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■現代語訳『枕草子』
  ~清少納言の『枕草子』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳
更新日2015/09/03



枕草子  第十五回

その十二  今内裏の東

 今、かりに内裏として用いられている宮殿の東の館は、北の陣と呼ばれている。そこには、とても高くそびえるならの木があって、どれほど高いかは測りようもない、などと言われている。

  権の中将などは、いっそのこと根本から切り倒して、あの背の高い定澄僧都(じょうちょうそうず)が使う枝扇にでもすればいいじゃないか、などと減らず口をお叩きになっておられたけれども、その定澄僧都さまが転任され、山科寺、興福寺の別当におなりになられることになって、そのお礼のために宮中においでになられたその日、宮さま付きの近衛司の権の中将さまも、当然のことながらその場にいらっしゃられたけれども、宮さまがお出ましになられてみれば、ただでさえ背の高い定澄僧都さまが、底の厚い、とても高いお履物を召しておられて、あんまりお高く見えたものだから、お帰りになられてから、私がつい、権の中将さまに、どうしてあなたさまがおしゃっておられた枝扇とやらを、お土産にお持たせになられなかったのですか、と冗談を言うと、なんとまあ物覚えのいいことよ、とお笑いになられた。

 定澄僧都さまに(うちき)なし、すくせ君に(あこめ)なしとは人さまは言うけれど、たしかに、背の高い定澄僧都さまが衣の下に着てちょうど合うような袿もなければ、背の低いすくせ君にぴったりの衵もないと思って、面白かった。

 

 

 

※文中の色文字清少納言が用いた用語をそのまま用いています。

 

 

 


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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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詩人、ヴィジョンアーキテクト。言葉、視覚芸術、建築、音楽の、四つの表現空間を舞台に、多彩で複合的なクリエイティヴ・表現活動を自在 に繰り広げる現代のルネサンスマン。著書として『アトランティス・ ロック大陸』『鏡の向こうのつづれ織り』『空間構想事始』『ドレの神 曲』など。スペースワークスとして『東京銀座資生堂ビル』『LA ZONA Kawakasi Plaza』『レストランikra』などがある。
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