第498回:流行り歌に寄せて No.293「他人の関係」~昭和48年(1973年)3月21日リリース
「金井」姓というのは、それほど珍しいものではないが、昔からいわゆる著名人にはあまりいないのではないかという気がする。
昭和40年代、俳優の金井大(だい)という人がテレビに出ていたが、かなり渋い役者さんだったから、みんなが知っているというタイプの方ではなかった。
昭和43年(1968年)に文壇デビューしていた金井美恵子という作家を私が知ったのは、それからかなり後のことである。
だから、みんなの知っている有名な金井さんは、金井克子一人だったように思う。彼女のことは、昭和41、42年あたりから知っていて、その頃、やかましい連中から、私は「カナイカツコ、カナイカツコ」と言われたりしていた。
他愛のない言葉とはいえ、女性名で囃されることがただ疎ましく、子ども心に金井克子という人を敬遠していたのだが、密かに同姓の親近感は感じていたのである。
彼女の存在をはっきり知ったのは、何といっても日本テレビ系(私は名古屋テレビで観ていたが)のバラエティ番組『レ・ガールズ』(昭和42年8月4日から昭和43年7月12日まで放映)を観てからである。西野バレエ団のメンバーであったレ・ガールズ(金井克子、原田糸子、由美かおる、奈美悦子、江美早苗)がレギュラーを務めた、歌あり踊りありコントありの番組だった。
レ・ガールズでは金井はリーダー格で、由美かおる、奈美悦子が番組が始まった頃、まだ16歳だったのに対し、彼女だけは22歳であり、完全にお姉さん的な存在で、明らかに大人の女性の雰囲気を持っていた。
この番組、19時30分から20時までだったが、こんなに早い時間帯に放映するのかと思えるほど、かなりお色気度が強く、小6から中1時代の私にとっては、かなりドギマギしてしまう内容だった記憶がある。
さて、今回調べていてとても驚いたことは、金井克子にとって『他人の関係』は実に31枚目のシングル・レコードだったことだ。
彼女のレコード・デビューは昭和37年8月『ハップスバーグ・セレナーデ』という曲だった。この曲は、アメリカのコーラス・グループ、シェファード・シスターズのスマッシュ・ヒット曲のカヴァーで、日本のコーラス・グループ、ベニ・シスターズとの競作である。
そして、金井は昭和41年『ラバーズ・コンチェルト』で、翌昭和42年『ラ・バンバ』で、2年連続、NHK紅白歌合戦に出場している。不勉強なことに、私はこのことを知らなかった。
しかし、その後はヒット曲には恵まれなかったため、渡米してバレエのレッスンなどを受け、ダンサーとして自分を伸ばしたいと考えるようになった。そして「次の曲で、歌手の活動をやめよう」と心に決めた時に提供されたのが『他人の関係』。譜面を見せられた時に、そのエロチックな歌詞から「これも、まったく売れる気がしないわ」と感じたという。
「他人の関係」 有馬三重子:作詞 川口真:作・編曲 金井克子:歌
逢う時には いつでも 他人の二人
ゆうべはゆうべ そして今夜は今夜
くすぐるような指で ほくろの数も
一から数え 直して
そうよ はじめての顔で おたがいに
またも 燃えるの
愛した後 おたがい 他人の二人
あなたはあなた そして私はわたし
大人同士の恋は 小鳥のように
いつでも自由で いたいわ
そして 愛し合う時に 何もかも
うばいあうのよ
逢う時には いつでも 他人の二人
気ままと気まま そして大人と大人
逢うたびいつも違う くちづけをして
おどろきあう その気分
そうよ はじめての顔で おたがいに
またも 燃えるの
愛した後 おたがい 他人の二人
男と女 そして一人とひとり
あなたは私のこと 忘れていいわ
迷ってきても いいのよ
私 何度でも きっと引きもどす
引きもどして みせる
確かに、かなり際どい言葉が並んでいる歌詞である。有馬三重子は、『17才』から始まる南沙織の一連の曲や、布施明の『積み木の部屋』などの作詞でその名をよく知られた人。爽やかな印象の詞が多いが、あの伊東ゆかりの『小指の想い出』という艶のある曲の作詞者でもある。
この『他人の関係』の制作会議で「詞に声や表情を合わせてしまうと、あまりにも生々しくなってしまう」という意見が出たという。確かに、これをたとえば松尾和子のようにムードたっぷりに歌ってしまえば、かなり濃厚な曲になるだろう。
「それでは、声や表情にまったく感情を入れない人工的な感じで行ったらどうだろう」という提案がなされ、それが採用されて、あの実に無表情のクールなスタイルになったそうだ。
「バンバンババンバン」というイントロ、そしてバレエで鍛えられたしなやかな肢体が繰り出す、あの独特のフィンガー・アクションを交えた振り付け、歌い出せば、感情のない声と顔つき。逆に、それが大人の色気を充分に醸し出すことになった。
確かに、あの振り付けがよく流行ったことは覚えている。小学生のお調子者の子どもたちがよく真似をしていた。
また、金井自身が当時航空会社のスチュワーデス(CAという言葉はまだ一般的ではなかった)から聞いた話で、乗客に非常口の案内をする時の動作が、この曲の振り付けとそっくりで、動作をする時に、乗客から「バンバンババンバン」と囃されて恥ずかしい思いをした、というエピソードも残っているそうだ。
この曲のステージで、彼女のバック・コーラス&ダンサーとなっているのは、男性の4人組グループ、ザ・フラッシャーズ。彼らとは長く、レ・ガールズ時代からのつきあいである。
金井克子は、この曲で6年ぶりにNHK紅白歌合戦に出場している。以前の紅白で歌った2曲はいずれもカヴァー曲だが、初めてオリジナル曲を披露することができた。
その後『人間模様(にんげんもよう)』を初め、有馬・川口コンビの作品を何曲かを出しているが、私は『波止場エレジー』という曲が、とても好きである。あのウィスパー・ヴォイスというのか、囁くような声にはピッタリな曲だと思う。
彼女は今年傘寿を迎える。芸能界に入って66年になるが、歌も踊りも現役で、活躍中とのこと。
私が老け込むなど、おこがましいことのように思えるのだ。
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