第二十八回
風姿花伝 その四
神儀ということについて
申楽の始り その二
一、むかし佛在所、すなわちお釈迦がおられた国で、須達長者(すだつちょうじゃ)が(祇園精舎)ぎおんしょうじゃを建てて、その供養を行った時、そこで釈迦如来(しゃかにょらい)が説法をされたが、そのとき、提婆達多(だいばだった)が一万人の、仏の教えを信奉しない異教の者たちを連れて来て、木の枝や、笹の葉に幣(しで)をくくりつけ、踊り騒いだので、ご供養の言葉を宣べることができなかった。
そこで仏陀は、お釈迦様の十人の弟子の一人である舎利弗達多(しゃりほつだった)に目を留め、仏の力をお授けになった。そこで舎利弗は、御後戸(おんうしろど)に、鼓や笙鼓(しょうご)を用意させて、同じく十大弟子の一人である阿難陀(あなんだが)才覚を働かせ、舎利弗が知恵を、さらに十大弟子の一人で弁舌に長けた富樓那(ふるなが)言葉を用いて、六十六番の物まねをしたところ、異教の者たちは、笛や太鼓の音を聞こうと御後戸に集まり、これを観て静かになった。その間に、お釈迦様が供養を宣べられたのだった。申楽は、この天竺での出来事から始まるともいわれている。
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