■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第15回:ひとつの叱りかたが必ずしも万能ではない

更新日2001/07/17 


ミッシーのところでタイムアウト参観をさせてもらってから、何度かまた、自分でもタイムアウトを試してみた。ときにはうまくいき、ときには逆効果という試行錯誤を繰り返すうちに、だんだんわかってきたことがあった。我が家のterrible twoには、タイムアウトは必ずしも特効薬にはならない──ということだ。ケイトの場合を見たときにも少し感じたことだったのだが、このタイムアウトは2歳児にはちょっと早すぎる叱りかたのように思えたのだ。

何度かタイムアウトを言い渡されるうちに、環は「タイムアウト」という言葉を聞いただけで、まるで燃えさかる癇癪に油を注いだみたいになりはじめた。癇癪を起こして泣き叫ぶときに「10数える間に泣きやまないと、タイムアウトよ」と私が宣言した瞬間から「タイムアウトはいや~!!」とさらに3倍くらい大声で泣き叫ぶのだ。こうなると、もう何を言っても彼女の耳には入らず、私がげんなりすることになる。

そこで、最初の「数を数える」段階で、環がどんなにいらついていたとしても「してはいけないこと」をやめたときには、それ以上は何も言わずに放っておくことにした。つまり、「してはいけないことをちゃんとやめた」というだけでよしとしようと決めたのだ。ただし、その間に何か私や物に八つ当たりするときは「イライラものに当たるのを止めなさい。イライラしている人とはママはお話しできません」と言って一人にしておく。

そうすると、一人で放っておかれるということのほうが環にはこたえるようで、自分から謝ることが多いということもわかってきた。しかし、出かけているときなどは、そんな風に時間をかけて叱るわけにもいかない場合がある。そういうときはタイムアウトを使うことにした。

たとえば、ある日買い物に出かけて環の洋服を選んでいたときのこと。私が買おうとしていたのは普段着のTシャツとスカートだったのだが、環は濃紺のベルベットのドレスをつかんで離さない。「それは、買いません」と彼女にいうと、案の定、癇癪を起こし始めた。しかたなく、引きずるように店の外に連れ出してタイムアウトを宣言する。泣き叫ぶ環を店のショウウインドウの隅に立たせて「2分時間を計るから、それまでに泣きやみなさい」という。地団駄を踏んで怒る環の両腕を後ろからつかんで「泣きやみなさい」と繰り返す。もちろん道行く人はみんな見ている。私も恥ずかしいけれど、一度始めたタイムアウトを途中で止めるわけにもいかない。

ふと、通り過ぎる年輩の女性と目が合った。そうすると、その人はにっこりと微笑んで「がんばって」というように私に目くばせしてくれた。ちょっと、応援してもらったようでほっとした。

環は5分後に泣きやんで、それでもお気に入りのドレスを買ってもらえないことにふくれっ面だった。結局、その日は何も買わずに家に帰った。

Terrible Twoな子どもがいると、何事も思うようには進まないものである。

 

→第16回:アメリカン・ハズバンドvsジャパニーズ・ハズバンド