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■よりみち~編集後記
更新日2019/03/07




2019年2月27日-28日にベトナムのハノイで開催された第2回米朝首脳会談は、誰も予想していなかったまさかの結果となった。2018年6月12日にシンガポールで史上初めて開催された第1回米朝首脳会談では、「トランプ大統領は朝鮮民主主義人民共和国に安全の保証を与えると約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた断固とした揺るぎない決意を確認した」ことになっており、歴史的な米朝共同声明を発表した。この功績でトランプ大統領をノーベル平和賞に推薦すると言い出したどこかの総理大臣もいたほど、世界的なニュースになったのだった。それからほんの6ヵ月である。内外の報道機関は当然のごとく、北朝鮮の完全な非核化のスケジュールが示され、アメリカからは経済封鎖の部分的解除と経済支援の開始が宣言されるものと期待していた。朝鮮中央通信も28日に、金金正恩委員長のコメントとして、「今回の会談でみんなが喜ぶ立派な結果が出るだろう、最善を尽くす」と伝えていたわけだが、2日目の2月28日からアメリカ側の態度が突然硬化し、金委員長から笑顔が全く消えた。それまでの融和路線から一気に硬直した態度となって会談が突如終了し、米朝共同声明どころか、早々にトランプ大統領はアメリカに帰国してしまった。

この裏話としてコリア国際研究所の朴斗鎮所長は、今回の会談でアメリカ側は、金正恩委員長が本心から「非核化」しようとしているのか、それとも核を保有しながら「核軍縮」を進めようとしているのかを見極めようとしていたと分析している。トランプ大統領も最初からこの確認のために会談に臨んでいたというのだ。その証拠として、2日目の拡大会議に新たにボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官が参加させたことにあると言う。元CIAのボルトン補佐官は北朝鮮及び韓国から核交渉の強硬派として煙たがられ、警戒されていたため、大統領専用機のエアフォースワンにも同乗しておらず、隠密行動でハノイの個別に来ており、誰も拡大会議に参加すると思っていなかった。そのボルトン補佐官が拡大会議で、北朝鮮が隠蔽してきたウラン濃縮施設の決定的証拠(公表されていなかった分江地区の秘密ウラン濃縮設備の写真と見取図)を提示したのである。北朝鮮の李容浩外相が金委員長の顔色で判断して会談を中止させたというのだが、実際はどうなのかは不明だが、北朝鮮が言うところの「完全なる非核化に向けた断固たる決意」というのは核保有国と認めさせた上での核軍縮交渉に応じるという意味でしかないことが明確になった瞬間で、話し合いでどうにかなるレベルではないことが明らかになったということで、トランプ大統領としても席を立つしかない結論だったということだろう。

日本国内の反応としては、第1回米朝首脳会談での共同声明の「完全な非核化」という内容にマユツバ状態だったわけで、日本が何度も味わった屈辱的な交渉や経済支援と引き換えの人質戦略など、一筋縄ではいかないはずの北朝鮮が、なぜここまで融和的になったのか、北朝鮮国内の経済の困窮によるものなのか、韓国の融和政策が影響しているのか、とにかく平和路線を目指すことは良いことなのだから、トランプ大統領に期待するしかないと思っていた。北朝鮮は破壊予定の寧辺核施設だけの情報を公開さえすれば、とりあえず非核化に向けた行動を開始したことになり経済封鎖が終わると確信していたのだろうが、CIAなどが隠蔽されていた分江地区の地下高濃縮ウラン施設の情報をすべて握っていたわけで、これで米朝共同声明は全く意味がなくなったのだ。すべて白紙に戻った状態ではないが、北朝鮮の完全なる非核化は全く考えていないことが分かった以上、いくら言葉だけで約束をしても誰も信用しないわけで、北朝鮮の今後の動きがとても注目されている。(越)

 

 

 


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