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■よりみち~編集後記

 

更新日2010/07/01


Hi8、Digital8、8ミリビデオが存在したこと自体が、すでに歴史の教科書にしか書かれていないかもしれないが、今から 20年近く前には最新鋭のビデオカメラと言えば Hi8 だった時代に我が家に長男が誕生した。子供の成長の記録には写真よりもビデオだろうと、当時としては結構な値段のカメラを中古で入手し、休日などにせっせと子供を撮影した。子供が大きくなると、撮影の熱意も消え、ビデオカメラも埃をかぶったまま十数年になった。ビデオテープの時代が終わって、データはDVDやハード ディスクに保存する時代にいつの間にかなってしまい、なんとかビデオテープをDVDなどに変換しておかないといけないなと思っていたのだが、なかなか重い腰が上がらず、特に急ぐ必要もないからどんどんと忘れていってしまった。先日、たまたま8ミリビデオカメラが出てきて、当然のことながら、電池は腐食しており、電源もダメになっていて全く作動しない状態で、持っていてもしょうがないので捨てようと思ったが、中に撮影途中のHi8のテープが入ったままだった。最後に撮影した日はいつだったのか、なにをこのカメラで撮影していたのか、全く思い出せない。作動しないカメラからテープを抜き取るのがこれほど大変だと思っていなかった。テープががっちりと機械の中に喰い込んでいてどうしても外れない。どうせ捨てるのだと思い、テープが収納されているカセットを破壊することにした。それでもなかなか出てこないテープ。何が映っているのかわからない半分まで撮影されたテープにどれほどの価値があるのだろうか。荒い息で汗を流しながら小型の8ミリビデオカメラと悪戦苦闘すること15分。結局、力ずくでは無事救出できないと判断。というよりはブッチギレの状態で、もうテープなんかどうにでもなれと、途中から引きちぎってしまったのだった。この8ミリテープも含め20本のテープをDVDに変換するサービスをネットで申し込んだが、1本につき600円でDVDになって戻ってきた。十数年ぶりに液晶テレビで観る長男のビデオはどれもがなつかしく、やっとつかまり立ちしたとき、庭で水遊びではしゃぎまわったり、両手を使って顔中をご飯だらけにした食事風景や幼稚園の入園式や運動会などなど、戻らない青春の日々とともに、今では信じがたいほど愛らしい息子の姿があった。記録することの楽しさと戻ることができない日々への無念な気持ちが入り交る複雑な気分だ。あの悪戦苦闘で切ってしまった8ミリビデオの中身は、幼稚園の卒園式と小学校の入学式という貴重なビデオだった。大人になってこの子供時代の自分の姿をビデオで観たら、どう感じるものなのかちょっと興味が湧いてきた。

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO

 

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