第2回:ジェシー・ジェイムス~創られた英雄 その2
ジェシー・ジェイムスは、ロビン・フッドか?
ジェシー・ジェイムス神話に先鞭をつけたのは、アル中のジャーナリスト、ジョン・ニューマン・エドワーズだったが、神話を仕上げたのはジェシーの遺族たちだった。
その中心はジェシーの産みの親、ゼラルダ(Zerelda James
Samuel)で、ジェシーが殺された後、およそ30年生き、86歳で亡くなるまで、息子ジェシーの伝説を売りまくった。
自分の農家を観光資源にして、入場料を取って見せ、墓の周りに置いてある丸い石を記念物として25セントで売り、その石は近くの小川から運び込んだものだが、機会あるごとに180センチはあろうかという、当時としては極めて大柄な身体で写真に納まり、ジェシー神話を確立させていった。
ゼラルダは3度結婚している。ジェシーとフランクは、彼女の最初の夫の子供である。ピンカートン探偵社がジェイムスの家を襲った際、ゼラルダは右腕を爆薬で吹き飛ばされ、2番目の夫の間にできた9歳になる息子のアーチー(Archie)を失っているが、そんなことにはめげずに、逆境を転じ、ジェムス一族の悲劇を売り物にしていった。
ジェシーの兄フランクの妻、アニー(Annie Ralston)だけが1944年に亡くなるまで、取材に一切応じず、殺人者フランクの妻、そしてジェシーの義理の姉として沈黙を守り通した。彼女を唯一の例外として、家族、親類郎党はジェシーの名を最大限に利用し、金儲けに走った。息子もジェシー役で一族郎党と共にハリウッド映画にゲスト出演したりしている。

ジェシー・ジェイムスとフランク・ジェイムスの
産みの親、ゼラルダ(Zerelda James Samuel)。
いかにも肝っ玉母さん風な風貌をしている。
ジェシー・ジェイムス=ロビン・フッドの神話を捏造し、先鞭をつけたのも、やはりエドワーズで、事実としてジェシー・ジェイムスが盗んだお金を南北戦争に敗れた南軍のシンパにばら撒いたことはなく、犯行も冷血そのもののやり方で、金品を巻き上げた後、不必要な殺戮を繰り返していたから、およそ義賊とはかけ離れた残忍なアウトローだった。盗んだ金品は、サロンバーでの酒とギャンブルに費やされただけだった。
それにもかかわらず、シェシー・ジェイムスの死後、130年近く経った今でも、ジェシー・ジェイムス=ロビン・フッド伝説が存続するのは、それを信じたがる心理がミズリーを中心としたケンタッキー、テネシー、アーカンソーの人々の中に強烈にあったからだろう。
どうにも、エドワーズの大ボラ記事だけでは、ジェシー・ジェイムスが義賊であったという伝承が現在まで継続されるはずがないと思うのだが……。ジェシー・ジェイムス伝説は、近年になってもますます大きくなっている。
30年前に、ジェシー・ジェイムスが育ったカーニーの農場に行ったことがある。農家は地元の好事家が一人ヒマそうに、つぶれそうなキャビンの中で本を読んでいただけだったが、一昨年、そこを再訪して驚いた。冷房の効いた博物館が建てられ、入場料をしっかり取り、そこを通らなければ、ジェシーとフランクが少年時代を過ごした小屋に行くことができなくなっていた。
そこに7、8人は詰めている博物館員の一人に、ピンカートン探偵社の襲撃の時の、ライフルの弾がめり込んだままになっている丸太の壁(実は信憑性が低く、ゼラルダが仕組んだものらしい)のことを訊ねても、何も知らなかった。
ここは田舎町の博物館としては大盛況で、夏の暑い盛りに満員…状態だった。だが、これはゼラルダの遺志ではなく、クレイ・カウンティーの観光資源保存、売り込みの結果だ。
犯行声明を一々出しているわけではないから、ジェシー・ジェイムスとフランク・ジェイムスが直接関与していた犯行は、当時盛んに横行していたコピーキャット(サルマネ犯行)によるもので、確定されている強盗殺人は案外少ない……と見る西部史家もいる。
ジェシー・ジェイムスと兄のフランク、それにヤンガー兄弟を主軸としたギャング団の犯行地域は、お粗末な失敗に終わったミネソタ、ノースフィールドの銀行強盗を例外にして、恐ろしく狭い範囲で行われている。
どんなドロボーでも、多少のプロなら自分の隣の家や近所で犯行を働かないものだ。同じ町でも、他の地区に出かけシゴトをしてくるのが常識だろう。ところが、ジェシー・ジェイムスとそのギャングたちの犯行は、ほとんどすべてがミズリー州の西のごく狭い地域に集中しているのだ。そしてそこは、自分の家族、母親、兄弟が住んでいるのだ。
人間すべて、その時代の子であることに疑いはない。だが、ジェシー・ジェイムスの場合、とりわけ彼が育った時代と地域が強力に作用した。時代とは南北戦争であり、地域とはミズリー州の西、カンサス州に州境を接したクレイ・カウンティー(Clay
County)だ。
【…つづく】
第3回:ジェシー・ジェイムス ~創られた英雄 その3
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