第六十回
風姿花伝 その七
別紙口伝 その八の二
このことは、ほかにもたとえば、弓矢など武芸の手立て、つまりはその方法や心得においても言えることで、名将の作戦や計画によって、思いもかけないような方法によって強敵に勝ったりすることがある。
これは負けた方から見れば、普通であれば当然こうなるであろうという理ことわりを外れた珍しい妙手に化はかされて負けたのだと言わざるを得ない。これは武芸、芸能を問わず、すべて道において、勝負に勝つための理であって、このような方法も、落居、すなわち勝負がついた後で、そういう計りごとであったのかと気付いてみれば、何ということもないことであったとしても、そのことを知らなかったからこそ負けたのである。
そういうことであるから、代々武芸や技芸を受け継ぐ家であれば、何か一つくらいは秘事として伝え残すべきであると知るべきである。それは単に秘事を公にしないということだけではなくて、そのような秘事を知っている者だということさえ知られてはならない。それが知られてしまえば、また自分がそういう存在で、それを秘しているという心を見抜かれてしまえば、相手は油断なく用心もすれば、そういう自覚や気配りを持って自ずと対するようになってしまう。
特に用心などしていなければ、こちらが勝つことは容易であって、相手に油断をさせて勝つ、珍しいこと、新しいことで勝ちを収めることができるのであればそれを効果的に用いない手はない。したがって、我が家の秘事も、人に知らせないということによって、私を家を継ぐものとして生涯、花を保ち護っていこうと思う。秘すれば花。秘してこその花であって、そうでなければ花ではない。
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