■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第13回:いまアメリカで一番流行の叱り方

更新日2001/07/03 


前回にも少し書いたけれど、アメリカでは、少なくとも公衆の場で母親が子供を大声で叱りとばしていたり、叩いたりしている場面に遭遇することはきわめてまれである。その理由は、最近悲しいことに日本でもよく耳にするようになったが、アメリカは子どもへの虐待があとを断たず、この行為に対して非常に敏感な社会だからだ。けれども、普通の家庭で親がまったく子どもに手をあげないかというと、そんなことはない。ただ、子どもを叩くということは、親にとって叱り方の最終手段である。そこに至るまでには3つの段階があって、叱り方の定番とでもいうべき方法だ。それは、こんな風に始まる。

まず、子どもがしてはいけないことをしていると、親は「それをやめなさい。3つ数える間にやめなさい」と言う。これは警告である。3つ数える間にやめないと、もっと恐ろしいことがそのあとに待っているぞ、という意味だ。時と場合によっては3つ、が10になったりもする。親が数を数えている間に子どもがちゃんと言うことを聞いて、それを止めれば事態は平和に解決されるわけだ。これは、簡単な割に案外効果的な方法だ。ちょっとしたこと、たとえば妹の服を引っ張るのをやめなさい、だとかフォークでお皿を叩くのをやめなさい、などというときに役に立つ。

しかし、いつも「3つ数えて」いる間に子どもがしてはいけないことを止めるとは限らない。子どもだってこれ以上やるともっと怒られることはわかっている。でも、行きがかり上止められないことがある。数を数えてもまだ叱らなければならないときは、子どもはたいてい意地になってやっているか、癇癪を起こして泣き叫んでいる。手がつけられない状態だ。しかし、ひとたび、「してはいけない」と言った以上、親だってここで引き下がるわけにはいかない。

その次の手段は、「タイムアウト」である。アメリカで現在もっとも一般的に使われる叱り方だ。これは、簡単に言うとしてはいけないことをした子どもを頭ごなしに叱るのではなく、子ども自身に「いけないことをした」と気づかせるための方法だ。日本人の常識で言う、「叱る」のとはずいぶん違う。 やり方としては、まず「タイムアウト」の場所を決めておく。たいていは、部屋の片隅の壁に向かって立たせるとか、特定の椅子を使う。屋外だと、公園の隅とか木の下がよく使われていた。「3つ数えて」も言うことを聞かない子どもは「タイムアウト」の場所に連れて行かれる。そこで、子どもの年齢に応じた時間だけじっとしていろ、と言うのだ。例えば、3才の子どもだったら3分、5才だったら5分だ。

この時間というのは、罰を与えるというよりは子どもに泣くのをやめさせて、自分を落ち着かせる時間を与えるという意味のほうが大きい。「今から時間を計るからママが良いと言うまでそこでじっとしていなさい。その間に泣きやみなさい。」と言う。その時間で子どもが泣きやまなかったらもう一度計る。そして、とにかく子どもを泣きやませ、落ち着かせて話のできる状態に導いていくのだ。

往々にして、子どもはひとたび泣き始めると泣きやむきっかけをつかめずにひたすら泣き続けているということがある。だから、これは子どもに泣きやむきっかけを与えるという意味もある。そして、子どもが落ち着いたら、なぜそれをしてはいけないかを話して聞かせる。そして、子どもに納得させるのだ。そして、子どもに謝らせる。「ごめんなさい。もうしません」と。

それでもやはり、子どもがまったくいうことを聞かないときもある。そのときは、「次に時間が終わるまでに、泣くのをやめてごめんなさいが言えなければお尻を叩くわよ」だ。そして、もちろんそこまで来たらアメリカのお母さんだってパシーン!と豪快にお尻を叩く。でも、叩くのはお尻。一回だけ。

と、いうことなので、私もやってみた。Terrible twoな娘に、このタイムアウトを言い渡す機会は、ほぼ毎日あった。順番通りにやってみる。が、もちろん、マニュアル通りに事が進むはずもないのだ。娘が癇癪を鎮めて、泣きやむ頃には、私は精も根も尽き果てていた。本当に、みんなどうやって叱っているの??

 

→ 第14回:実戦・タイムアウト~ケイト編