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■よりみち~編集後記

 

更新日2018/12/13




2018年12月1日、中国深圳市に本社を置く通信設備最大手、
ファーウェイ・テクノロジーズ(Huawei Technologies Co. Ltd;華為技術有限公司;1987年設立)の副会長兼CFOの孟晩舟(モン・ワンジョウ;46歳)が、バンクーバー国際空港で メキシコから香港に向かう途中、米国の引き渡し要請でカナダ当局によって詐欺容疑で逮捕された。米国に対するイラン制裁を回避するために、国際銀行システムを操作した疑いがその逮捕理由だ。逮捕状はすでに8月22日にニューヨーク州の裁判所によって発行済みだったことが判明し、孟副会長はアメリカに入国すると逮捕されることは知っていたようなのだ。バンクーバーでの逮捕もメキシコから香港へのトランジットであり、CIAなどの捜査網でカナダ当局の協力なしには実行されなかった特殊な逮捕劇である。

このニュースを目にした時、アメリカ当局とカナダ当局がタッグを組んで騙し討ちにしたような印象を持ったのだが、実情はいささか異なりアメリカの要請をカナダが拒み切れずに逮捕に踏み切ったが、身柄引き渡し要請には最大限の抵抗を示すことで中国当局を刺激し過ぎないよう配慮している感じが伝わってきた。そして、12月11日、バンクーバーの裁判所は、保釈金1,000万カナダドル(約8億5,000万円)で国外逃亡しないことを条件に保釈している。

ファーウェイに対する厳しい対応は今回突如始まったことではない。すでに2000年のジョージ・W・ブッシュ大統領の時代に、イラクのサダム・フセイン政権やアフガニスタンのタリバーン政権にファーウェイが通信機器を支援していることが問題化し、中国政府によるアメリカへの敵対行為ではないかと非難されてきた。

2012年10月、米連邦議会下院の諜報委員会は、ファーウェイと同業のZTEの製品について、中国人民解放軍や中国共産党公安部門と癒着し、スパイ行為やサイバー攻撃のためのインフラの構築を行っている疑いが強いとする調査結果を発表。両社の製品を合衆国政府の調達品から排除し、民間企業でも取引の自粛を求める勧告を出している。

この勧告を受け、カナダ政府は通信ネットワークからファーウェイを安全上の理由から除外を決定している。2014年には、韓国政府が政府の通信に関してファーウェイの機器が使われていないネットワークを通すことに同意。台湾でもファーウェイ製の基地局からノキア製の設備へ変更を決定している。また、2018年、オーストラリア政府も海底インターネットケーブルの設置プロジェクトや5G設備調達からファーウェイを締め出すことを発表している。そして2018年4月には、米国防総省はZTEとファーウェイが製造した携帯電話やモデムなどの製品を、セキュリティー上の問題として、米軍基地での販売を禁止、軍人には基地の外でも中国製品の使用注意を指示している。

アメリカ政府としては、中国共産党と直結しているファーウェイの通信技術の脅威を常に抱いており、アメリカの政治や軍事への介入や陰謀を警戒し、すでにその証拠として、スマートフォン端末に“余計なもの”(米粒サイズのスパイチップ;Bloomberg Businessweek)が埋め込まれていたとか、すでにスパイ工作や情報の抜き取りなどの事例を持っているようで、ファーウェイが全く無実の罪で汚名を着せられているわけではないことは想像できる。但し、ファーウェイ側からすれば、あくまでもアメリカ当局からの言いがかりであり、スパイ工作や情報の抜き取りはアメリカ当局が以前から繰り返してきていたことで、中国でも研究開発が進められているだけで、アメリカ政府を陥れるような工作など一切やっていないと主張するのも当然のことだろう。もうこうなるとスパイ映画そのものが現実に展開されているわけで、誰も本当のことは言わないし、また言える状況ではないだろう。

中国共産党というとても特殊な国家機関をバックに、通信設備技術を世界経済制覇の目的で展開しているファーウェイは、どうしても中国政府が育て上げた工作員が紛れ込んでいると見えてしまうのも確かである。第一に、創業者であり、今回逮捕された副会長の父親でもある任正非(レン・ツェンフェイ;74歳)は中国人民解放軍出身で、通信部門研究を担う情報工学学校でトップだった人で、解放軍で情報通信と言えば諜報活動以外に考えられないだろう。その軍事用の情報通信技術を駆使した会社なのだから、誤解するなという方がやはりオカシイということになる。実際に中国政府からファーウェイに対して270億円以上の支援金なるものが投入されており、関係がないことを証明することの方が難しいだろう。

どうもアメリカと中国との「5G技術戦争」がすでに勃発しているのかもしれない。2010年代で主流の4Gではアメリカ企業の技術が席巻していたが、5GではファーウェイとZTEは北欧のエリクソンやノキアと並び先行しており、ファーウェイなどの中国企業が主導権を握るとの見方が主流となっているのだ。そこで発生した今回の逮捕劇である。通信分野の次世代技術5Gの実用化でライバルとなる中国大手2社を封じ込めないと、アメリカは世界シェアを失い、経済的な覇権国の座を明け渡すことになり兼ねないのである。アメリカは果たして中国通信設備企業の封じ込めに成功するのだろうか? 欧米やユーラシアに対してのファーウェイ恐怖症は確かに植え付けに成功しているように見えるが、中国がこのままアメリカの言いなりになるとも思えず、通信技術を使った新しい戦略を放ってくる可能性が高い。端末は違っても中身のアプリケーションやソースコードによって通信はいくらでも支配される可能性があり、5G技術が加わることで、さらなるサイバー攻撃やハッキングは過激に高速にそして複雑化していくだろう。どうも破滅的な想像ばかりで、全く明るい未来が見えてこないのが悲しい。(越)

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO

 

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