第25回:Butch Cassidy_追う者と追われる者
更新日2007/04/12
チャーリーが提供してくれた隠れ家キャビンは草深い斜面にあり、よほど近くまで来ない限り、そこに小屋があることさえ気がつかないような理想的な場所にあった。
3人はテリュライドからの長い逃避行の後、この小屋でやっと気を許してウイスキーを飲み、安心して夜通し寝ることができたのだった。ところが一週間ほど経ったとき、チャーリーの牧童が駆けつけ、追っ手がブラウンズパークに迫り、ブッチたちのことを嗅ぎまわっていると知らせてきたのだ。短い平安は終わりを告げ、また終わりのない逃亡生活に入ったのだった。
チャーリーが提供してくれた元気のいい馬に食料を積み、3人はなんとブラウンズパークからまた南下し、ユタ州南部のロバーズ・ルースト(泥棒たちの隠し砦)峡谷に戻ったのだった。マットの自伝によれば、夜馬を走らせ、昼は身を隠し、記録的なスピードでロバーズ・ルーストに着いたとある。
彼らがなぜ北のワイオミング、しいてはカナダに行かず、南に下ったのか分からない。ワイオミングのスターバリーにマットとトムはキャビンを持っていたし、コロラドとワイオミングにはまだ犯人引渡しの協定がなく、州境を越えての捜索には、いちいち双方の裁判所から許可を取らなければならず、お役所仕事の常として時間がかかったから、ワイオミング州に駆け込むのが手っ取り早かったはずだ。
ワイオミングは、コロラドやユタでシゴトをしたアウトローにとって安全な州だったにもかかわらず、たった3マイルのワイオミングに向かわずに数百キロの砂漠、荒地を渡り、来た道を引き返すようにユタ州の南部に逃げたのだった。
アウトロー研究者の間でも、どうしてそのような行動を取ったのか意見が分かれるところで、なぜ最初からロバーズ・ルーストに行かなかったのか謎が残る。満足な説明はないが、結果的には追っ手の裏をかいたことになり、それが上手くいった。恐らくブッチたちは追手の正確な情報を掴んでおり、追手がユタ、ワイオミングの州境で網を張って待ち構えているのを知っていたに違いない。

ブラック ドラゴン峡谷。
この峡谷に沿ってブッチたちはワイオミングから
ユタ州南部のロバーズ・ルースト(泥棒の隠れ家砦)へと
南下し、また北上したと伝えられている。
彼らがロバーズ・ルーストの複雑な峡谷のどこにひそんでいたのか確定できていない。この広大な三角地帯に1,000以上の岩山、崖があり、一人で一師団を迎え撃つことができるといわれる地形だ。おまけにここロバーズ・ルーストは、ブッチが18歳のとき初めて故郷のサークルヴィルからテリュライドまでキャプテン・ブラウンと馬を追いながら旅したとき以来、馴染んだ土地だ。この土地での身の隠し方、守り方、逃げ方をよく知っていたに違いない。また信頼できるアウトローのお友達も居たことだろう。
ブッチは故郷のサークルヴィルに帰り、家族に会うつもりだった。隠れ家からほんの200キロの距離だ。彼らの移動力からすれば2、3日の行程である。どんな行動にも事前の調査を怠らないブッチは弟のダンと連絡を取り、故郷に入る前にミルフォード村(Milford,サークルヴィルの西約60キロ)でダンと落ち合った。サークルヴィルではブッチがテリュライドの銀行襲撃に絡んだことを誰もが知っており、シェリフたちも家族を監視しているとダンは告げたのだった。
この時点まで、ブッチは本名のロバートを名乗っていたが、家族に掛かる不名誉を思い、自らをジョージ・キャサディーと名乗り始めた。それは故郷への決別でもあった。彼がブッチの愛称で呼ばれるようになるのまだ後のことだ。
ブッチはそのまま隠れ家、ロバーズ・ルーストに引き返し、生涯故郷に帰ることがなった。
ブッチたち3人組みの首には賞金が掛かっていた。プロの賞金稼ぎや田舎の郡のシェリフたちもあわよくば3人組を逮捕または殺して賞金をものにしようと嗅ぎまわっていた。
ハンクスヴィルのシェリフ、トム・ファールス(Tom Fares)は賞金に魅せられたのか、名を上げようとしたのか、ハンクスヴィルの村が半ば牛馬泥棒たちの余禄で成り立っていることをさておいて、手下二人を引き連れ、ロバーズ・ルーストに入り込んだのだ。もともとトム・ファールスは牛馬泥棒上がりのシェリフで順法精神が高いわけでも、潔癖でもなかった。事件のない村の駐在さんで、怪しげなサイドビジネスやアルバイトを陰でやっているような人物だった。
シェリフのトム・ファールスと保安官補の二人がロバーズ・ルーストに入ってきたとき、マットが見張りに立っており、シェリフのトムと連れ二人がそのままルーストを南下し、全く水場のない砂漠地帯に入り込んでいるのを見つけた。このまま進めば馬もろとも夏の太陽に焼かれるように死ぬことは明らかだった。
馬も人間もすでに脱水状態にあるのを見て取ったマットは、ルーストの恐ろしさも地理も知らない追跡者に注意を促すため、中に向けてライフルを撃ち、彼を追跡させ、途中の木立に水場の位置を正確に記したメモを残したのだった。追跡者の3人はこれで救われた。
銃声を聞きつけ、マットに合流したブッチとトムは、間抜けな追跡者に小さな教訓を与えることにした。水場で休んでいた追跡者3人組を襲い、武器と鞍を取り上げ、おまけにズボンを脱がせ下半身裸の尻丸出し、フルチンスタイルで裸馬に乗せ、しかし、水筒に水だけは充分詰めて持たせ、ハンクスヴィルまでの迷路を丁寧に教え、送り返したのだ。
トム・ファールスはズボンを脱がされたシェリフとしてアウトロー史に名を残すことになったのだ。
この逸話は様々なバリエーションで面白おかしく書かれているが、マットの自伝で語られているのが大元だ。マットが話を面白くするために創作したともいえない部分がある。シェリフのトム・ファールスとブッチは追跡者と犯罪者の関係になる前に、知り合いだった可能性が強い。シェリフのトムとブッチが一緒に写っている集団の写真が残っているのだ。
一方、ブッチの仲間のもう一人のトムの方だが、追跡者をオメオメと生きて帰すようなことはしないタイプのコワオモテ、筋金入りのアウトローだ。即、追跡者を撃ち殺してしまっただろう。しかもロバーズ・ルーストの峡谷に埋めてしまえば、まず他人に知られることはない。
ブッチが旧知の間抜けな追跡者のズボンを脱がせ、裸馬に乗せ、送り返すというふざけた演出をすることで、殺しを避けたのではないかというのが私の推測だ。ブッチは殺傷を嫌い、生涯人を殺めたことがなかったと信じられている。
…-つづく
第26回:Butch
Cassidy_ブラウンズパーク、バセット牧場

