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■よりみち~編集後記

 

更新日2013/03/07


アメリカの『TIME』誌(アジア版;2012/12/17号)の表紙タイトルが、“Japan moves right”(日本が右傾化している)とあり、ちょっと驚いた。アジア諸国を含め、海外でも日本のタカ派の動きを心配しているようだ。TIME誌がトップタイトルで、日本が“右傾化”と書き立てることに、ひょっとして「戦争を煽っているの?」と思えるほど、右翼的な言動や領土問題への政治家の微妙な発言など、いつの間にか始まった過激な憂国論にも、すでに慣れてきてしまっている感がある。時代の流れと言ってしまえば話は早いのだが、どうも国家的な経済問題と憂国的な右傾化というのは比例するように密接な関係にあるように思える。3・11の地震と津波、そして未曾有のフクイチ原発のメルトダウンで、あれだけ日本全体が打ちのめされ、絶望感を味わい、東北の復興が進まず、フクイチも収束どころか、放射能汚染の封じ込めさえ遅々と進まない現状があり、その一方で、民主党の大敗北による自民党で一回死んだはずの?安倍政権の返り咲きがあり、デフレ脱却を目標にした強攻突破方式によるアベノミクス政策で、バンバンと紙幣を市場に流そうという考え方で、原理的には経済を成長させる考え方なのだろうが、まるで第二次世界大戦前夜のようなデフレのために中国を侵略した時代とオーバーラップしてしまうほど、時代的な雰囲気が似ている(当時は生まれていないので実感としてではないのだが、行き詰まり感が当時に近い感じがする)ように思えるわけで、海外で日本の将来を心配するのも当然のことなのかもしれない。
「Japan as No.1」の何でも日本人が礼賛されたあの経済成長時代から一転して、「Japan Passing」の経済低迷期を迎え、成長がピッタリと止まった日本の次の一手が全く見えなくなっていた矢先に、あの2年前の悪夢、3・11である。地震と津波の被害だけでも、とんでもないダメージだったところに、さらに追い討ちのようにフクイチ原発事故まで発生したわけで、日本の誰もが、あの時の感覚として、「日本はひょっとしたらこれで終わってしまうかもしれない」と思ったはずだ。もしもあの時、フクイチのメルトダウンが大爆発を引き起こしていたら、日本には誰も住めなくなって、多くの人が流浪の避難民となっていた可能性もあるわけで、フクイチの原発事故は地球に対する警告だったようにも思える。原発から出される核廃棄物というゴミ処理の問題を世界中の英知を集めても解決できていないという現在の科学技術では、トイレのないマンションに住み続けるようなものであり、いずれは自らの糞尿で自己崩壊することは明白であり、世界中に核からの卒業を促す結果となっている。
3・11は日本だけでなく、世界的に今までの価値観から脱皮して、新しい価値観に向かうことを促す契機になっているように思える。欧米諸国ではすでに脱原発をいち早く決定して、持続可能な自然エネルギー路線に舵を切り始めている国が多々あり、少なくとも原発を未来のエネルギーと考えている国はどこにもない。当事国の日本だけが、目先の経済問題に執着して、原発再稼動をお経のように唱えて、国際社会からも孤立しようとしている。地球で唯一の被爆国である日本が、3・11の当事国でありながら原子力にしがみつく姿は欧米諸国には理解しがたい存在になりつつある。それに輪をかけての“右傾化”である。日本がどこか狂ってきたと観るのが海外の冷静な判断ではないだろうか。確かに中国や韓国、そして北朝鮮によるこの混乱した弱体化してきている日本に対して、今が日本の覇権を奪い去る最大のチャンスとばかりに、追い討ちをかけるような威嚇的な行為や軍事的な動きがあるのは忌々しき事態ではあるものの、冷静に考えれば、すべてそれぞれの国が抱える国内事情がそれをさせているだけであり、日本に対してというよりも国内での反撥や反動勢力を抑えるために日本との国境紛争や関係悪化に眼をそらすための材料に使っているように見受けられ、日本が過剰反応すればするほど、それぞれの国内情勢が安定するという効果が得られるわけで、日本政府としても国内情勢の不安定さを国境紛争にすり替えるために活用しているようにも思える。憲法改正問題をこの難局の時期に持ち出すこと自体がその証拠でもある。右傾化することにより問題が山積する国内問題から国境紛争や国際問題へと国民の眼を向けさせ、やり過ごそうとしているようにも思えるが、それがとても危険なことは過去の日本が証明していることだろう。右傾化による国際社会からの孤立だけは避けなければ、日本の未来はないと思える今日この頃である。(越)

 

 

 


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