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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第661回:石山寺ハイキング - 京阪電鉄石山坂本線 浜大津駅~石山寺駅 -

更新日2018/05/10


浜大津駅は京阪電鉄石山坂本線の中間駅だ。ここに京津線が接続する形で全体が大津線と称され、路線略図で丁の字になっている。"石山坂""本線"ならば、京津線が支線だろうか、と勘違いしそうだけど"石山""坂本""線"である。先に"石山"側へ行く。駅名は"石山寺"である。京津線の電車を降りたプラットホームでしばらく待つと、濃淡の緑色に塗られた細身の電車がやってきた。腰から下が濃緑色、窓から上が黄緑色、かつての京阪電鉄の標準色だ。抹茶ババロアの上に抹茶ソフトクリームをのせたような、私の好きな緑色。2016年現在、大津線のみ残されている。

比叡山のある坂本からやってきた電車で、車内は混雑していた。私は運転台の後ろに立った。電車はまっすぐな複線区間を揺れながら走る。京津線に比べて、かなり整った線路だと思う。じつは、浜大津から京阪膳所までは、かつて官営鉄道だったそうだ。民間鉄道が官営鉄道に買収された事例は多いけれど、その逆は珍しいと思う。官営鉄道は東京と大阪を結ぶ線路のうち、当初は長浜と大津の間について、琵琶湖を介した連絡船経由とした。その後、米原から琵琶湖畔に線路が敷かれて大津に至った。

しかし、大津から西は逢坂山の勾配区間であり、輸送量の増加に耐えられなくなった。そこで東海道線は新たなトンネルを掘って移設された。残された旧東海道線の膳所駅と大津を結ぶ線路が払い下げられ、大津電車軌道として再出発した。これが現在の石山坂本線のルーツとなった。京阪膳所駅の手前、左カーブの向こうにJRの膳所駅が見える。この線路はかつて、あっちにつながっていた。

複線区間はさらに続く。官営鉄道だった線路だけが複線で、あとは単線だと思っていた。意外だと思ったけれども、車窓は住宅やマンションが切れ目なく続いている。高層マンションも見かけるから、お客さんも多いのだろう。日中はぴったり10分間隔で、朝と夕方は1時間あたり8本も走る。複線でなければダイヤを組みにくい。大津市は滋賀県の県庁所在地であるし、人口34万人である。京都市にも近く、このくらいの規模の私鉄はあって当然といえる。

線路はなんとなく上り勾配の傾向がある。上り坂はたいてい曲線のようで、右に曲がっては左に曲がり、左に曲がった後で右に曲がる。つまりは勾配を抑えるために曲線で距離を稼いでいるかもしれない。いったん高架に上がって東海道本線を超えて、左に曲がると石山駅だ。東海道本線の石山駅と隣接しており、お客さんが入れ替わった。

石山駅を出るとS字カーブ。さらに右へ曲がって、こんどは左カーブにならず直進する。正面に緑の山が見えた。あれが石山なのだろう。東海道新幹線のガードをくぐり抜けると両渡り分岐線があって、その先が終点の石山寺駅であった。行き止まり式で、ふたつの線路の両側にプラットホームがある。小さいながらも櫛形プラットホームであった。

このまま引き返してもつまらないから、駅名の由来となった石山寺を訪ねよう。小さなバスロータリーの先に観光案内図がある。現在地から石山寺までは近い。歩いて30分もあれば往復できそうだ。しかし、この見積もりが甘かった。道しるべが示す900m地点は石山寺観光の入り口に過ぎず、しかも門の前で拝観料の支払いが必要だ。寺の参拝で入場料とは意外だけれど、そうか、ここは京都の文化だと気づいた。

「荷物を預かりましょうか」と言われ、
「いや、ちょっと拝みに行くだけで」と遠慮したけれども、
「階段がありますから」というので預かってもらった。これが正解だった。石山寺は、どうやらこの山全体が境内であって、順路通りに歩くとハイキングか軽い登山という様相である。こりゃ嵌まったな、適当なところで引き返そうかと何度も思った。しかし、高みに上がれば景色も良く、拝観料を払ったからにはすべて巡ってやろうという欲が出た。結局、順路通りに山を歩き、駅に戻れば1時間半以上を費やしていた。良い運動になったと納得したとはいえ、予想外の滞在となった。

01
細身で甘味色の電車

02
JR膳所駅の手前で曲がる

03
沿線は住宅街、高層マンションも多い

04
新幹線の下を通り抜ける

05
石山寺駅

06
案内図では近い石山寺

07
ここがお寺……の入り口だった

08
そうだ、京都、行こう (滋賀です)

09
紫式部さんこんにちは

10
ハイキングが楽しくなってきた

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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