枕草子 第五回
その五 四月、祭りの頃
四月、賀茂神社のお祭りの頃も、とっても素敵。お国の政(まつり)ごとをとりおこなう参議(さんぎ)のなかでもお位の高い殿上人(てんじょうびと)の上達部(かんだちめ)の方々が、ほんのわずかな色の濃い薄いはあっても、同じような白地の薄い重ねの白襲(しらがさね)をお召しになられて、いかにも涼しげなご様子なのがとってもいい。
木々の木の葉も、まだそんなには茂っていなくて、若々しい緑色が、霞みも霧もない空に映える景色は、どうしてかはわからないけれども、なんとなく心地がいい。
少し雲が出てきた夕方や夜などに、人目を忍んで姿をかくした郭公(ほととぎす)の鳴き声が、遠いところから、もしかしたら空耳かな、と思ってしまうほどにかすかに聞こえたりなどしたなら、どんな気持になるでしょう。
祭りも近づいて、青みがかった枯れ葉色の青朽葉(あおくちば)や、二藍(ふたあい)の生地の反物を、さっと紙につつんで、あちらこちらへと、行ったり来たりするのは、本当に楽しい。そんなときには、上の方を薄く、下の方を濃く染めた裾濃(すそご)や、ところどころをぼかして染めた斑濃(むらご)の生地なども、なんとなく普段よりは素敵に見える。
小さな女の子たちが、頭はちゃんと洗っておめかししているけれども、着ているお召しが、あちこちほころんで、ほどけそうになっていたりして、なかにはいまにもばらばらになってしまいそうだったりしているのに、早く下駄の鼻緒をすげ替えて、履物の裏地を取り換えてなどと大騒ぎして、早くお祭りの日が来ないかと、あせっていたりするのが、とっても可愛い。
そんな、なんだかあやしげな踊りを踊りながら、さかんに路をねり歩いたりなどしている子たちだって、ちゃんと装束(しょうぞく)を着たりなどすれば、まるで、祭りの日に行列の先頭を香炉を持って歩く定者という法師のように見えるのだから面白い。
そんなようすがいかにも心もとなくて、ほんとうにもう、いいかげんにしなさいねと、親やおばさんやお姉さんたちが一緒に、妙なことになったりしないように心配しながら、子どもたちのそばについて歩いたりするのも面白い。
宮中で貴人のお世話をする蔵人(くろうど)になれたらと思ってはいても、そんなすぐにはなれそうもない人が祭りの日に、その日ばかりは身につけることを許されている青い色の袍(ほう)を羽織ったりなどしていて、そのままずっと、それを着ていられるようならどんなにいいでしょう、と想ったりもするけれども、かといって、それでも着てはいけないことになっている、絹の綾織物を身につけている人がいたりするのは良くない。
※文中の色文字は清少納言が用いた用語をそのまま用いています。
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