第17回:Butch Cassidy マットとの出会い その2
更新日2007/02/15
ブッチは、マットと彼の義理の兄トム(Tom McCarty;マットの姉の夫)、それにジョッキーのジョニー(Johnny
Nicholson)と共に、ベティーに挑戦する馬を求めコロラドの町々を渡り歩き、ベティーは勝ち続けた。稼いだ掛け金はあぶく銭身につかずの箴言を文字通り地で行き、その町々のサロンバーにいる全員に飲み放題でおごり、そこを貸し切るようなやり方で盛大に散財して歩いた。マットが言うには、「その町で稼いだお金は、その町にすべて落としていく」ようなお祭り興行だったようだ。
しかしながら、おいしい収穫はいつまでも続かないものだ。次第にベティーの盛名が西部に広がるに従い、対抗馬を見つけるのが難しくなってきたのだ。どこの町に行っても、「あの、雌馬ベティー」と名を聞いただけで怖じ気づき、あえて挑戦する者が居なくなったのだ。
ついに、インディアン(ナバホ族)が独自の調教と乗りこなしで不敵との勇名をはせていた牡馬のホワイトフェイスしか相手がいなくなった。マットもブッチも掛け金を持たない貧しいインディアンとの競争を避けたかったが、年長でボス格のトムがインディアンと馬そのものに加えインディアン部落にあるすべてのブランケット(これはいい値で売れる商品だった)を賭けるという条件を決めてきたのだった。
レースはベティーが勝ち、ブランケットを満載し、ホワイトフェイスを引き連れてコロラド南西にあるコルテスのトムの牧場へ帰った。ところがまだ夜も明けきらない翌朝、インディアンたち15人がトムのキャビンにホワイトフェイスを取り戻しにやってきたのだ。
このあたりはインディアン側にどんな言い分があったのか、なかったのか彼らの記録がないが、白人サイド、トムとマットが書き残している記録によると、インディアンの方がライフルをトムに向け脅しをかけようとしたのに即応し、すでにインディアンとの言い争いで頭に血が上っていたトムがそのインディアンを撃ち殺したのだ。トムにはこのように見境なく暴力をふるう傾向があった。一方、インディアンは死体を馬に乗せ引き上げて行った。
インディアンが復讐にやって来る前に逃げようと言うブッチに対し、トムはあいつらにはそんな勇気はない、またキャビンに近づいたら死体が増えるだけだと笑い飛ばしたのだった。事実、その後インディアンはやって来なかった。ということはナバホインディアン側に最初から暴力に訴えて出る意図はなかったと考えるのが自然だろう。
15人ものインディアンが武装しているなら、その場でたった3人だった、トム、マット、ブッチを片付けるのは造作もないことだったろう。相手が先に銃を抜いた、向けられたから当方は撃ち殺したという正当防衛の理屈は西部で広く通用していた。白人側がそんな理屈を楯に取り、先にインディアンがライフルを向けたので…と書き残し、正当防衛の自己弁護を振り回したのが本当のところだろう。
もともと、ナバホインディアンは戦闘的なアパッチやシャイアン族と異なり、酔っ払って殺傷沙汰に及んだ記録こそ多いが、自ら組織だった戦闘、襲撃を始めることはなかった。少ない戦闘の記録(白人側の)を読んでも、ナバホ側に止むに止まれず、追い詰められたように戦闘を開始しなければならなかった充分な理由が行間から溢れ出ているのを、よほど鈍感な読み手でない限り感じ取ることができる。
殺しはブッチの想定に入ってはいなかったし、事実、ブッチは生涯、人を殺めたことはなかった。この事件がブッチの暴力嫌いを増長したのだろうか、生涯、血を見ることを嫌っていた様子さえうかがえる。
マットとトムは義兄弟だから当然だとしても、ブッチが仲間に加わるかなり以前から、ジョッキーのジョニーは競馬商売にはなくてはならない存在だった。もとよりベティーはマットの持ち馬なのだ。それにもかかわらずジョニーをさておいて、マットとトムは裸同然で飛び込んできたブッチを対等の仲間とみなし、儲けは三等分していたのだ。ジョッキーの方には、毎回の騎乗のたびに勝ったらいくら、負けてもいくらと支払う約束で、一種の契約社員扱いで繋がっており、仲間として扱っていないのは不思議なことだ。人と打ち解け信用される要素がブッチにあったとしか考えようがない。
競馬商売が上ったりになり、トムはコルテスにある自分の牧場で主に盗んだ馬の売買を続け、マットとブッチはテリュライドとコルテスの中間の山裾にあるハーリー(Harry
B. Adsit)の牧場に職を得た。
ハーリーの牧場は広大なだけでなく、恐らくコロラド南西部で一番優れた馬、牛を産出する一大ランチだった。山間に広がる牧地にはサンミゲル川とドローレス川が流れ、またサンフアン連山が雲をよび、湿潤な草原をつくっている。ハーリーはここに5,000頭もの牛を飼い、周囲の鉱山の町々に肉牛を卸し、運搬用の馬を供給していた。

ハーリーの牧場のあったところは現在国有林になっている。
松の大木が生い茂り、それを突き抜けると雄大な岩山が
幾重もそびえ、私たちお気に入りの山登り、山歩きの場所になった。

表ロッキーに比べると訪れる人が極端に少なく、
山奥に入り込んだ気分になる。
ここは3,400から,500メートルの地点だろうか、
6月の終わりになると、一斉に花が開く。
ハーリーが後に語ったところによると、二人とも第一級のカウボーイで、牛を追い込むのも巧なら、焼印を押すため子牛を投げ縄で捕らえるのも素早く、ブロンコをブレイク(調教し、人が乗れるようにする)するのも超一流だったと手放しで褒めちぎっている。
ブッチの方は冗談を飛ばし場を明るくするが、他の牧童たちのように深酒をするわけでなし、ポーカーにのめり込むこともなかった。牧場といっても一辺が80キロはあろうかという広大な山地だから、牧童たちは放牧してある牛を集めるため、幾日もキャンプしながら巡ることになる。あるときハーリーは、ブッチと一緒にそのようなキャンプをして巡り、この男はきっと自分の世界を作りあげる人物になるとの印象を持ったと語っている。
ブッチとマットは一シーズンほどハーリーの元にいた後、ユタの故郷に帰ると告げ、そこを去った。このときハーリーはよほど二人に感謝したのか、ボーナスをはずんだ上、彼らが調教した仔馬をそれぞれに与えている。
奇妙なことだが、ブッチら、後にワイルドバンチの面々となる流れカウボーイたちは馬、牛泥棒を生業にすることからアウトローへの道へ踏み込んで行ったにもかかわらず、自分の雇い主に対しては漫画的なほど忠誠心が強く、決して雇い主から牛、馬を盗まないのだった。
マットはすでにベテラン牛馬泥棒だったし、ハーリーの牛馬をかすめ、義兄のトムのコルテス牧場まで60〜70キロの谷道を牛馬を運び込むのは容易なことだったろう。だが、そんなことは全く想像だにできないことだった。田舎モノの馬鹿の一徹が彼らの精神の基本にあり、西部のブームタウンを流したギャンブラーや町系のガンマン、悪徳シェリフたちとは一線を画している。
その後、ブッチは何カ所かの牧場で働くが、どこでも雇い主から最大級の賛辞を受けている。
…-つづく
第18回:Butch
Cassidy 空白時代の伝説

