第929回:カリブの海賊とベネズエラ戦争?
“カリブの海賊”という映画がジョニー・デップ主演で大ヒットしたことがあります。およそ逞しいイメージとはかけ離れた、どちらかといえばナヨナヨした性格俳優を主演の海賊キャプテンにし、それがまんまと大当たりを取った映画です。
近年、海賊といえば“ソマリアの海賊”が、今時そんなことができるのか、可能なのか、と世界中を驚かせました。何しろ、ソマリアの海賊は木造でデッキのない、大型の漁船に大きめの船外機を付けたタダの船で何千トン、何万トンという大型の貨物船、タンカーをハイジャック、ではなくシージャックし、巨額の身代金をせしめています。
普通の貨物船、タンカーなどは兵器を積んでいませんから、ソマリアの海賊が手カギの付いたロープを伝って大きな船のデッキに上がり込めば、もうそれで乗っ取りは完成したもののようです。彼らの自動小銃の前で巨大な船の船員たちはお手上げでした。
私たちは小さなヨットでカリブ海クルーズを満喫しましたが、その当時、コロンビア沿岸には近寄るな、が鉄則のようになっていました。ベネズエラの北にある島々を伝い、ABC諸島(アルバ、ブエノエアー、キューラソー)を経て、そこからパナマへ直行するか、大きな港町、マラカイボ(設備の整ったマリーナもある)でパナマから太平洋に抜ける準備をするのが常道でした。
ですが、マラカイボ湾は南西に大きく張り出したプンタ・ガリーナス半島があり、その北部はコロンビア領で、そこを大きく迂回すればいいのですが、偏西風に押し流されるのか、少しでも走行距離を短くしようという意識からか、コロンビア沿岸に近づき過ぎるのでしょう。
実際に海賊に襲われたヨットを2隻知っています。海賊さんたち、マアー呆れるくらい何でもかんでも持ち去り、船内はまるで3、4頭のクマが入り込み暴れまくったかのようでした。
そんなことを知ったのは、そのヨットに乗っていた家族が、他のヨット仲間に助けられヒッチハイクのようにホウホウの体でキューラソーに辿り着き、現場写真を貼った注意書き、コロンビア沿岸に近寄るなという勧告パネルを見たからです。
海賊船といっても普通の船外機を付けた漁船で、普段は漁をし、時折、近くを通りかかったクルーザーがいれば、棚ぼたとばかり、海賊に変身することのようです。
最近、新手の海賊がカリブ海で横行しています。
こちらの方は、大きな船外機を何台も付けたスピードボートを空からミサイルで攻撃し、爆破して全員殺すという過激なもので、今まで23隻、87人が殺されています。
これがアメリカの海軍がカリブ海で展開している、麻薬撲滅作戦です。今、アメリカの議会で問題になっているのはミサイル攻撃で爆破轟沈したベネズエラの舟、デッキの張っていないオープンボートですが、それに9人が乗っており、そのうち二人がアメリカの戦闘機が近づいて来たのに気づき、いち早く海に飛び込み、難を逃れようとしたのです。
その二人は一回目のミサイル攻撃から逃れましたが、助けを求めるように手を振っている二人を2度目の機銃操作で撃ち殺したことです。戦時の(ベネズエラとアメリカは表向きでは戦争状態ではありませんけど…)ジュネーブ協定で、投降した兵士を殺すのは戦争犯罪としています。これは明らかに国際法(International Maritime & Humaneright)に違反するというのです。
これも滑稽な話で、ハナからアメリカ軍が自国の海域ではなく、公海ですらない他国の海域で軍事行動を行うこと自体が狂っているのです。撃沈された23隻はアメリカの海域どころか、アメリカから2千キロ以上離れた、カリブ海の南、ベネズエラの海域でのことです。
このカリブ海掃討作戦自体が、国際法を全く無視した無謀な挑発なのです。おまけに、それらの舟はカリブ海を超え、メキシコ湾に入り、アメリカの沿岸に向かっていたのではなく、大半は東に向かい南米のスリナムに向かっていたようなのです。
アメリカが法治国家なら、それらの麻薬を積んでいる可能性のある舟、漁船をアメリカ海域に入った時に、優れた警備網を持つアメリカ沿岸警備隊が停船を命じ、もし、麻薬が発見されれば、乗組員を逮捕、その船を曳航し、アメリカ本土で裁判に懸けるべきなのです。
いきなり海軍を出動させ、疑わし者は誰でも殺せ! それが他の国の領域であっても構うものか、というのが今回の一連の爆撃なのです。
本物の海賊でも相手の船の乗組員を皆殺しにはしませんでした。
これに対し、ヨーロッパのすべての国、表現のカタチ、強さは異なれ、トランプが命令したベネズエラ舟へのミサイル攻撃を非難しています。とりわけ、国際法学者はこれは戦争布告のない一方的な戦争だと述べています。ですが、戦争と犯罪の間に明確なラインなど存在しません。
確かに、ベネズエラには“トレン・デ・アラグア(Tren de Aragua)”という巨大な麻薬組織があり、カリブの島一つ、一つの超ミニ国家より遥かに大きな財力、武力を持っています。そんな小国は主にアメリカの観光客(もちろんヨーロッパ人もいますが)を唯一の財源としていますから、アメリカ軍の領海侵犯を抗議するどころか、アメリカさんどうもありがとう、もっとやれやれと感謝しているのです。
プエルトリコの首長、ジェニファー・ゴンザレス、トリニダッドトバゴの首相カンラ・ペルサンービセッサール首相、それに南米でも右寄り政権の国、パラグアイ、アルゼンチン、エクアドルなどはアメリカのミサイル攻撃賛成派です。どちらかといえば左寄りの政権の国コロンビア、メキシコ、ブラジルは、ミサイル攻撃は国際法違反だとしています。
トランプ政権の意図は、明らかにベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を追放することです。何かにつけマドゥロ大統領はアメリカに逆らっていますから、今までアメリカが世界中で何度も行なってきたCIAが陰で操るクーデターを、今回は表から世界の注目を集めるやり方で攻撃を開始したととって良いでしょう。
マドゥロ大統領の首に5,000万ドルの賞金すら懸けています。もっとも、トランプ自身の首に賞金が懸かっているのですが…。もちろん、西部劇のポスターによくある“生死にかかわらず”というヤツです。
私自身の身勝手な感想ですが、私たちは本当に良い時代にカリブセーリングをしたものだ、全く幸運だったと思っています。物価の安いベネズエラを基地のようにしてセーリングしていました。今回のミサイル攻撃に対抗してマドゥロ大統領がどんな対抗処置を取るのでしょうか。
大半のアメリカ船籍の船は程度の差こそあれ、ライフル、自動小銃、ピストルなどの火器を積んでいますから、武器を持ってベネズエラの海域に入ったと、ベネズエラ海軍に攻撃され、沈められても、文句の言いようはありません。
そして、今度はアメリカ軍がベネズエラのタンカーを乗っ取ったのです。まるでハリウッドの戦争映画のように、ヘリコプターから垂れ下がった2本のロープに伝い武装した兵士を次々と降ろし、タンカーを乗っ取ったのです。そして、タンカーはテキサスのガーバストンに曳航されました。
一体、こんなことが許されて良いのでしょうか。呆れ果てて、二の句がない最近のトランプ政権です。
-…つづく
第930回:山に書かれた大文字
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