履歴

第13回:Smile Me A River
~傍観的川好きの記

第14回:A seagull is a seagull
~シンガー・ソング・ライターが歌わせたい女

第15回:Good-bye good games!
~もうひとつのフットボールW杯閉幕

第17回:My Country Road
~八ヶ岳讃歌

第18回:Year of the Monkey
~4回目の年男を迎えて

第19回:Round About Midnight
~草木も眠る丑三つ時を過ぎて

第20回:Only "Good-bye" is one's life
~井伏さん宅訪問の記

第21回:時にはウイスキーの話(1)

■更新予定日:隔週木曜日

第22回:時にはウイスキーの話(2)

更新日2004/03/18


私は、今ジョニー・ウォーカーの黒ラベル(以下、ジョニ黒)を愛飲している。ずっと前からというわけではなく、ここ2、3年前からのことだ。ジョニー・ウォーカーはブレンデッド・ウイスキー。前回も書いたが、あまりにも値が下がったことから、ブレンデッドそのものを軽視していた時期が、私にもあった。

「以前は1万円もしていた酒が、今は2,000円前後で買えてしまう。あまりありがたがって飲む酒ではないな」という訳である。今考えると、恥ずかしい話だと思う。この酒があまりにもビッグ・ネームであったためにどことなく敬遠し、ろくに飲むこともしないで、価格の変動だけで、酒の品評をしていたのだから。

私がジョニ黒を飲みだしたのは、モルト・ウイスキーにも精通している、ウイスキー好きのバーテンダー仲間のほとんどが、好んでこの酒を飲んでいたからだった。

「そんなに旨いものですかね?」「はい、これは旨い酒です」「それでは、少し飲んでみましょうか」「ぜひ、ぜひ。手離せない酒になりますよ」
今では、確かに彼らの言う通りになった。

ジョニ黒のキーとなるモルト・ウイスキーは、カードゥ、タリスカー、ラガヴーリン。そして、グレーン・ウイスキーであるキャメロン・ブリッグをブレンドして作られる。

カードゥというのは、スコットランド北東部に位置し、この国の約半数の蒸留所が立ち並ぶ最大の酒どころ、スペイサイドで作られたモルトで、華やかな甘さを持つ。この酒は、赤ラベル、金ラベル、青ラベルのすべてのジョニー・ウォーカーに使われている。

タリスカーは、北西部の島スカイ島生まれのモルト。私は、店でお客さんに「ガツン系」という言葉を使ってご紹介しているが、たいへんスモーキーで荒々しい刺激的な味の酒だ。

そして、ラガヴーリン。南西部の島アイラ島出身の、モルト・ウイスキー中でも秀逸な旨さのモルト。重厚で、しかもなめらかな口当たりを持ち、コクがある。強烈な個性がベースにあるので、これが嫌いな人には受け付けられないが、一度気に入ってしまうと間違いなく病みつきになることだろう。

カードゥの華やかな甘さが基調になるが、それをタリスカー、ラガヴーリンの刺激と重さで味をグッと締める。いつ飲んでも飲み飽きないこのバランスが絶妙で、ブレンダーの技のすばらしさに敬意を示したくなる。

「こんな旨い酒が2,000円で飲めるなんて、実にありがたいことだな」以前とは180度変わって、今はそう思いながら飲んでいる。

ところで、ブレンデッド・ウイスキーの中には、オールド・パーのようにわずか2、3種類のモルトとグレーンだけを使って作られたものもあれば、バランタイン17年のように40種類ものモルトと4種類のグレーンを使って作られるものとがあって、なかなか興味深い。

2、3種類であればひとつひとつのモルトの役割は大きいと思うが、40種類ともなれば、それが39種類のものと味のどこが違うのと問われて、もしその飲みくらべをすることがあっても、私にはまったくわからない気がする。

現在のバランタインのマスター・ブレンダー、ロバート・ヒックス氏は何と4,000種類の香りを嗅ぎ分けることができると言われているが、一体どんな鼻の持ち主なのだろう。

40種類あるバランタイン17年のモルトの中でも、メインとなるものが7種類あって、それを「バランタイン魔法の7柱」と呼んでいるらしい。スキャパ、プルトニー、バルブレア、グレンカダム、グレンバーギ、ミルトンダフ、アードベッグの7本。

大きな役割を担う「7」と言えば、「たそがれ清兵衛」「ラストサムライ」などの最近の侍映画ブームにあやかるわけではないが、私の大好きな映画「七人の侍」を思い出す。実際にこの7種類のモルトを飲んでみて、7人のイメージと重ね合わせてみた。

まず、勘兵衛(志村喬)はアードベック。どっしりした存在感、全体の味を束ねるリーダー・シップがあるところから。久蔵(宮口精二)の渋いカッコよさは、少し気むずかしい銘酒スキャパ。若い勝四郎(木村功)は、やはり若さが魅力の酒バルブレア。突拍子もない個性の菊千代(三船敏郎)は、荒々しく個性的な飲みごたえのプルトニーのイメージが合う。

ここらまではすんなり来たが、あとの稲葉義男、加藤大介、千秋実については迷ってしまった。もう一度「七人の侍」をじっくり見直して、この3人の「配役」を決めようと思う。

酒を誰かのイメージに重ねて思い起こしながら飲むことも、結構楽しいものだ。そう言えばずいぶん以前だが、初めて入っていらした初老の紳士に、
「私はウイスキーというのをよく知らないのだが、何かおすすめのものを飲ませていただきたい」
と依頼されたことがある。

私がいろいろと考え、いくつかお出しすると、その方は、
「これは真面目な優等生の味、吉永小百合だな。こちらの方は少しお侠なところがあって加賀まりこかな。私はどちらかと言えばこちらの方が好みですね」
などとお話ししながら、実に旨そうに飲んでおられた。

みなさんは、一体どんな人のイメージの酒を飲みたいと思われるのだろうか。私は今、秘かに永作博美のようなブレンデッド・ウイスキーを探している。

 

 

第23回:桜 サクラ さくら