■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝 Part2



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第1回:怪盗"PO8" その1

更新日2006/10/29


1870年から1880年初頭にかけて、北カルフォルニア周辺で駅馬車強盗が頻発した。

当時、西部の町の間では、駅馬車が唯一の交通手段であり、郵便や現金輸送に駅馬車は欠かせない時代だった。犯行はオレゴン州に及ぶこともあったが、大半は北カリフォルニアに集中していた。

この怪盗は"PO8"と名乗り、西部アウトロー史上、最も鮮やかに、しかも単独で30回もの犯行を重ねたのだ。

彼のやり方は単純だった。ただショットガンの二連銃を構え、駅馬車を止め、通常二人、御者と助手とを脅し、積んでいる安全金庫(ストロング・ボックス)を馬車から路上に投げ落させ、駅馬車を追い立てるように遠ざけ、それからご本人はストロング・ボックスを開けて中身だけを持ち去る、いとも理に適ったやりかただった。

怪盗"PO8"の服装も変わっていた。彼の一番初めの犯行と言われている、1875年7月26日、ソノラからミルトンに向かう駅馬車を襲った時には、穀物を入れる麻袋を頭からすっぽりと被り、目と銃口の部分にだけ穴を開け、靴の上まで別の砂糖袋で縛り、徹底的に目撃者の証言(当時は目撃者、当事者の証言が裁判で大きな効力を持っていた)を遮る、と言えば聞こえはいいが、奇妙キテレツないでたちで犯行に及んでいるのだ。

これが怪盗ルパンや怪傑ゾロのような黒い覆面ならまだサマになるのだが、ズタ袋を被っていたのでは映画どころか、ダイム・ノベル("10セント小説")にもなりにくいだろう。

このときの駅馬車の御者、ジョン・シャイン(John Shine)は、後にUSマーシャル、そして上院議員になった人物だが、面白おかしく事件を語っている。もっとも、議員さんになってからの昔話としてのコメントだから、自分が遭遇したオモシロ、オカシイ事件として多少の脚色はあるだろう。

麻袋で身を包んだ賊は、よく響くバリトンの声で、「どうぞ、スロング・ボックスをこちらに投げてください」と、とても丁寧、慇懃に告げ、ストロング・ボックスを路上に投げ落すと、「どうもありがとう、良い旅を続けるよう祈っております」と駅馬車を送り出したと言う。

恐喝に付きものの罵詈造語、カウボーイやアウトロー・タフガイが使う下品な言い回しは全くなく、あくまでも紳士的に静かで丁寧な言葉使いと態度を崩さなかったそうだ。この高い教養を匂わせるどえらく紳士的な態度は、後に彼の駅馬車強盗のトレードマークになった。

頻発していた駅馬車強盗のうち、どれが怪盗"PO8"の犯罪だったのかを確定するのは不可能に近いが、多くみる人で40件、これだけは確実だと思われているのだけでも28件もあるのだ。

収支決算だが、最高額は1,800ドルの金貨と600ドルの現金コイン、最悪(彼にとって)のケースは証券小切手(賢明にも彼は小切手を現金化しなかった)と数ドルだけのこともあった。平均すると400〜500ドル程度だろうか、ウエルファーゴ社が網の目のように走らせていた田舎回りの駅馬車がターゲットだから、ワイルドバンチが襲った大都市間の現金輸送列車ほどの実入りはなかった。

だが、怪盗"PO8"は単独ですべてを行い、しかも全盛期?の1881年には6回もシゴトをこなしている。マメに小さく、しかし数多く稼ぐタイプのシゴト師だったのだ。

ある時、駅馬車に乗っていた婦人が指輪を抜いて彼に差し出したところ、怪盗"PO8"は毅然として、「私は乗客からモノを奪いません。私が奪うのはウエルファーゴ社からだけです」と述べ、それが西部のマスコミに広がった。マスコミがジェントルマン強盗として書きたて"PO8"は、ますます彼の紳士的強盗態度に拍車をかけ慇懃になった。当然、コピーキャット(すぐに真似をする人)がたくさん現れた。

ハナシとして痛快で愉快だが、目標にされたウエルファーゴ社はたまったものではない。すぐに250ドルの賞金(後に800ドルに値上げされた)を"PO8"の首に懸け、専任の探偵も雇い、犯人捜査に乗り出したのだ。

"PO8"はコモゴモのコピーキャットたちと自分を区別するためだろうか、遊び心からだろうか、古典的怪盗が白い手袋やイニシャル入りのハンカチを置いたように、犯行現場に自分の名前を入れた自作の詩を書き残すようになったのだ。

彼は"ブラック・バート(Black Bart)"と名乗り、"PO8"とはそのまま英語読みにして"ポーエイト"つまり「ポエット=詩人」の怪盗B.B.というわけだ。

-つづく

 

 

第2回:怪盗"PO8" その2


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