■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第14回:実戦・タイムアウト ケイト編

更新日2001/07/10 

どうも自分で上手くタイムアウトが使えない私は、ミッシーに相談してみた。すると、勉強家の彼女はタイムアウトに関する本を2冊貸してくれた。1冊はタイムアウトの基礎をなす幼児の発達心理をふまえた理論的な本。もう1冊は、「タイムアウトを試してみよう」的な、シチュエーション別の実践的な解説書。それらを読んでみて、タイムアウトが目的とする子育ての方針も、その理由付けもよくわかったが、毎日24時間terrible twoな娘と顔を合わせている私としては、どうも納得できない。「みんな、本当にこの本のとおりにできてるの?」「子どもは本当にこの本に書いてあるように、そんなに簡単に機嫌を直すものなの?」

そこで、再びミッシーに聞いてみると、「じゃあ、うちで私がどうやってやるか見てみる?」と言ってくれたので、「タイムアウト参観」に出かけることにした。

環は、最初のうちは機嫌良くケイトと遊んでいたのだが、すぐにおもちゃをめぐって小競り合いが始まった。ケイトはなかなか自己主張のはっきりとした活発な女の子で、それがときとして裏目に出ることがある。母親であるミッシーは、そういうケイトの頑固さが友だちを傷つけることをとても心配していた。そのときも、環が使っていたおもちゃをケイトがむりやり取り上げたので、それを見たミッシーが「叱る段階」を始めたのだ。

「ケイト、環にそのおもちゃを返しなさい。それは確かにあなたのおもちゃだけれど、今は環が使っていたでしょ」と言う。が、ケイトは「だって、これは私のお人形なのよ」と言って人形を離さない。そして、癇癪をおこし始めた。そして人形は取り上げられ、「タイムアウト」だ。ケイトの場合、タイムアウトの場所は自分の部屋の隅だった。部屋の隅に壁を向いてケイトは立たされる。でも、癇癪を起こして泣いているケイトはじっと壁を向いて立ってはいるものの、癇癪に身を震わせて泣いている。2分経っても、環に謝ることはできなかった。

でも、この事態に尋常ならざる雰囲気を感じた環が「このお人形はケイトに返す」と言ったので、一応の一件落着を見た。ミッシーは「環は本当に優しい良い子ね」と言ってくれたが、実際のところ、環は泣き叫ぶケイトにおそれをなしたのだと思う。「やってはいけないこと」をしてしまったということを、ケイトは理解しているのだろうが、壁に向かって立ったまま、身を震わせながら金切り声で泣き叫ぶ姿を見ていると、自分の非を素直に認めて謝れるようになるまでの距離は非常に遠いのではないかと思ってしまう。

ミッシーは言う。「本当は、あれで諦めちゃ駄目なのよ。でもね、本当のことをいうと、私の根気のほうが続かないの。ケイトはあのとおり気の強い子でしょ。言い出したら何があっても聞かないの。私はもっと厳しく毅然としてなきゃいけないということはわかってるんだけどねえ。なかなか思うようにはいかないの」

ふむふむ、やっぱりみんな思うようにはいかないものなんだ。一寸、安心した。

 

→ 第15回:ひとつの叱りかたが必ずしも万能ではない